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第16話 反省のない悪い子は

 騒動から一週間ほどが過ぎ、諸々の対応に追われていたシイナが平常時の業務に取りかかれるようになったある日――ユオシェンは、シイナによって床に正座させられていた。 「ユオシェン。言い訳があるなら聞こうか」  青筋を立て、静かに怒っているシイナの足元で、ユオシェンは気まずそうに目をそらす。 「だってぇ、頭、痛かったからぁ」 「ほう? 頭が痛ければ、頭痛薬を規定量以上がぶ飲みして、その上、酒でそれを流し込んでいいとでも?」 「うぅ……でもでも、前に酒で飲んだ時、マシになったからぁ!」 「それは意識がODで飛んでたからだろうが、この馬鹿っ!」 「ひぃん……」  叱られた大型犬のように情けない声を上げて、ユオシェンはしょんぼりと肩を落とす。毎回こうして反省自体は本気でしているが、何度でも同じ過ちを犯すのがユオシェンという人間だ。  それがよく分かっているシイナは、大きくため息をつくと、一度ユオシェンを置いて他の部屋に行き、とあるものを持って戻ってきた。 「ユオシェン、両手を出せ」 「ん?」  何の警戒もなく両手を差し出したユオシェンに、シイナはがちゃんと手錠をかける。プレイ用ではあるが簡単に外れるものでもないそれで手首をしっかりと拘束され、ユオシェンはきょとんとシイナを見上げた。 「言っても分からない馬鹿は、専門家に治してもらうしかないな。逃げたりしたら許さないからな」  至近距離で睨み付けられ、ユオシェンは仄かな不安から顔を強ばらせる。  まさか俺がどうしようもない悪い子だから、シイナは別の奴に俺を調教させるつもりなんじゃ。そんなの嫌だ。俺はシイナだけを愛してるのに。 「シ、シイナ、ごめんなさいっ! 謝るから許してっ!」 「許すも許さないも、そのうち連れていくつもりだったからな。ほら、立って歩け。俺の言うことが聞けないのか?」 「あ、あぅ……」  大好きな恋人からも命令には逆らえず、ユオシェンは立ち上がって素直に彼の後ろをついていく。  そして、車に乗せられて、べそべそと半泣きになりながら出荷される仔牛のような顔で運ばれていった先は――やけに冷たい雰囲気を醸し出す無機質な建物だった。 「ちょっと待ってろ」  ユオシェンを車に残し、シイナは建物の中へと消えていく。  俺、ここに置き去りにされちゃうんだ。いや、もしかしたらそのままシイナは迎えに来てくれないかもしれない。他の奴に売り飛ばされたりしたらどうしよう。  嫌な想像ばかりが頭をよぎり、ユオシェンはぐすんと鼻を啜る。少し経って戻ってきたシイナは、白衣の男性を一人連れていた。 「じゃあ先生。あとはよろしくお願いします」  シイナはよそ行きの丁寧な口調でそう言いながら、ユオシェンの身柄を白衣の男に引き渡す。 「ま、待って、置いてかないでよぉ、シイナっ、シイナぁ……」  なすすべもなく建物の中へと引きずられていくユオシェンに、シイナはひらひらと手を振って応える。  そして数時間が過ぎ――セーフハウスへと戻ってきたユオシェンは完全に拗ねていた。 「ユオシェン、マイハニー。いい加減、機嫌を直してくれないか?」 「ヤダ! シイナのバカッ! もうダーリンって呼んであげない!」  シーツで自分の体をくるみ、ベッドの隅から威嚇するようにユオシェンはシイナを睨み付ける。  だまし討ちで病院に連れて行かれた犬猫と全く同じ挙動をする彼を可愛らしいと思いつつ、シイナは帰り道で買った屋台のケバブをユオシェンの前で揺らして機嫌を取る。 「ほら、一緒にケバブ食べような。お前、ケバブ好きだろ?」 「食べ物なんかじゃ釣られないんだから! 俺、売り飛ばされるのかと思って、ホントに怖かったんだからね!?」  憤慨するユオシェンをケバブで釣るのを諦め、シイナはどうしたものかと息を吐く。  シイナが、ユオシェンを連れていったのはただの病院だった。  激しい頭痛に襲われていることがODの原因なら、その改善のために病院に行けばいい。  不安な思いのまま半泣きで検査を受け、外で待っていたシイナに回収された後になってからそう告げられたユオシェンは大いに拗ねた。  本気で怯えていたのもそうだが、教えてもらえなかったせいで病院を異様に怖がる変人として見られてしまったのが許せなかったのだ。 「大体、ただ病院つれてくなら手錠なんてしないでよね!」 「だってお前、前に他の病院行った時、逃げようとしたじゃないか」 「そ、それはそうだったかもしれないけどー!」  こんな扱いを受けた原因が己にあることを理解し、それでも感情面では納得できずにユオシェンはベッドの隅で威嚇を続ける。シイナは仕方なさそうに息を吐き、サイドテーブルにケバブを置いた。 「俺が悪かったよ。ケバブはここに置くからな。俺はちょっと出てくるが……ああ、お医者さんにも言われたとは思うが、この先一週間は酒を控えて――」 「うるさい、バカぁー!」  聞く耳を持たないユオシェンにシイナは肩をすくめると、諦めてベッドルームから出ていく。そして彼が少しの間外出し、所用を済ませて戻ってくると、ユオシェンはドア側に背を向けてベッドで丸くなっていた。

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