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第9話
坂本は整えられたベッドに横になり映っているテレビを見ていた。数時間の間にすべてが変わった。セックスの役割も、不能になったと恐怖していたことも、断ち切った関係も。
グズグズと溜まっていた不安が消え、随分気持ちが軽くなったように思う。身体は怠いが……そう考えてクスリと笑みが浮かぶ。
宮田は役割がどうであれ対等だと言い切った。受け入れる側だとしても受け身ではないという考え方が坂本にはなかったから新鮮だった。
そして相手に身を委ねるという意味も。身体の奥まで探られ揺られる。制御の効かない自分の身体が蕩けてしまうから、しがみ付くしかない。プライドという鎧がなくなったむき出しの己はある意味自由だった。今まで知らなかった快楽の道筋も見えた。
肩の力を抜けば見えなかったものが見え、違う感じ方ができるのかもしれない。
「ただいま。ビールとつまむものを買ってきましたよ」
マメな男だ、そして若く体力がある。だらしなくベッドにいる自分とは大違いだと坂本はあらためて実感した。
「こんなに甘やかしてどうする」
宮田はニカっと笑って言った。
「外では今まで通り厳しい男でいてください。貴方が甘えていいのは俺だけです」
「遥祐 」
「はい?」
「俺が甘え下手なのは遥祐のせいでもある」
「どういうことですか?」
「一回りも違う相手が「貴方」「坂本さん」と呼ぶからだ。その度大人でいなければと思ってしまう」
「え……あの」
ベッドの上から手招きすると宮田は恐る恐るといった足取りで近づき坂本を見下ろした。
「義之でいい」
「よ……よしゆき」
宮田の顔が真っ赤に染まる。坂本は苦笑いしながら宮田の手をとった。それが合図のように宮田の身体が坂本に覆いかぶさる。
「……義之」
「遥祐」
ギュウとしがみ付かれ、これではどっちが甘えているのかわからないと坂本の苦笑は続いた。きっとこれから二人の関係は違った形に変わるだろう。それを二人で確かめるのも悪くない。
愛しい男の重さに安堵し抱きしめる。坂本の苦笑は柔らかい微笑みに変わった。
End
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