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第39話 喉を噛む*
力強い言葉を口にしたわずか数秒後、ユオシェンの目元は酩酊している時のように蕩け、膝からも力が抜けてその場に倒れ込みそうになる。
シイナはそれを軽々と抱き留めると、まるで高貴な令嬢を運ぶように丁寧に、彼の体をベッドの上へと横たえた。
「期待通り、表も裏も快楽で溶かして落としてやるよ。今までで一番優しくするから覚悟しろよ?」
「……ぅ、ぁい……?」
つい数分前まで己が抱く側かと錯覚させるほどの頼もしさが宿っていた目は、今ではすっかり濁って混濁しており、自分が何を言われたのかはおろか、自分の前に誰がいるのかも理解できていないようだった。
それを寂しく思いながらも、シイナはユオシェンの上に覆い被さり、半分だけ空いているその唇に深く口づけをする。
こじ開けるように舌を入れると、ユオシェンはいつもよりたどたどしい動きでそれに応えてきた。それが自分が今まで彼と交わしてきた行為の積み重ねによるものなのか、それとも己以前に彼に対して行われた教育の結果なのかが分からず、シイナの内心に身勝手な苛立ちが宿る。
両手の指を絡め、呼吸を奪い合うように絶え間なくキスをする。淀んでいたユオシェンの目に生理的な涙が滲み、込み上げてくる嗜虐心をシイナは飲み込んだ。
数分の重なり合いの末、シイナはユオシェンから顔を離す。まだただキスをしただけなのに彼の顔はすっかり火照っており、名残惜しげに唇から覗いている舌の赤さに、シイナの腹の奥が明確に熱を持つ。
ダメだ。今日は優しく抱くって決めたばかりじゃないか。我慢するんだ。
今すぐ目の前の獲物を滅茶苦茶にしたい気持ちからなんとか目をそらし、シイナはユオシェンを至近距離で覗き込んだ。
「ユオシェン、お前は俺のものだ」
ぴくっと、繋いだままの手の指に力が入る。虚空を見ていた眼差しがシイナへとゆっくり向けられ、静かに見定めるように彼を見る。
「お前はユオシェンだ。俺はお前の恋人だ。俺は、お前の恋人として……ユオシェンとしてのお前も、『偶人』としてのお前も愛すると、誓う」
ユオシェンの目が戸惑うように揺れる。命令でも、洗脳の言葉でもなく、愛を誓う言葉を向けられ、彼の中の『偶人』がエラーを返す。
シイナはそんな彼の顔に愛しさを降り注がせるようにゆっくりと何度もキスを落とす。額に、瞼に、目の端に、耳の近くに、喉元に。キスの雨を降らせながら、シイナは愛を囁き続ける。
「愛してるよ、ユオシェン」
「…ゥ、ぁ………?」
「返事は正気に戻った時でいい。今はただ、俺の愛を受けとめてくれ」
シイナは最後にもう一度唇にキスをすると、ユオシェンの胸元に手を這わせ、シャツのボタンをゆっくりと外し始めた。
ぷつ、ぷつ、と焦らすようにゆるやかにボタンは外されていき、その向こう側に隠されていたユオシェンの肢体が空気に晒される。
じっくりと愛の言葉とキスを降らせた結果なのか、ユオシェンの肌は仄かに上気し、胸の先端も刺激が与えられるのを心待ちにするかのようにぴんと立ち上がっていた。
「触るぞ」
「あぇ……、んんっ………!♡」
軽く先端を弾くだけの刺激でユオシェンの体は素直に反応し、口からは甘い声が出て、わずかに身をよじる。その仕草が愛しくて、シイナはユオシェンの首に顔を寄せると軽く噛みついた。
「んっ……ぅ、ッ♡」
歯を立てて食い込ませると、その痛みでユオシェンの体は僅かに震えた。
このまま痛みを与えて犯し尽くしたいという衝動と、今回だけは優しくしたいという理性の間で板挟みになり、シイナは知らずのうちに喉を噛んでいる顎に力を入れてしまう。
「んぃ、ぁぁ、あっ……ッ~~~~♡♡」
肉食獣に喉元を食いちぎられている獲物のような姿勢でベッドに押しつけられ、ユオシェンは悦びの声を断続的に上げた後、軽く絶頂した。
シイナはハッと正気に戻ると、思い悩んでいる間に勝手に己の下で気持ちよくなっている恋人の首から口を離し、絶頂の余韻で震えるユオシェンを見下ろす。
ユオシェンの首にははっきりと己の歯形が残っており、命を握られている悦びで達した彼の視線が請うようにシイナへと向けられた。
支配してくれ。虐げてくれ。苛めてくれ。
ユオシェンのものなのか、それとも『偶人』のものなのかわからないその要求に、シイナは場違いにも苦笑してしまった。
「分かったよ。注文が多いハニーだな、お前は」
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