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第6話

 それから二十年の月日が流れた。トーマは久我柊真(くがとうま)として黒松の会社で働くようになり、今では営業部長として右腕のような存在にまでなっている。実際に会社への貢献度は高く、他の従業員たちからも一目置かれていた。  初めは、いつでも一緒にいられるからと要職に任命した黒松も、柊真の活躍ぶりに目を細めている。 「君はやっぱり、僕が見立てたとおり、根が真面目なんだよ」 と、口癖のように繰り返していた。  黒松の家族と顔を合わせる機会も多い。優しくてしっかり者の奥さんに、人懐っこい子供たち。もちろん、柊真が今でも時々、先輩になり切って黒松を抱いていることは知らない。それでも奥さんは 「いい加減、久我くんも結婚しなければいけないわね。私が良い子を探してあげるわよ」 と、ニヤニヤしながらのたまってくる。黒松は顔を顰めながら 「余計なお世話だよ。久我くんも困っているだろ」 と、窘めるのだった。  今日は出張という名目で、二人は東京から遠く離れたところに来ていた。運転するのは黒松。柊真は後部座席で窓に流れる景色を眺めている。長い道中、会話はほとんどしなかった。  やがて、車は高いコンクリート壁のある建物の前で停まった。柊真は腕時計を覗き込んで時間を確かめる。前もって調べたとおりなら、もうすぐ十条が正門から出所するはずだった。  そして、奥の建物の自動ドアが開き、大きな人影が現れる。陽の光に照らされて柊真はそれが十条だと気づいた。  迎えに来た付き人に支えられながら歩みを進める。その姿はどこかぎこちなく、時折よろめいてもいた。髪の毛はすっかり薄くなり、歯が抜けたのか口元に皺が寄っている。瞳の輝きも薄れてかつての鋭さはない。すべてが二十年の時間以上に十条を老人に見せていた。  十条は付き人の車に乗り込むと、柊真たちには気づかず去っていった。柊真の目から静かに涙があふれ出す。黒松がいるのに嗚咽が止まらない。 「……人って、変わってしまうものなんだよ。僕も柊真くんもね」  そう言って、黒松は車のエンジンをかける。そして、十条たちとは逆方向へハンドルを切った。 「でも、僕は幸せだよ。柊真くんがずっとそばにいてくれたんだからね」  まるで独り言のように黒松は続けた。そう。柊真だって黒松がそばにいてくれたからこそ、今まで何の不自由もなく、こうして遠く離れた十条に会えて、見送ることができたのだ。 「……ごめんなさい。泣いたらいけないですね」  柊真は姿勢を正す。その時にはもう営業部長の顔に戻っていた。あの頃の壊れやすかった砂糖細工の少年はもういない。 「食事でもしようか。メンチカツなんかどうだい?」  車がファミリーレストランの駐車場に停まる。柊真は後部座席から運転席の黒松へ腕を回し、周りから気づかれないようにそっと抱きしめた。 「大好きですよ。省吾さん」  黒松は答える代わりに、柊真の手を強く握った。

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