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木田 智之(きだ ともゆき)視点
大学の食堂は、今日もガヤガヤとした話し声で埋め尽くされている。
いつもと同じ壁際の席で、俺はいつもの男友達2人と一緒に昼飯を食っていた。
テーブルの脇を通る猫族の女子が通りすがりにヒラヒラと手を振る。
それに同じテーブルの|冴島《さえじま》が妙に親しげに手を振り返した。
「昨夜は結局、あの子を連れ帰ったのか?」
俺の言葉に、冴島はニヤッと口端を上げて答えた。
「おう。たまに違う種族とヤると新鮮でいいんだよな。人間ばっかだと飽きてくるっつーかさ」
「異種姦か……あんまり興味ないな……」
正直、あれこれ違う種族と関わるのは面倒そうだ。
種族が違えば触っていいとこだとかダメなとこだとか、そういうのも全部違うだろ。
「つーかお前はそもそも恋愛に興味がねぇんだろ」
言われて、そうなんだろうか、と考える。
これまで確かに恋愛経験はないが、別に興味がないわけではない。
縁がないだけだ。
俺達の会話に、テーブルにいるもう1人、キトが言った。
「人間の交尾ってそんな飽きるくらい長いんだっけ? 僕なら1分もかかんないよ」
俺は、隣でそう言った鳥族の友人を改めて見る。
キトは鳥族らしい長いまつ毛に黒目がちな瞳をしていた。
嘴は退化して何となく名残を残すのみで、ちょろっと見える黄色い冠羽と真っ白で撫で心地の良さそうな翼と尾羽以外は、人っぽい見た目の男だ。
俺達より20センチほど背は低いが、キトの種族の中では平均的な身長らしい。
「1分!? お前早漏過ぎんだろっ」
冴島がゲラゲラ笑い出すので、キトはムッとした顔で答える。
「鳥族なら1分でも長い方だよ。大体そんなことに時間をかけるなんて時間の無駄じゃないか。さっさと済ます方がいいだろ?」
キトの言葉に、俺はようやく思い出す。
「あー、そういや鳥族って陰茎がないんだっけな」
「は!? お前ちんこなかったのかよ!」
冴島の叫びに近くのテーブルから視線が集まる。
冴島、頼むからそんな単語を大きな声で言わないでくれ。
「あ……悪ぃ」
冴島も周囲の視線に気づいたのか、口を押えて首をすくめる。
「けど、ちんこがないなら……どうやってするんだよ」
その話はまだするのか。
こんなにいい天気の、明るい昼間の学食で。
冴島にヒソヒソと尋ねられて、キトが面倒そうな顔をしつつも答える。
「穴と穴をくっつけるだけだよ」
「穴……」
冴島が、ごくりと喉を鳴らす。
おい、お前の思うような穴じゃないぞ。
「鳥族は排泄口は1つだけなんだよ、そこから人間で言う大便も小便も精液も全部出んの」
キトが黒目がちな瞳を半分にしてうんざりと言う。
「はぁぁぁぁあ? 尻の穴から出んのかよ……」
「女も鳥族なら穴は一つだぞ、卵もそっから出るだろ」
「げ……マジかよ……、うんちと卵って同じ穴から出んの……?」
冴島は初めて知ったみたいな顔をしている。
「むしろなんで知らなかったんだよ」
キトの言葉に俺はうんうんと頷く。
そこは養鶏も同じなんだから、そこそこの奴が知ってると思うぞ……?
「なんだよ|木田《きだ》も知ってたのかよ」
木田というのは俺の事だ。
「あー……つーかキトはちんちんついてなかったのか……。そんで、穴が1個だけ……」
冴島は何やらぶつぶつと事実を噛み締めている。
「いや俺さ、キトって顔も可愛いし、目も大きくてクリクリしてて可愛いと思ってたんだよな」
いきなり何の話だ。
「木田もそう思うよな?」
「え? あー……、まあ、確かに可愛いとは思うけどな」
急に話を振られて、俺は曖昧に同意した。
冴島は、なぜかヨシヨシとばかりに満足気に頷いて、言った。
「なあお前らって今日放課後ヒマ? ちょっと俺ん家寄らねぇ? 美味いもん食わしてやっからさ」
***
異種族間の交流が始まってもう50年。
はじめの頃は相当ごたついたらしい法回りもなんとか落ち着いてきた近年、俺の通う大学の学生も1割ほどは異種族人だったりする。
異種族間恋愛だとかにも賛成派や反対派が存在しているのは知っていたが、俺はその辺どうでもよかった。
他人の恋愛に口を出すほどの興味もない。
自分のこととなれば多少は話も別だが、今年で20歳になる俺には、いまだに彼女どころか好きな相手すらいなかった。
貧乏学生の俺とキトは、すっかり『美味いもん』という単語に釣られてしまった。
何せ冴島は金持ちだ。
そして冴島は学校から歩いて5分の場所にあるマンションの一室で一人暮らしをしていた。
これまでも勉強会やらグループワークの集まりで冴島の家に遊びに行くことは度々あったので、うっかりしていた。
俺達は、冴島の誘いを、その直前の会話と繋げて考えていなかったのだ。
少しだけ勉強をしてから、冴島の頼んだ出前で腹一杯になった俺達に冴島はガンガン酒を飲ませた。
冴島の家で宅飲みすることも、そのまま家に泊まることも、これまでにもあった。
だから俺達は、それに何の疑問も持たなかった。
もう少しよく冴島を見ていれば、冴島が飲んでいる缶のほとんどがノンアルコールだった事にも気付いただろうに。
冴島が普段と同じように俺達と飲んでいると、なぜ思い込んでしまったんだろうか。
酔いつぶれて眠った俺が目を覚ました時、リビングの明かりは消えていた。
ソファで寝ていた俺にはちゃんと毛布がかけてあった。
冴島かキトか、どちらにせよありがたい。
外はまだ真っ暗だ、夜中なのだろう。
寝直そうと目を閉じた俺の耳に、微かに声が届いた。
俺はもう一度目を開く。
そういやキトが居ないな。
いつもならキトもこの向かいのソファで寝てるはずだが、まだ2人は起きてるんだろうか?
このリビングじゃない所で?
この家にはこの広いリビングダイニングキッチンと風呂場とトイレ以外には、冴島の寝室しかなかったはずだが……。
俺はそろりと起き出して、声のする方へと向かう。
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