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27.真面目なげんちゃんの誓い
げんちゃんが試作したケーキは程よい苦さと甘さで、甘いものが苦手な人でも食べやすそうだ。
シンプルだけど、グレープフルーツって外さない気がするんだよな。
朝に食べてもよし、もちろんおやつの時間でもよし。
このバランスはグレープフルーツならではなのかなーなんて思ってしまう。
「うん。俺の好みで言えば好き。甘すぎなくて食べやすいよ。女性だけじゃなくて男性も頼みやすそうだ」
「そうか。蒼樹 が喜んでくれたなら良かった」
げんちゃんは柔らかい表情で俺を見てくる。
俺の前で嬉しそうにしているげんちゃんを見てると俺もつられて笑顔になれる。
言葉は少ないけれど、げんちゃんの気遣いはいつも疲れた心を癒してくれる。
「今さ、ちょっと頭を使ったから……もっといっぱい食べたいくらいうまいよ。俺さ、げんちゃんが作ってくれたものはたくさん食べられるんだよな」
笑いながら美味しいことをアピールするつもりで、がっついて食べて見せる。
本来は紅茶を飲みながら優雅に食べるものだろうけど、げんちゃんが喜ぶ顔をもっと見たくなった。
「蒼樹、クリーム付いてる」
「あ、さすがにがっつきすぎた……」
げんちゃんの指が俺の頬に伸びてクリームを拭っていく。
その指は、そのままげんちゃんの口の中へ……って。
俺は抗議する言葉を発する前に、無言のまま視線で追っていた。
「げんちゃん……」
「ん、どうした?」
普通にティッシュか何かで拭き取ってくれればいいのに、指ですくい取ったあとに……まさか舐めると思わなかった。
しかも、自然な仕草なのに妙に色気があるというかなんというか。
俺の方が妙に恥ずかしくなる。
げんちゃんに対して色っぽいなんて。どうかしてる。
「蒼樹?」
「あ、なんでもない。げんちゃん、言ってくれれば自分で拭いたのに」
「届く範囲に拭くものが見当たらなくてな」
「いや、そこに紙ナプキンが置いてあるから。しょうがないな。俺が代わりにげんちゃんの指を拭いてあげよう」
客席用に置いてある銀の入れ物の中から、一枚紙ナプキンを取ってげんちゃんの手を取る。
気持ちを紛らわすようにげんちゃんの人差し指を拭いていると、げんちゃんがじっと俺のことを見つめていることに気づいた。
俺はゆっくりと視線を合わせた。
「俺の顔にまだ生クリーム付いてる?」
「いや、ついてない」
げんちゃんは、またふわっと優しく笑うと俺の手の甲に手のひらをそっと置く。
俺の手を潰さないように配慮してくれているのか、軽く握り込んできた。
もう指は拭き終わったからいいんだけど、なんで手を握られているのかは分からない。
でも……その手を払おうという気にはならなかった。
とっきーだとつい俺も強気に出てしまいがちだけど、げんちゃんにはかなわないっていうか。
こんなに優しい手を俺から突き放すようなことは……どうしてもできない。
「蒼樹は優しいな。俺の作ったものを美味しそうに食べてくれる顔を見てるだけで嬉しくなる」
「そう? でもげんちゃんの作ってくれるものは美味しいし、じいちゃんの味も守ってくれてるから俺は感謝の気持ちしかないよ?」
「おじいさんの味を守ることは当然だ。蒼樹が大切にしているものを守ることは俺にとっても大事なことだ」
「げんちゃんはとっきーと違って真面目すぎるくらいだよ。いつもありがとう」
俺がお礼を言うと、げんちゃんは更に手を重ねて俺の両手を優しく包み込んでくる。
俺より大きい男らしい手だけど、指先は器用に動くし繊細なんだよな。
この手でいつもおいしいもの生み出してくれている。俺はこの手にも感謝しなくちゃいけないな。
「俺はこれからも蒼樹の力になりたい。改めて誓わせて欲しい」
「誓う、なんて……そんな、大げさな……」
俺はごまかすように笑っているのに、げんちゃんは真っ直ぐな瞳で俺を見つめてくる。
店の中が、しんと静まり返った気がした。
ゆったりとした時間の中に、今、俺とげんちゃんが向かい合っている。
それはいつものことだけど……いつもとは違うげんちゃんの真剣さに、俺は思わず息を飲みこんだ。
俺が黙ったまま固まっていると、げんちゃんは額 をそっと握り込んだ手の上へ当てる。
「蒼樹の側で、これからも蒼樹のことを守れますように」
「げんちゃん……」
まるで騎士の誓いにも似た呟きは、俺の心もやんわりと包んでくれる。
俺のことをこれからも助けてくれるっていう意味だっていうのは分かってるけど、くすぐったいだけじゃない温かい気持ちが広がっていく。
俺はげんちゃんの優しさに昔からずっと、守られているんだな。
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