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いつもの二人
ホテルへ向かう道中。異国の街並みをきょろきょろと見回しながら歩いていた陽彩は、不意にスマートフォンで時間を確認した。
「あ」
午後七時を過ぎている。
日本を出発してからろくに食べていなかった。
「お腹空いた」
思わず漏れた声に、隣を歩く莉珠は足を止める。
「俺も」
短い返事だった。陽彩はパッと顔を上げる。
「ご飯行こうよ!」
莉珠は小さくため息をつき、歩く向きを変えた。
その背中を見て、陽彩は嬉しそうに笑う。
「よっしゃー」
二人はホテルへ向かう前に、近くのレストランへ入ることにした。
◇
「……なんで俺が食べさせないといけない」
「だって僕、今利き手使えないし」
呆れたようにため息をつきながら、莉珠は空いていた四人席へ腰を下ろした。陽彩もその隣へ座り、テーブルへ肘をついてにこにこと莉珠を見つめる。
「ね?」
「なにが」
「食べさせて」
「断る」
陽彩は頬を膨らませ、不満そうに「えぇー」と声を漏らす。
そんなやり取りをよそに、店員が水とメニューを運んできた。店員は二人の顔を見比べると、目を丸くする。何かを思い出したように笑顔になり、流暢な英語で話しかけてきた。
「……?」
陽彩は、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「ごめん、なんて?」
さすがメジャー組。英語はもう完璧だった。
莉珠は店員の話を最後まで聞くと、小さく息を吐いた。
「俺達のこと知ってるらしい」
「え?」
「お前が藍沢陽彩で、俺が朝倉莉珠だろって」
「えぇ?」
陽彩は思わず店員の方を見た。
店員は嬉しそうに何度も頷き、親指を立てる。
「すごい! 英語全然わかんないけど、」
陽彩はにっと笑い、親指を立て返した。
「thank you!」
店員も笑顔で「You’re welcome」と返し、そのまま注文を取り始める。店員はメニューを開き、二人へ差し出した。
陽彩は写真を見ながら目を輝かせる。
「ハンバーガーでかっ」
「そうでもない」
「でかいよ! 僕の顔くらいあるんじゃない?」
莉珠は淡々とメニューを閉じる。
「俺、ステーキ」
「え、もう決めたの」
「迷う理由がない」
「じゃあ、僕は……」
陽彩は真剣な顔でメニューとにらめっこする。
「このダブルチーズバーガー」
「食えるのか」
「これでも僕、身長176センチあるよ」
陽彩は胸を張る。
「……」
莉珠は小さくため息をつくと、慣れた英語で注文し始める。
店員は何度も頷きながらメモを取り、笑顔で厨房へ戻って行った。
陽彩はぽかんと莉珠を見つめる。
「英語ペラペラじゃん」
「慣れる」
「ふーん」
他愛もない会話を続けていると、しばらくして湯気の立つ料理がテーブルへ運ばれてきた。
「おぉ、でかっ」
運ばれてきたダブルチーズバーガーは、両手てでも持ちきれないほどの大きさだった。
「これどうやって食べんの」
「好きにしろ」
陽彩は左手で悪戦苦闘しながら、ハンバーガーを持ち上げる。ギブス生活を三週間続けても、利き手ではない手で物を持つのはまだ慣れなかった。
「無理」
「そりゃそうだろ」
莉珠は呆れたようにため息をつくと、自分のナイフでバーガーを半分に切り分け、無言のまま陽彩の皿へ戻した。
「ありがとう」
莉珠は何も答えず、ステーキを一口切り分けて口へ運ぶ。
その姿を見ながら小さく口元を緩めると、陽彩も左手でバーガーを持ち上げ大きくかぶりついた。
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