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第33話 追う者
時間は過ぎ――ユオシェンとホァンが姿を消した軟禁部屋に、ラウとシイナはやってきていた。
「恐らく下手人はホァンです。ホァンは自分以外の見張りに薬を盛って昏倒させた上で、その……『偶人(オゥレン)』をレイプして連れ去ったものと思われます」
ラウの部下が言いづらそうに、一瞬シイナに目をやりながら説明する。だがシイナはその視線に気付かないほど動揺していた。
おかしい。ユオシェンは既に『偶人(オゥレン)』としての戦闘力を取り戻していたはずだ。何の抵抗もできずレイプされるはずがない。だとすれば考えられるのは、脅されていたか、あるいは例の薬を使われたんじゃ――
「ホァンか。身の丈に合わない野心を持っているとは思っていたが……本当に残念だ。行き先の目星はついているか?」
「はい、ホァンの車のものと思われる車輪の跡は、西へと向かっていました。残されていた彼の私物から考えるに、西方にあるどこかの組に『偶人(オゥレン)』という手土産を持って向かったのではないかと」
「なるほどな。西方でうちの組と友好的じゃない奴らなら候補はある程度絞れる。俺は上から圧力をかけて、ホァンをあぶり出すが……。で? シイナ、いつまでそうして呆けているつもりだ?」
ラウに低い声で問われ、シイナはびくっと肩を震わせて正気を取り戻す。
そうだ。呆然としている場合じゃない。でもどうすればいいんだ。別の組織相手に渡り合えるような権力もなく、彼らの居場所を突き止める手段もない自分には、今できることなんて何も――
「シイナ、ちょっと耳を貸せ」
「えっ、は、はいっ」
ラウに肩を抱かれ、シイナは部屋の隅に連れていかれる。彼は声をひそめ、シイナにとある機械を手渡した。
「あの子につけた発信機の受信機だ。近くに行かないとうまく動かない安物だが、無いよりはマシだろう」
無骨な見た目の手のひらサイズのそれを受け取り、シイナは困惑する。
「いつの間にこんなものを……。それに、どうして俺に……?」
「病院であの子に会った時にちょっとな。まあ、過保護な兄貴分のお節介ってやつだ。そのおかげであの子が警察に囲まれてた時も急行できたわけだ」
ちょっとイタズラっぽく目を細めて、ラウは言う。それでも戸惑いの表情でいるシイナに、ラウはすっと真面目な顔になった。
「弟分。これを託すのは、お前とあの子にとっての最後のチャンスだ。組としての追っ手が掛かったとき、まず間違いなくあの子は問答無用で殺される。だが、お前がうまくやってあの子を助け出したなら、あの子の命だけは取られずに済むかもしれない。俺の言ってる意味が分かるな?」
「大兄……」
ユオシェンを死なせないための現状で取れる唯一の手段。それを示してくれているラウに、シイナはどう返せばいいか分からずにただ受信機を見下ろす。
ラウは大きくため息をつくと、シイナの背中をばしんと叩いた。
「しっかりしろよ、シイナ! ……お前はあの子のダーリンなんだろう? ハニーが攫われたのに迎えに行かないダーリンがどこにいるんだ?」
「……!」
挑発するような言い方で発破をかけられ、絶望と迷いで淀んでいたシイナの目がハッと見開かれる。シイナは受信機を服の下にしまい込むと、ラウに深々と頭を下げた。
「ありがとうございます、大兄。必ず、うまくやってみせます」
「ああ、そうしてくれ。こっちもできるだけ時間稼ぎはするが……それほど猶予はないと思ってくれよ?」
「はい。……では、行ってきます」
シイナはもう一度頭を下げた後、受信機をしまい込んだ胸元を押さえながら、足早に部屋を後にした。
「さてと。可愛い弟分とその恋人のために、ちょっとばかし頑張ってみるかね」
仕方なさそうに息を吐き、ラウはゆっくりと歩き出す。窓から差し込む夕暮れの光が、誰も居なくなった部屋を照らしていた。
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