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第3話 夏輝サイド<吉沢達也・披露の舞台裏>
吉沢達也をレジデンスから恵比寿のマンションに急いで引っ越しさせた。
専属マネージャーにした佐々木さんはベテランだ。
桐生さんの紹介だけあって、安心して達也のすべてを任せられる。
そして明日、達也を舞台で初披露する。
突然の連絡だったが、関係者に連絡して『きらら小ホール』に集まってもらう。
これから売り出す達也のステージを見てもらい、
歌手デビューをさせるためには、力を貸してもらわないといけない。
「理事、トレーナーたちが初披露にふさわしいように、
曲に合わせて振りを教えてくれたそうですよ」と桐生さん。
「良いねえ。本当にプロというのは安心してタレントを任せられるよ。
達也はにわか仕込みだけど、明日こそ本当の実力が出る日だ。
もう俺は達也の実力に任せたよ」
プロのトレーナー達がお墨付きをくれたんだ。
こんなに心強い保証はない。
「ええ、私も彼を信じますよ」
と桐生さん。
当日になった。
ステラビートはいつもより30分早く、8時半から4階のきららシアターホールでダンスレッスン。
そして達也は5階のきらら小ホールで、9時から関係者にデビュー曲を初披露する。
ステラビートとの接触を避けるためだ。仕方ない。
急なことで、達也の衣装まで用意できなかったので、
スタイリストに倉庫を覗いてもらい、適当に衣装を選んでもらった。
あとはスタッフに任せ、事務所や関係者は客席で見ることにした。
作曲家の森戸由貴さん、作詞家の木内真亜子さんも来てくれて、
「新人が歌ってくれるって、なんだかドキドキしますね。どんな感じなんだろう?」と森戸さん。
「歌詞が暗すぎなかったかな?ちょっと心配なんだけど」と木内さん。
立花先生と颯太さんも微笑みながら会場に入ってきてくれた。
「もう達也君のデビュー曲が決まったんですねえ。
早いなあ~。ありがとうございます」と颯太さん。
いやいや、あなたの善意がこのスピードを決定づけたんですよ、と俺は内心苦笑した。
その結果が、今まさに目の前で証明されようとしている。
スタッフに頼んで、舞台のライトを本番と同じ仕様にしてもらった。
真っ暗な舞台に、スッとライトが当たる。
同時に達也が中央へ進み、深くお辞儀をした。
あれ……? 歩き方が、以前と違う。
重心が整い、実にスマートだ。
前奏が流れると同時に、彼は振りを始めた。
もう、そこには“歌の世界”が完成していた。
「歌の世界観を重視して振り付けました」と三角先生や広野先生が言っていた通り、まるで一本の映画を見ているような錯覚に陥る。
間奏の間もブレず、美しい顔立ちで物語の世界に入り込んでいる。
澄んだ歌声。
特に“切なさ”の表現が秀逸だった。
俺は、ただただ圧倒されていた。
想定外の仕上がりじゃないか。
隣の桐生さんを見ると、満面の笑みで「参りましたねえ」と呟いた。
俺は逆に、颯太さんの才能に負けた気がした。
彼には、達也の輝く未来が最初から見えていたんだろうか?
本当にアーティストの感性には敵わない。
あ、俺もアーティストの一人なんだけど……我ながら情けない。
舞台が終わり、みんなで彼を取り囲む。
森戸さんも木内さんも大満足の様子だ。
何より、本人の晴々とした表情が一番良かった。
そのまま会議室へ皆で移動し、スタッフたちと今後のスケジュールを詰めていく。
森戸さんと木内さんには、さっそく次の曲を5曲ほど発注した。
もしコンサートが決まれば曲数が足りなくなるが、その時は名曲のカバーで凌げばいい。
実は、この場には桐生さんの紹介で、テレビ局の知人も呼んでいた。
「CMに新鮮な顔が欲しい」と広告代理店から頼まれているそうで、候補を探しているという。
彼は舞台が終わると早々に帰ってしまったが__結局、どう思ったんだろう?
マジで、気になる。
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