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第8話
腰の立たない坂本をバスタブの縁に座らせ身体を洗い、程よい温度の湯船に沈めた。その後部屋に戻りベッドのシーツを剥ぎ洗濯機にいれてスイッチを押す。鳥肌をたてながら浴室に入り手早く体を洗ったあと向かい合うポジションで湯船につかった。
予想どおり坂本は宮田を見ようとせず、億劫そうに湯の中に座わり何も言わない。
「もっと早くこうするべきでした。何と言っていいのかわからずにいたら、まさか逃げ出すなんて」
坂本は動く気配がない。
「ストレス、疲れ。要因は色々ありますよ。中折れしたからって……」
「うるさい!」
声を上げた後坂本は両手で顔を覆った。勃起するが持続せず力を失う。坂本に起こったことが全ての原因だ。宮田は慰めることを躊躇し、自己完結した坂本は姿を消した。
宮田は坂本をグイと引っ張り胸の中に閉じ込める。
「離せ!」
口調は強いが怠いせいで動きに力がない。だからいっそう強く抱きしめる。宮田がやめるつもりがないことを悟ったのか坂本の身体から力が抜けた。
「今日は何回もイケましたよ。それにちゃんと勃った。精神的なものです。サプリメントだってあるし手立てはある。さっきのように俺が抱けばいいだけのことです」
「違う。何もわかっていない」
「わかっていないのは貴方です!」
宮田は坂本の両肩を掴み胸から引きはがした。
「何を拘っているんですか?セックスの役割がそんなに大事ですか?挿入される側は立場が下とでも?弱いとでも?俺達は男です、上も下も強いも弱いもない。社会人としては貴方に比べれば未熟者だ。でも今こうして二人でいるときは同じです、違いますか?」
坂本の力ない指先が宮田の腕に触れる。それをしっかり握り両足を絡め坂本を抱き寄せる。
「一緒に過ごす時間が重なれば変化は当然です。俺も貴方も歳をとる。どんな風に変わっても俺と貴方、二人のことです。それを勝手に自分で決めていなくなるなんてあまりに酷い。今日の俺も度をこしていたのは認めますが、お互い様です」
「……悪かった」
「俺を抱けるようになったら抱けばいい。できない時は俺が貴方を抱けばいい。それだけのことです。貴方に会えず二人の間にセックスがなくなることのほうが嫌です。それとももう俺のことはいりませんか?顔も見たくない?」
坂本の目が見開かれたあと、首が横に振られる。
「次は逃げ出す前に言ってください。俺は追いかけますからね」
「次は……言う」
宮田がきつく抱きしめても坂本はされるがままだった。
「素直な貴方はかわいいです」
「ふざけるな」
背中をパシンと叩かれたが、宮田は自分の表情が綻ぶのがわかった。仕事ができて格好いいくせに不器用。それをかわいい以外にどう表現しろというのか。
「怒ってないのか?それに許せるのか?俺のことを」
「怒りましたよ、最初はね。許すも許さないも俺がここにいることが答えです。じゃあ俺も聞きます」
「なんだ?」
「電話もメールも繋がらなかった。でも電話番号を変えなかったのは探してほしかった?」
「いや違う……だが」
「だが?」
「全部断ち切るのは無理だった。何か一つぐらい……残しておきたかった」
宮田は噛み付くようなキスを坂本に仕掛けバスタブに身体を押し付けた。いくら貪っても足りない気がして夢中で舌と唇を動かす。坂本の手が反応しかけた宮田の股間を力いっぱい握った。
「なっ!イタっ!」
「がっつきすぎだ……少し眠らせてくれ」
今にも閉じそうな瞼をゆるゆるさせている顔をみてようやく宮田は坂本を離した。二人揃って逆上せてしまっては意味がない。宮田は仕方なく坂本を抱えて立ち上がった。
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