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エピローグ そして二人は日常へ

 治安の悪い笑い声があちらこちらから響くバーのカウンター席。すっかり定位置となっているそこで、ユオシェンは飲んだくれていた。 「ほんっとに信じらんない! マスター聞いてるぅ!?」 「はいはい、聞いていますよ」  視線も向けずにグラスを拭きながら、バーの店主はユオシェンの愚痴を聞き流す。バーの客のほとんどもいつもの光景だとその様子をスルーしていた。 「ダーリンがさぁ、自分が怪我してるっていうのにもう治ったって言い張って、仕事行こうとすんの! 俺の頭痛の時は無理矢理病院に連れてったくせに!」 「はいはい」 「だから俺、言ってやったんだよ! ちゃんと怪我が治るまでセックス禁止ねって! そしたら強引に押し倒してきてさぁ!」 「そうなんですね」  ユオシェンは片手に持つ酒瓶を大きく傾けて喉に流し込み、ため息と同時に酒臭い息を吐き出す。 「俺は都合の良い穴じゃなくて、ダーリンの恋人なのにっ! 恋人って言えばそういえばこの前、もう一人の俺のこともハニー扱いしてたような……。許せない! それって浮気だよねぇ!?」 「はいはい」  客の個人情報は敢えて記憶しない主義のマスターは、ユオシェンの言葉を右から左に聞き流す。  その時、そんなユオシェンの言葉を聞いていたらしい見知らぬ男が、彼の隣の席へと流れるように腰掛けた。 「よぉ、美人さん。酷い恋人にあたって可哀想になァ。どうだ? 当てつけに、これから俺と夜のデートにでも行かねぇか?」 「えー? そんなこと言ってホテルに連れ込む気でしょ?」 「ハハハ、まぁな。じゃあこうしよう。今ここで飲み比べして、俺が勝ったらホテルに行く。負けたら倍額支払ってやるよ。どうだ?」 「フーン……?」  既にかなりの量を飲んで泥酔しているユオシェンになら、勝てると踏んでの申し出だろう。だが、まだまだ己の限界が遠いと知っているユオシェンは、戯れに話に乗ってやってもいいという気分になっていた。 「いいよ。お前が勝ったら、俺のこと好きにさせたげる。負けるつもりはさらさらないけどねー?」 「ははっ! じゃあマスター、俺と彼に同じ酒を――」  ガランガランと、やや乱暴にバーの入口が開かれ、不機嫌そうに眉間に皺を刻んだシイナが姿を現す。ユオシェンはそちらをちらりと見たが、つんっと顔を逸らして酒を呷った。 「ユオシェン……お前はまたっ……!」 「ふんっ、ダーリンに文句言う権利ないもんね。俺を止めたいなら、ダーリンが代わりに飲み比べでもしたら?」 「なっ……!」  シイナは言葉を失ったが、その条件をすぐに飲むことは出来なかった。シイナのアルコール耐性は平均よりも少し下。飲み比べで勝つどころか、すぐにフラフラになって寝入ってしまうのが目に見えていたからだ。  頑ななユオシェンと、硬直するシイナのカップルに挟まれる形になった間男は、巻き込まれるのはゴメンだとばかりにそそくさと席を立つ。  後に残された恋人二人は、一触即発の雰囲気で沈黙する。ふとユオシェンは、何か面白いことを思いついたように妖艶に目を細めた。 「じゃあダーリン、俺と飲み比べしよっか」 「……は?」 「勝っても負けてもダーリンのことは許したげる。だけどダーリンが負けたら、酔っ払ってふにゃふにゃになったかわいーいダーリンとセックスさせてもらうから♡」 「はぁっ……!?」 「もちろんダーリンが勝ったら、俺のこといつも通り滅茶苦茶にしていいよ? どっちにしろヤるのは変わらないんだし、男を見せてよね、ダーリン♡」  狡猾な狐のように笑みながら、ユオシェンはシイナを挑発する。シイナはしばらく悔しそうに顔を歪めた後、苛立たしげな動きでユオシェンの隣の席に座った。 「マスター! ダーリンと俺に、同じ酒をどんどん出しちゃって!」 「はいはい……」  流れるように始まった不毛な戦いを眺めながら、店主は上の階の空きをボードで確認する。  どちらにせよこの後、長時間使われることになるであろうその部屋の欄に、彼はうんざりとした顔で予約済みのチェックを入れた。 -完-

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