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二人の怪物。
「さあ、高校野球最後の夏――決勝戦も九回表を迎えました!」
甲子園に実況の声が響き渡る。
大型ビジョンには、蒼羽学園3-2東海大翔陵。
二死二、三塁。あと一本で試合の流れを決定づける場面。
その瞬間、球場中の視線がひとりの男へ集まった。
「4番、センター。 藍沢陽彩 」
場内アナウンスが響くと、割れんばかりの歓声が湧き上がる。
「高校通算六十本塁打!今大会打率五割四分!高校野球界最強のスラッガー、藍沢陽彩です!」
誰もが知る怪物。どんな投手からも打つ天才打者。それが藍沢陽彩だった。
相手バッテリーがタイムをとる。
マウンドへ内野手が集まり、作戦を確認する。
「ここは敬遠も考えられますね」
「ですが4番との勝負を避ければ、次も好打者です。決勝戦、簡単な選択ではありません」
やがて捕手がミットを構えた。
陽彩は静かにバットを握り直す。
(一本)
余計なことは考えない。
この一球を打つ。ただ、それだけだった。
投手が振りかぶる。
――初球。乾いた金属音が甲子園に響き渡った。
「打ったぁぁあー!!」
鋭い打球は一、二塁間を破り、そのままライト前へ転がる。
二塁ランナーがホームイン。
続いて三塁ランナーも還る。
「タイムリーヒット!!!」
「藍沢陽彩! この大舞台でも勝負強さを見せつけました!蒼羽学園5対2! 全国制覇へ大きく前進です!」
一塁ベース上で陽彩は力強く拳を握る。
ベンチから仲間達が歓声を上げる中、その視線だけはマウンドへ向いていた。
ベンチの最前列。
腕を組んだ朝倉莉珠 が、小さく頷く。
最速156キロ。高校No.1右腕。高校野球界最高の投手。
蒼羽学園には二人の怪物がいた。
◇
九回裏。
「蒼羽学園、悲願の全国制覇まであとアウトひとつ!」
マウンドには朝倉莉珠。
140球を超えているにも関わらず、その表情は静かなままだった。
捕手のサインに頷く。
――振りかぶる。――投げた。
「ストライク!」
球場がどよめく。
「156キロ!!! 最後まで球威は衰えません!!」
追い込まれた打者が大きく息を吐く。
莉珠は帽子のつばへ軽く触れると、再びミットだけを見つめた。
そして最後の一球。
――振り抜く。白球は一直線にミットへと吸い込まれた。
「ストライク!! バッターアウト!!」
主審が右手を高々と突き上げる。
「試合終了ーーッ!! 蒼羽学園、悲願の夏制覇!!!」
その瞬間、ベンチから選手たちが一斉に飛び出した。
「莉珠くーーーん!!!!」
真っ先にマウンドへ駆け寄った陽彩が、勢いよく抱きつく。
「やったね!!!!」
「……重い」
呆れたようにそう言いながらも、莉珠はほんの少しだけ口元を緩めた。
歓声が響く。青空へ帽子が舞う。高校最後の夏。
藍沢陽彩と朝倉莉珠。
高校野球界で〝二人の怪物〟と呼ばれた彼らはこの日、日本一の頂点へ立った。
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