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第2話 達也サイド<舞台で新人歌手・初披露>
当日、ホールに着くと、まず楽屋に案内された。
「これを着て歌ってほしいんだって。
間に合わせの衣装だけど、サイズは合うと思うから着てみて」
マネージャーの佐々木さんが袋を渡してくれた。
中には、黒の少し光沢のある生地のぴったりしたパンツ。
白い柔らかいシャツは袖にたっぷりドレープが入っていて、
襟元はボタンを三つ開けて素肌を出し、
シルバーの大ぶりのチェーンを二重に掛ける仕様。
手首にもシルバーの太いチェーンのブレスレット。
……なんだか恥ずかしい。
パンツは伸縮性があって動きやすいけど、中心が気になってしょうがない。
これを舞台で着るのか……?
「あのう、佐々木さん。着てみたんですけど……パンツがぴったりで、
中心が気になって委縮しそうです。こんなんでいいんでしょうか?」
佐々木さんは一瞬で俺の股間に視線を落とし、ぷっと吹き出した。
「駄目だよ、そんなこと気にしてたら舞台に立てないよ。
気になるなら、あとでダンスベルト買って来るから、今日は我慢ね。
ライトが当たったら、みんな君の顔しか見ないから平気。
全然目立たないよ。分かった?」
「はい、分かりました……」
自分でも笑えてきた。
俺、バカだ。
舞台の袖に立つと、客席はすでに暗くなっていた。
本格的だ。怖い。
佐々木さんに「行って」と背中を押された。
俺は習ったウォーキングを思い出しながら、舞台中央へ歩き、お辞儀をした。
強すぎるくらいのスポットを浴び、自分が浮かびあがったような気がした。
前奏の美しい調べが流れ始める。
練習した通り、前奏の振りから静かに入った。
光が変わり、青いスポットライトを浴びると、世界が自分一人だけになった。
1番__
♪うつむいたまま歩いてた
誰にも見つからないように
胸の奥で小さく揺れる
消えそうな願いを抱いて♪
振りは小さく、そこから少しずつ手を伸ばしていく。
ライトに照らされて温かい。
自分だけの世界__気持ちいい。
間奏。
一歩下がりながら踊りで魅せる。
2番__
♪鏡の前で立ち尽くす
弱さばかり目について♪
歌詞の心情を思い浮かべ、表情に乗せる。
大きな間奏。
俺は思い切って踊った。
3番前のポーズで一瞬止まる。
3番__
♪ここから見えて来た光に向かって行く♪
手も身体も大きく使い、表情も希望に満ちていく。
最後は両手を大きく広げて、
音の余韻が消えるまで__そのまま静かに立っていた。
静寂__何も音がしない
……え?
次の瞬間、大拍手が起きた。
ええーー? そんなに人がいたの?
客席のライトがパッと点いた。
わあ……本当に“総出”だ。
知らない人までたくさんいる。
誰なんだろう……?
「ありがとうございました!」
何度もお辞儀をした。
夏さんと桐生社長がやってきた。
他の人もぞろぞろと続く。
「いや~見違えたよ。
この大舞台でこれだけのパフォーマンスができるとは。すごく良かったよ」と夏さん。
夏さんはビジネスとしての大成功を確信してくれたような笑顔だ。
「本当、まるでデビューショーだった。よく頑張ったね、達也」と桐生社長。
桐生社長は、俺を手放しで褒めてくれて、優しい眼差しを向けてくれた。
もう、照れまくりだ。
「今日は色んな人を紹介するね。
カメラマン、スタイリスト、動画編集者、雑誌編集者。
作詞家、作曲家、みんな君のデビューを支える人たちだよ」と桐生社長。
「皆さん、どうぞよろしくお願いします」
深くお辞儀をした。
テレビ局の人までいた。
ええ?なんで?早すぎるよ……。
不安になって佐々木さんを探すと、すぐ後ろで微笑んで見守ってくれていた。
俺もなんだかホッとしてしまい、笑顔が隠せない。
その後、ホール上の会議室に移動。
来てくれた人たちが、黒山の人だかりの中で、あっという間に俺のスケジュールを組んでいく。
スタイリストさんは俺のサイズを測りまくり、帽子を何種類も被せて確認。
「衣装だけじゃなくて普段着も用意します。
今後は用意された服以外は外で着ないでくださいね」とスタイリストさん。
「はい、わかりました」
驚いた!私服まで気を使うんだ。
もう短パンで外に出られない……。
颯太さんと立花先生も来てくれた。
「達也君、すごかったよ。短期間であんなに上手くなるなんて。
偉いよ、頑張ったんだね」と颯太さん。
「颯太さんのお陰です。本当にありがとうございました」
心から伝えると、颯太さんがハグしてくれた。うれしい。
立花先生も「カッコよかったよ~」と褒めてくれた。
ミツワの広報の人たちも来ていた。
「達也さんすごかったね。カッコよかったよ~、
もうどんどんファングッズを作っちゃうからね!」と広報の人。
え、俺で大丈夫か?
でも、「どうぞよろしくお願いします」と挨拶した。
その後は言われるままに、ポーズを取って写真撮影。
終わってホールを出たのは13時過ぎ。
車に乗ると、ようやくホッとした。
「今日は菜の花弁当の支給があったから、もらってきたよ」と佐々木さん。
「あ、うれしい。もう懐かしいですよ」
でも緊張していたせいか、お腹は空かなかった。
帰ったら、ゆっくり味わおう。
今日の喜びを噛みしめながら。
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