1 / 19

二人の怪物。

「さあ、高校野球最後の夏――決勝戦も九回表を迎えました!」 甲子園に実況の声が響き渡る。 大型ビジョンには、蒼羽学園3-2東海大翔陵。 二死二、三塁。あと一本で試合の流れを決定づける場面。 その瞬間、球場中の視線がひとりの男へ集まった。 「4番、センター。 藍沢陽彩(ひいろ)」 場内アナウンスが響くと、割れんばかりの歓声が湧き上がる。 「高校通算六十本塁打!今大会打率五割四分!高校野球界最強のスラッガー、藍沢陽彩です!」 誰もが知る怪物。どんな投手からも打つ天才打者。それが藍沢陽彩だった。 相手バッテリーがタイムをとる。 マウンドへ内野手が集まり、作戦を確認する。 「ここは敬遠も考えられますね」 「ですが4番との勝負を避ければ、次も好打者です。決勝戦、簡単な選択ではありません」 やがて捕手がミットを構えた。 陽彩は静かにバットを握り直す。 (一本) 余計なことは考えない。 この一球を打つ。ただ、それだけだった。 投手が振りかぶる。 ――初球。乾いた金属音が甲子園に響き渡った。 「打ったぁぁあー!!」 鋭い打球は一、二塁間を破り、そのままライト前へ転がる。 二塁ランナーがホームイン。 続いて三塁ランナーも還る。 「タイムリーヒット!!!」 「藍沢陽彩! この大舞台でも勝負強さを見せつけました!蒼羽学園5対2! 全国制覇へ大きく前進です!」 一塁ベース上で陽彩は力強く拳を握る。 ベンチから仲間達が歓声を上げる中、その視線だけはマウンドへ向いていた。 ベンチの最前列。 腕を組んだ朝倉莉珠(りじゅ)が、小さく頷く。 最速156キロ。高校No.1右腕。高校野球界最高の投手。 蒼羽学園には二人の怪物がいた。 ◇ 九回裏。 「蒼羽学園、悲願の全国制覇まであとアウトひとつ!」 マウンドには朝倉莉珠。 140球を超えているにも関わらず、その表情は静かなままだった。 捕手のサインに頷く。 ――振りかぶる。――投げた。 「ストライク!」 球場がどよめく。 「156キロ!!! 最後まで球威は衰えません!!」 追い込まれた打者が大きく息を吐く。 莉珠は帽子のつばへ軽く触れると、再びミットだけを見つめた。 そして最後の一球。 ――振り抜く。白球は一直線にミットへと吸い込まれた。 「ストライク!! バッターアウト!!」 主審が右手を高々と突き上げる。 「試合終了ーーッ!! 蒼羽学園、悲願の夏制覇!!!」 その瞬間、ベンチから選手たちが一斉に飛び出した。 「莉珠くーーーん!!!!」 真っ先にマウンドへ駆け寄った陽彩が、勢いよく抱きつく。 「やったね!!!!」 「……重い」 呆れたようにそう言いながらも、莉珠はほんの少しだけ口元を緩めた。 歓声が響く。青空へ帽子が舞う。高校最後の夏。 藍沢陽彩と朝倉莉珠。 高校野球界で〝二人の怪物〟と呼ばれた彼らはこの日、日本一の頂点へ立った。

ともだちにシェアしよう!