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第38話 ベッド際の誓い
シイナがラウたちによって一旦連れ出され、ユオシェンはベッドの上で一人大きく息を吐いていた。
正直、ここまでうまくいくとは思っていなかった。投薬されて、別の人間と契約させられて、その上で支配を逃れる方法について問い詰められていたら、自分はその内容についてあっさり話してしまっていただろう。
酒を飲むと『偶人』としての意識の支配力が弱まる。状況からの推測でしかないが、それが真実だというのは何故か確信できる。今思えば、酒で頭痛が治っていたのも、その仕組みと関係があったのだろう。
「はぁ……困難な命令かぁ……」
今、自分が不在の場所でシイナが告げられているであろうその内容に想いを馳せ、ユオシェンは憂鬱な気分になる。
彼らが確かめたいのはつまり、自分がどれほど嫌だと感じていてもシイナの命令であれば実行できる存在だという証拠なのだろう。
だから『困難な命令』というのは難易度が高いという単純な意味ではなく、ユオシェンという人間が最もやりたがらない行いを強いられると予想ができる。
「何されるんだろ……仲間になるかもしれない相手に拷問はナンセンスだし、誰かを殺してこいだとか……もし、知らない奴に喜んで抱かれろとか言われたらどうしよう。うまくできるかなぁ……」
時間が経つごとに嫌な想像はみるみるうちに膨らみ、ユオシェンはベッドの上で膝を抱えて縮こまる。
大丈夫。何を言われたってやり遂げてみせる。それでダーリンとの幸せな日々が取り戻せるのなら、何だってやってやる。
未知への恐怖で震えそうになるのを何とか飲み込み、ユオシェンは決意に満ちた眼差しで顔を上げる。
ちょうどその時、部屋のドアが開かれ、神妙な顔をしたシイナが入ってきた。
「シイナ! ……どんな命令になったかは、まだ聞いちゃだめだよね?」
「……ああ、悪いが言えないんだ」
「分かってるよ、大丈夫! 命令の前に薬で再契約しないと意味ないもんね。なんか緊張するけど……早く始めちゃお?」
暗い顔のシイナの手を引き、ユオシェンは彼を優しくベッドへと誘導する。そしてそのままベッドの端に腰掛けると、ユオシェンは両腕を広げてシイナを呼んだ。
「ダーリン、ほら来て?」
「……」
いつもならそれに応えて彼を押し倒すはずのシイナは、少し離れた場所に立ちすくんだまま動こうとしなかった。
その拳はぐっと固められたまま細かく震えており、彼が深く逡巡していることを雄弁に語っている。
「シイナ、どうかしたの?」
「ユオシェン。その……本当に薬を使わなきゃダメなのか?」
「え?」
「薬を使ったら、お前はお前じゃなくなるんだ。いくら俺の恋人だって言い聞かせても、またお前自身がこうして戻ってこられる保障はない。だからっ……」
シイナは深く俯き、絞り出すように言葉を口にする。そこに含まれているのが愛しい恋人を失いたくないという恐れだということははっきりと伝わり、ユオシェンは場違いにも嬉しくなってしまった。
ユオシェンは立ち上がり、シイナの両手を取って軽く撫でる。戸惑う彼に、ユオシェンは慈しみの籠った笑みを向けた。
「大丈夫。薬を使われても絶対に俺は戻ってくるよ」
「でも……」
「それに、ダーリンなら『偶人』としての俺もメロメロに惚れさせるのは余裕なんじゃない? 俺、ダーリンがいけすかない『偶人』を快楽落ちさせるの見てみたいな〜?」
にやりと不敵に笑みながら、挑発的にユオシェンは言う。シイナは一瞬呆気に取られた後、ふっと表情を緩ませた。
「お前としてはそれは浮気に入らないのか?」
「あっ、どうかな……ちょっとだけ入るかもだけど、あいつも俺だしうーん……」
真剣に悩み始めたユオシェンが微笑ましくて、シイナは喉の奥でくっくっと笑う。
「お前と話してると、真剣に悩むのが馬鹿馬鹿しくなってくるよ」
「頼り甲斐のあるハニーだって言ってくれないかな? それで? ダーリンは男を見せてくれるの?」
「望むところだよ、マイハニー。……絶対、戻ってきてくれよ」
シイナはジャケットのポケットに入れていた小瓶を取り出し、ユオシェンへと手渡す。ユオシェンはそれを受け取ると、蓋を開けていっきにそれを喉に流し込んだ。
「信じてるよ、ダーリン。だから、俺のことも信じてね?」
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