41 / 44

41.新しいお客さんは何者?

 しばらくは店の営業時間も再開発の話で持ち切りだった。  休みの日に偵察するつもりで駅前も見に行ってみたけど、最近有名になった企業っぽいってことしか分からなかった。  企業名を調べたら、やり手の若社長が再開発を進めてるってことでテレビにも出たことがあるらしい。   「結局よく分からないってオチなんだよな」 「大規模だって言うなら、商店街の人たちを集めて説明会とかありそうだけど……」  とっきーがお客さんたちから情報収集を進めているけど、駅前がキレイになるから嬉しいっていう話くらいで商店街のことは誰も知らないらしい。  自治会長さんもあれから誰からも話を聞いてないって言っていたから、誰にも言わないようにとでも企業側から言われてるのかもしれないな。 「今日は若い子たちが多いから、余計に情報収集は難しそうだな。席を案内したついでに何気なく話を振ってはみたけど知らなーいってさ」 「どうみても学生ばっかりだし、やっぱりこの店に買収の話がこないことには詳細は分からなさそうだよな。ありがとう、とっきー」  カウンターでとっきーと短い会話を交わしていると、入り口の扉のベルが鳴り響く。  入ってきたのは身長が高い男の人だ。  見るからに高そうで上品なスーツを着こなしてるし、エリートの役付きサラリーマンなのかもしれない。  うちの店に来てくれるお客さんとしてはめずらしいタイプの人かもしれない。 「いらっしゃいませ」  史弥(ふみや)君がお客さんを案内しようとすると、男の人がカウンターを希望したのか俺の前までやってきた。  近くで見ても整った顔をしていて、モテそうな雰囲気だ。  住んでいる場所も高級マンション? なんて、想像をしてしまう。  俺よりは年上に見えるけど、いかにも仕事ができそうだよな。 「君がマスターか。なるほど」 「はい、そうですが……何か?」 「いや、気にしないでくれ。そうだな……この店のおすすめのコーヒーを頼む」 「かしこまりました」  とはいえ新規のお客さんだし、また来てもらうために張り切って作らないとな。  ここはプラコレブレンドでゆったりとした時間を楽しんでもらおう。    俺がコーヒーを淹れている間、視線が俺へ注がれているのが分かる。  コーヒーを淹れていると手元を見られるのはよくあることなんだけど、この男性は俺の顔を見ている気がするんだよな。  俺の顔に何かついているとか? なんて思ってしまうくらい見られてしまって、少し恥ずかしい。 「お待たせしました。プラムコレクトブレンドです」 「ありがとう。丁寧に淹れてもらえて嬉しいよ。淹れ方は勉強したのかな?」 「はい。自分で勉強もしましたけど、元々店をやっていた祖父に習ったんです。このブレンドも元々祖父が作ったものです」 「そうか。おじいさんは引退されたのかな?」  ここで全てを話すと人によっては重く聞こえるよな。  じいちゃんはもう、いないけど。ある意味引退したで当たってるし。  少しぼかして伝えてみるか。 「まあ、そんなところです。この店も祖父から受け継いだものですから」 「確かに、この店はまさにレトロ喫茶という雰囲気で落ち着くな。これからもぜひ寄らせてもらおう」 「ありがとうございます。いつでもお待ちしてますね」  気に入ってもらえたみたいで良かった。  でも、この男の人は何者なんだろう? ますますこの人の正体が気になってきた。

ともだちにシェアしよう!