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第8話

ラブレグルス 「はい、この案件はそのままでお願いします。あぁ、ただし途中途中、報告書を書かせて下さい。この家に依頼するのは初めてですから」 紅明は広い仕事部屋で、秘書に渡される書類にサインをしつつ、次の仕事の指示を出していた。 紅明のサインが記された束の書類を抱え、急ぎ足で秘書が部屋を出て行くと、入れ違いで歩と直人が入ってくる。 無言で入室したにも関わらず、紅明は何も言わずに椅子に座り直し、何のようでしょう、と白々しく言いきった。 「......紅明。あのチビ、なんなんだ」 歩のアバウトな質問に対し、紅明は何も言わない。 「5年前だってな、チビがここに来たの。本人から聞いたぜ」 「自分らが日輪君に初めて会ったん、今日なんやで、おかしないか?なんで5年も隠し取 とったんや」 「別に?他意なんてありませんよ。ただあの子は人見知りが激しいので、それが緩和されるまで人と会うのを控えていただけのこと」 「へーえ?ホントにぃ?」 「何が言いたいのですか」 僅かな間、部屋の中が静まり返った。 紅明からすれば、日輪に変な入れ知恵をほどこすものなど、たとえ歩と直人のような幼なじみであっても排除する対象になってしまう。 自分が生まれてから24年間、共に側にいた存在でも切り落としてしまうかもしれない自分がいて、なんだか可笑しかった。 それと同時に、何とも言えない満足感があった。 そんなに? そんなにあの子供が大切か? 当然だ。 俺はもう、あの子がいない世界など忘れてしまったのだから。 「たとえば、たいそうお金持ちなどっかのお家が大金だして、無理矢理いたいけな少年を売春したとか」 「......へぇ?」 「なきにしもあらず、やろ?」 なるほど、流石俺の幼なじみ。 変なところで鋭い。 ただ、相手が悪かった。 「何の理由でチビを買ったのかーー」 「廣長、結崎。新しい仕事があります。詳細はこのファイルにありますので、すぐに向かって下さい」 紅明は歩の言葉を遮って、引き出しから取り出したクリアファイルを二人に突きつけた。 「おい、最後まで聞け」 「私が、」 仕事だと言ったのですよ? 紅明の表情に、今日初めて笑顔が消えた。

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