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第100話 桐生社長サイド<事務所の賭け>
ランチから帰ると、すぐ大広間で打ち合わせをした。
前にやったコンサートとはいえ場所が狭いし、ライトなどの制限が厳しい。
しかし、事務所としては勝負する。
今回の経費をつぎ込んだからと言って、事務所がどうこうなるということはないが、一応浅田社長へは電話で事前に許可を得た。
「へえ~、わざわざモナコに行くのか?それで採算は取れるのか?」と浅田社長。
「正直、分かりません。でも今回はモナコの5つ星ホテルのアメリカンバーです。
場所は小さくても観客は世界の富裕層です。一か八か掛けてみる価値はあります。
これも颯太さんの運じゃないかと思っていますが、一晩で2曲歌っただけで支配人がオファーしたんです。
感動したんだと思いますよ。
颯太さんは日本のコンサートは絶対嫌だと言っていたのに、なぜかモナコでは一人で3日間も引き受けたんです。
それが不思議です。
なにかコートダジュールの空気が合うのかもしれません。
ちょうど達也がパリにいるので、モナコに呼んで二人で前回のコンサートを再現してもらって、事務所の命運を賭けます」
「ほう~、はっはは、まあ好きにやってくれ」と社長。
相変わらず浅田社長は太っ腹だ。
うちの事務所で一番売れているのは<ヴォクシブ>だが、アメリカで活躍している。
ヨーロッパは全く圏外だ。
ここを突破したい。
それも一般向けにはしない。
プライベートな空間で、富裕層向けに価値を上げて二人の才能を無理なく開かせる。
洋服でいうと、オートクチュールのようなものだ。
二人は量産品には向いていない。勿体ないんだ。
俺は二人の才能を信じる。
赤字で終わってもいい。
いつかどこかで観客が思い出してくれたら、きっと糸が繋がるはずだ。
この3日間に全力を尽くして賭けよう。
ここへ到着すると、真っ先にバーを見に行った。
狭すぎる。ちょっとした台はあったが、グランドピアノが邪魔して、あとは歌手なら2名か。
ドラムとギターが2名入ると、歌手は台からはみ出して1名がいいとこだった。
支配人にスタッフを紹介して、場所をもっと融通してくれるようにお願いした。
前の演奏会の動画は事前に送っていて、説明を添えていたから、支配人も方法を考えてくれたようだった。
ショーは90分にして、一晩で1回だけ。
普通のコンサートのスタイルで席は予約制。
ドリンクやフードのサービスはコンサート開始までに一旦終わらせる。
グランドピアノを皆で台から降ろした。
これで狭いながらダンスができる場所が出来た。
それでも狭いので、小さくしか動けない。それはしょうがない。
フォーメーションがうまくいくだろうか?不安だ。
プロジェクションマッピングは50キロ以上する為に、カンヌの業者に依頼。
機械にはスタッフが付随するらしく、あちこちにセットしてくれた。
宴会場では、ロニー先生が颯太さんと達也、そしてダンサーたちとリハーサルをしていた。
「社長、観客に配布するプリントはこれでいいですか?」
三谷さんが見せてくれた。
アニメプラスの紹介と母体である浅田工業の紹介。
夏輝理事と社長が二人で撮った写真が入っているし、俺も単独で入っている。
それと達也と颯太さんの略歴や紹介記事。
それぞれの旦那さんの職業も入れておいた。これも重要だ。
シンプルにしたが、英語とフランス語の両方で書かれている。
一番重視したのは、それぞれの身元の紹介だ。
ヨーロッパの富裕層向けのプライベートなエージェンシーなら、タレントや事務所の確実な身分が保証されなければ誰も使わない。遠く離れた日本だからなおさらだ。
こちらは彼等にとっては未知の人間だ。
支配人がバーに様子を見に来た。
コンサート用にテーブルとイスを並び替えている。
これは前代未聞で初めてのことらしい。
バーの入り口で予約を確認するそうだから、達也や颯太さんの大きな写真を置き、プリントを置いてもらい、観客に配布してもらう。
それとアニメプラスの招待客がいるので、予約席を用意してもらった。
今夜は急なことだったけど、数社の会社にメールと電話で招待を知らせた。
「来れたら数名で気楽に聴きに来て欲しい。飲食は無料です」
さて本番はどんなことになるだろう。
宴会場に戻って練習の様子を見るとしよう。
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