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第34話 酒精の効能

「クソッ、どうしてうまくいかねぇんだっ……!」  小規模な娼館が並ぶ通りの片隅にある小さなホテルの一室。そこでホァンは酒瓶を煽りながら、顔を歪めて苛立っていた。 「アイツら、『偶人(オゥレン)』を持っていったのに、『本物かどうか分からない』だの『証明するために所有権を渡せ』とか言いやがって……! そんなことしたら俺は用済みになって甘い汁が吸えなくなるじゃねぇかよ……!」  ホァンと西方の組との交渉は決裂していた。通常、『偶人(オゥレン)』を取引材料や金に換えるには、それが『偶人(オゥレン)』であると証明する書類が必須になる。  粗悪なコピー品と言える存在も出回っている今、多少のコネがあったとしても証明書のない『偶人(オゥレン)』を持ち込んだホァンが歓迎されるわけがないのは道理だった。  だがそのことに考えが及ぶのなら、ホァンはこうして長年世話になった組を裏切ることなどしていない。己の浅慮さを認められず、ホァンは拳を固めて机を叩いた。 「クソォ……! 腹の虫が治まらねぇ! アイツら『偶人(オゥレン)』で痛い目に遭わせて、こっちの力を思い知らせてやる! おい、『偶人(オゥレン)』!」  部屋の隅で膝を立てて座っている人形を、ホァンは怒鳴りつける。しかし人形はそれに反応することなく、ぼんやりと虚空を見つめ続けた。  その様子にただでさえ頭に血が上っていたホァンはブチ切れ、人形に大股で歩み寄ると、その乱れた黒髪を片手で鷲掴みにした。 「テメェまで俺のことをバカにするのか、アァン!?」 「……」 「黙ってんじゃねぇぞ、人形がぁ!」  ホァンは人形の顔の中心を殴りつける。人形は一切抵抗することも受け身を取ることもなく、その暴力を受け入れた。  床に倒れ込み、そのまま起き上がる気配も見せない。人形を前にしてさらに怒り狂ったホァンは、自分が飲んでいた酒瓶を手に取り、人形の胸ぐらを掴み上げる。 「薬ももう無くなって、犯してもろくな反応をしやしねぇ……。仕方ねぇから代わりのもんをくれてやるよ!」 「……」 「確かテメェ、人間ごっこをしてた頃は酒が好きだったんだろ? たらふく飲ませて泥酔させりゃあ、少しは面白い反応してくれるよなぁ?」 「………」 「おい、口開けろゴラァ!」  顎を掴み、ホァンは無理矢理人形の口を開けさせ、その中に酒瓶の中身を一気に流し込んだ。 「ごっ、ごぼっ、ごッ……!」 「こぼすんじゃねぇ! 全部飲み込め!」  強い口調で命令され、人形は喉を鳴らして液体を飲み下し始める。酒に弱い者であれば、一瞬で意識を失うほどの量を胃へと収めるうちに、人形の目は仄かに蕩け、顔にもほんのりと生気のある朱が差していった。 「んっ、んっ……ご、かはっ、けほ……っ!」 「床にこぼれた分も全部舐め取れ。もったいねぇからなぁ?」  ホァンは髪を掴んでいた手を離すと、人形の体を蹴りつけて、酒で濡れた床へと倒れ込ませた。人形は目の前に落ちている液体に舌を這わせ、残さずぴちゃぴちゃと舐め取っていく。  強い酒気が鼻から吸い込まれ、脳を直接揺らす。ふとその時、消え失せたはずの何かが酩酊の向こう側から僅かに顔を覗かせた。 「…あれ……? 俺……?」  慣れ親しんだアルコールの感覚が呼び水となり、ぼんやりとしていた人形の目に僅かに光が灯る。だがホァンはその変化には気付かず、ユオシェンの髪を再び鷲掴みにした。 「来い! もう一度、誰がお前の主人なのか、体に教え込んでやる!」 「っ……、いた、やめっ……!」  抵抗しようとするも、ユオシェンの体の主導権は未だに彼の意識には与えられていない。表層に出てきたのは感情だけで、体はこの男が主人だとどうしようもなく認めてしまっている。  このままじゃまた犯される。意識がぐちゃぐちゃにされて、もう戻ってこられなくなる。 「いやだ……」 「あ”!?」  小さくこぼれた拒絶の言葉がホァンの耳に届き、彼は恐ろしい形相でユオシェンを睨み付けた。 「ご主人様に意見とは、人形のくせに生意気だなァ?」 「ご、ごめんなさい、ご主人様っ……」  怯えの含まれた目でユオシェンはホァンを見る。ホァンは嫌な笑みを浮かべた。 「……ふーん、これはこれでいいな。反応のない人形を犯すより、泣き叫んで嫌がる淫乱男を陵辱するほうが気分が上がるってもんだ」  ホァンはユオシェンをベッドに放り投げると、嗜虐的な笑みで彼を見下ろした。 「ああ、いいなァ……その怯えた顔、最高だ。くくっ、いくらでも泣き叫んでいいぞ? この辺りじゃそういうの日常茶飯事だから、誰も気にしねぇさ!」 「ッ………」  恐怖で目に涙は浮かんでいたが、ユオシェンはホァンをきつく睨み付けていた。  もう戻ってこられないと思っていた。それがこうしてチャンスを手に入れたんだ。体はいくら穢されても、少しでも脱出の手段になることを考え続けてやる。  アルコールで顔と脳が熱い。言うことを聞かない体を必死で動かそうとする。  その時――部屋のドアが乱暴に蹴破られ、ベッドの上のユオシェンに迫っていたホァンのにやけ面が、横から全力で殴り飛ばされた。

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