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第1夜
「はぁん……で、俺の仕事が増えたわけね」
ウォルターは優雅にロックグラスを傾けながら頷いた。今日は久し振りに行きつけのバーではなくウォルターの自宅のリビングで俺と二人で飲んでいる。
高校二年生の晩秋。当然、飲酒年齢にも喫煙年齢にも達していないが、外見が少し年不相応であるためか外で咎められたことはない。
中学生の時に幼馴染みと仲違いして峠に出るようになった俺は、その延長で今でも夜には単車で走りに行くこともある。それ以外はこうして同級生のウォルターと飲んだりビリヤードしたりしていることが多い。
十一月も下旬になりたまには暖房の欲しい日もあるようになってきた。今日も外は少し冷えるのでこの部屋には床暖房なるものが入っている。お陰でフローリングの上に敷いてあるカーペットだけでも十分に寛げる。我が家にはない設備なので正直羨ましい。
学校でも会うけれど、夜のバイトの件は口に出来ないため、俺は家で晩御飯を済ませてからウォルターの家にやって来ていた。
明日は日曜日なのでゆっくり出来る。察してくれてはいるだろうが一度きちんと断っておかなければいけないことがあったのだ。
そしてそれを説明すると、案の定という感じでウォルターは頷いたのだった。
「まあ、暇だしいいんだけど……でも浩司と俺じゃあ違うからな、やっぱ。それでもいいって人しか指名はしてこないだろうね」
同じようにバイトをしているウォルターとは、最初以外客が被った事はない。最初、というのはやはり体の相性を見るための本当の顔合わせ的な最初の行為だ。このバイトを始める以前には当然俺は女性経験がなかったので、最初から経験豊富な方が良ければウォルターを選んだだろう。勿論、今となれば俺だってそれなりの回数も人数もこなしているので、様々なリクエストに応える事は出来るわけだが。そういう技術以外の相性ってあるよな。そういうことだ。
目の前の美丈夫は、今日も前開きのシャツとスラックスを身に着けている。大体いつ会ってもそんな格好なので、出掛けていたのか寛いでいたのか見当が付けにくい。
「取り敢えず、約束してる年明けまでは中止ってことにしてあるから頼むわ」
テーブルの上に用意してくれているセットを使い、俺は自分でグラスに氷を足してブランデーを注いだ。たかりに来てるわけじゃないが、いつも高級酒を出してくれるので遠慮せずにご馳走になることにしている。
「りょうーかい」
さして興味もなさそうに言うと、ウォルターはグラスを干してテーブルに置き、今まで腰掛けていたソファから下りて俺と同じようにカーペットの上に直に座り込んだ。
少し首を傾げるようにして何か考えていたかと思うと、左手で髪を掻き上げながらこちらを見遣る。
南国の海を思わせるエメラルドグリーンの瞳が、四方に置かれているフロアスタンドの明かりを受けて妖しく煌めいた。立膝を崩すと、そのまま床に手を付いてこちらににじり寄ってくる。
「な、何?」
時々こういう意味深な仕草をする事があるが、今日のは本当に訳が判らない。実は俺が幼馴染みにするのと同じ程度にはウォルターもボディタッチが好きな事は知っているけれど、片膝を立てているその膝の上に顎を載せられると、流石の俺もドキドキしてしまう。
「なあ。てことはショーコとしてるの?」
うお! 何だそれっ。危うくグラスを落としそうになり、慌ててテーブルに置いた。
「してねえよっ」
「何で?」
「あの人たち以外は、本気じゃないと抱かねぇって決めてる」
断言する俺に、ウォルターはキョトンとした目をすると「へえ~」と呟いた。
あの人たち、というのがジゴロまがいのバイトでの客を指しているのだと気付いている筈だ。
翔子の押しに負けて『お試し』の交際を始めたものの、その交際で性的接触をする気はさらさらない。
「なんでそんなに難しく考えるかなあ?」
首を捻ると、そのまま床に付いた手を伸ばして上半身を支え、こちらに被さって来る。そのまま俺に顔を近付けて唇を重ねて来た。
歯が当たらないように唇だけでこちらの唇をなぞったかと思うと、そのまま舌が口内に忍び込んでくる。絶妙の力加減で絡めて吸い上げられ、互いに貪るように口内を犯し合った。
たかがキスっていうヤツもいるかもしれないけど、実はセックスするより難しい。それなりに気持ちがないと出来ない行為だと、俺は思う。
なんてったって唾液が入り混じるんだぜ? 少なくとも嫌いなやつとか生理的に嫌悪感抱くような相手とは出来ねえだろう。
や、それ以前に相手男だろって突っ込みも入りそうだけど……流石に俺だってあいつ──幼馴染み以外は女の方がいいし。
これはあくまで個人的な基準だけど……そこら辺の適度に可愛い女とするよりかはウォルターの方がマシだと思っている。
それはどうしてかと訊かれても答えに窮するけど、例えばたまにグループで遊んでいる榎本とは嫌かな。そこら辺り完全に感覚的なものなんで、どうにもならない。
「ふ……ぁ……」
頭の中でどうでもいい事を考えているってのに、体が反応しちまう。思わず声が漏れて床に付いた手を握り締めた。
男だとか女だとか、そんな事どっちでもいい。気持ちいいんだから。
ゆっくりと離れた唇が左耳に寄せられ、舌と唇で内と外を丹念に愛撫される。こうやって意識的に音を立てられるともう駄目だった。
濡れた音と息遣い。這わされ捻じ込まれる舌先。女とやってる時には気付かなかった性感帯を開発され、存分に責め立てられる。
に、しても。
嘘だろ……何で急にこんな展開? てか、そんなに抗う気にもなれないけど……なんでだろって疑問くらい口にしてもいいよな?
でもそれどころじゃなかった。口を開けばなんか自分でもびっくりするような高い声が出てしまって、慌てて必死になって口を噤んだ。
何で耳~? 自分でも今日初めて知ったんですけどっ!
「すげ……浩司、ここイイんだ?」
艶っぽい声で囁かれて、その至近距離の息遣いだけでもう腰が砕けちまった。かくん、と腕から力が抜けてそのままカーペットの上に倒れそうになるのをウォルターの手の平が後ろ頭に添えられてそっと倒された。
「は……っ」
荒い息をつく俺の上に圧し掛かるようにして、ウォルターはそのまま首筋と耳の開発に余念がない。
「なんっ、で……っ」
何とか言葉を発する事が出来た。
確かに気持ちいいんだけどっ! ちょっと待ってくれよ。
ウォルターも手を付くのは止めて、膝で体を支えて今度は両手がシャツの裾から中に入って来る。
「誰ともしてないんなら溜まるだろ? 抜いてやるよ」
「は?」
「気持ちいいこと、しよ?」
確かに気持ちいいんだけどっ! そんな風に耳元で囁かれるだけでビクビク反応しちまうけどっ!
「ちょ、待っ、ぁんっ」
制止しようと開いた口からは喘ぎ声しか出て来なくて……も、駄目。自分のんな声聞きたくねぇしっ。
相変わらず口で耳を攻めつつ脇腹からジーンズの中に入って行く手の平に、背筋がびくんと跳ねるように反り返る。肌に沿わせるように撫でられているだけなのに産毛が立つほどにぞくぞくと快感が駆け抜ける。
ぐっと歯を食いしばって耐えながら首を振った。
ホント自分で自分が信じらんねぇ。確かに今までは自分に主導権あったから気付かなかったのかもしれないけど、こんなに感じやすかったんだ? 酒入ってるから余計、なんだろうか。
「いい声……口開けてよ浩司」
だから耳元で言うの止めろって! こっちは恥ずかしいっての!
ぶんぶん首を振って何とか声と舌の呪縛から逃れた隙を突き、
「んな一方的なの止めようぜ、イクんなら一緒に……」
うお何言ってんだ俺。根本的なトコ間違ってるんですけど。
どうにか上半身を起こすといつの間にかジーンズのチャック下ろされてるのに気付いた。
迂闊っ……。
「一緒にって?」
目の前では艶然と微笑むウォルターのドアップ。どうしてこうなった。もう今更追求してもどうしようもないけどな。
俺は手を伸ばすと、俺の脚を跨ぐようにして膝立ちになっているウォルターのスラックスからシュルッとベルトを抜き、ボタンを外した。
チャックを下ろしながら「こーゆー事」と下着の上からやんわりと手で擦った。
流石に少し硬くなっている。当然俺のも、だけど。
こっちも膝立ちになってから、自分から唇を合わせていく。さっきまでみたいに耳いじられると力が抜けて何も出来なくなるから、封じるにはこれしかない。
そしてそのまま下着をずらして直接中のものを擦る。こちらの意図が通じたのか、それに応じてウォルターも俺のものに手を添えて擦り始めた。
どちらかというと意識は舌の動きに向けながら、自分がする時に気持ちの良いように施していく。時折ウォルターがしてくる動きも真似ながら。
多分ウォルターもキスでかなり気持ち良くなれるタイプなんだろう、激しく交わっていくにつれ一物の硬度も増して行く。
手の動きが早まって来る。同じように合わせ、間もなく絶頂が訪れるのを確信する。
「ん、いく……っ」「んあっ」
唇を触れさせたまま殆ど同時に声を漏らしていた。
片方の手の平で受け止めながら、片手の動きを徐々に緩やかにして止まったところでぺろりと相手の唇を舐めた。弾む息を整えながら、互いに軽く啄ばみ合う。呼吸が落ち着いた頃に、テーブルの上にあった台拭き代わりのハンドタオルでウォルターが手を拭ってくれた。
男の手でイったのなんて初めてだったけど、やっぱり自分でするよりちょっと気持ちいいかもなんて正直思ってしまう。
そりゃそうか、妄想と手だけよりキスしながらの方が気持ちいいに決まってる。
カーペットに腰を落として余韻に浸っていると、はむっと軽く耳朶を噛まれた。今度は右かよっ!
ぴくんと反応する肩を撫でる手の平が、いつの間にかボタンを外されていたシャツを床に落とした。裾からTシャツをたくし上げていきながら耳の中に侵入する舌先に翻弄され、抗えずにあっさり脱がされてしまう。
何? 今度は何しようとしてんの?
「あ……はぅ、ん……ぁ」
ぴちゃぴちゃと響く水音と柔らかく施される手の平と指先の愛撫に、背筋を仰け反らせながら体中で反応してしまう。
ヤバイ、こんな風にそっと触れるように撫でられるのに弱いらしい。自制できない喘ぎ声が漏れて、それで耳に伝わる息遣いも何だか熱くなってきているように感じる。
もしかして俺の声と反応で興奮しちゃってる……? え? ウォルター、どっちもいける人?
つか、流石に抱かれる立場になるのは想像してなかったもんで、色々と抵抗あるんだけど……。実際問題体が抵抗を放棄してる。力入んねぇ、マジヤバイ。
背中を愛撫していた手がジーンズから中に入ると、これまでより更に感じてしまった。
「あっ……」
ぞわぞわと今までとはまた別の刺激が背筋を抜けていく。ケツ触れられただけでんな反応になるなんて、どうすんだ……。
勿論敏感にそれを察知したウォルターが攻撃の手を緩めるわけはない。
耳と臀部を同時に激しく攻められて、俺は両手で奴の肩を持って自分の体を支えるだけで精一杯。もうこのまま意識手放したくなるくらい脱力したところでようやく手が離れて行ったかと思うと、何かぬるっとした感触のものが割れ目を伝い落ちて、あろうことかそのまま穴に滑り込んで来た。
「んんっ」
流石に力んでしまい、頭を仰け反らせて抵抗する。
「やっ、それはちょっと勘弁!」
「大丈夫、痛くしないから。力抜いて?」
耳元で囁かれて、またはうんって感じで力が抜ける。その隙を突いて本数を増やした指が奥まで侵入してきた。反射的にまた力が入り、そして耳を吸われて声を上げながら脱力。それを繰り返しながらじっくりと中を解され、異物感はどうしようもないものの、三本入れて動かされても痛みは感じなくなっていた。
それに、何だか中がむず痒いっていうか熱いって言うか……もしかしてオイルに何か入ってたんかな。これも勿論初体験だけど、直腸だから吸収も早いんだろうな。まだ直接は触れられてもいないのに俺のが硬くなり始めていた。気のせいか吐息も熱い。中でゆるゆると動いている指が少し動き方を変え、比較的浅い所で刺激を加えられた途端に腰が跳ねた。
い、今のがもしかして前立腺ってヤツ?
全身を貫くびりびりした感覚に悲鳴じみた声が上がりそうになり、奴の肩を噛む事でなんとか耐えた。
そのまま息を整えようとふーっふーっと深呼吸する。それなのに中の指がまた刺激を開始して、もう耐えることは放棄して快楽の波に身を委ねた。
「はぁっはぁっ……うぁ、んんんっ」
熱い。もう全身くまなく火照って何処もかしこも性感帯になったみたいに、軽く触れられただけで腰が跳ねて声が漏れる。片手で中を、片手で背から臀部を、そして唇と舌で耳と首筋を愛撫されてその腕の中で悶え続ける。
そろそろまたヤバイかなってところで、スッと指が抜かれてそのままカーペットの上に横たえられた。膝までずり落ちていたジーンズを下着と一緒に足から抜かれ、覆いかぶさってきたウォルターの瞳の中には常にない切羽詰った色がある。
「浩司、色っぽいな」
視線を絡めて言いながら、唇を重ねて来た。
今度はこっちがどうにかする隙もないくらいに激しく求められ、それに意識を飛ばしているのを見計らってぬるりと一息に貫かれる。
その瞬間は息も出来ないくらいの圧迫感だった。
確かにそんなに痛いってのは感じなかったけど、慣らし方が巧かったのかオイルや何かのせいなのか判んないけど、それでも十分に異物に貫かれる感覚は耐えがたく、酸欠になりそうなくらい浅く速く息を吐いて首を振ろうとしたが、絡められた舌がそれを許さない。
さっき互いに抜きあった時に直接触れていたんだから判っている。俺のより大きい長くて太いものが、下半身を刺し貫いている。
よくあんなもの入ったなと冷静に考えながらも、苦しくて腰を引こうと必死に身を捩るが、愛撫を諦めた両腕にしっかりと肩と腰を押さえられて出来ない。
生理的な涙が、眦を伝い落ちた。
「やぁ……無理っ」
どうにか言葉を発すると、
「無理じゃないよ? ちゃんと全部入ってる」
意地悪げに至近距離で微笑まれ、カッと頬が熱くなる。思わず締め付けたのだろう、奴もくっと目を細めて一瞬息を詰めた。
「すご……俺も初めてだけど、中凄ぇ気持ちいい。けどちょっとすぐには動けないか……」
みっしり、という言葉がぴったりくるだろう。中は隙間なく埋まっている。
俺と奴がぴったりくっついて、文字通り合体してるわけか……ちょっと笑える。いや、実際には笑えねえけど! そんなくだらないことでも考えてないと耐えられねえ……。
ってか、ウォルターも初めてなんだ……そうなんだ……。
ちょっとだけ力が抜けたのを敏感に察して、奴は少し腰を引いて上下に揺すぶった。
「あっ」
鼻に掛かった声が出てしまう。これさっき指で攻められてた場所か!
継続して揺すられているだけで、一物がムクムクと元気になっちゃったんだけど。そこに手を添えてしごかれ、俺はどうしようもなく高められてしまう。
さっき寸前でお預けを食らっただけあって、そこまで達するのは早かった。単調に揺すられる中からの刺激と両方であっと言う間に二回目の絶頂を迎えた。
流石にぐったりしていると、一旦下ろされて奴の腰骨の辺りに沿わされていた腿を抱え上げられ、何か行動を起こす間もなくぐんと奥まで突き入れられた。
「ひっ、う」
息を呑んだ次の瞬間に、奴が大きくグラインドを始める。限界まで引いて抜ける寸前でまた突き入れられて、それに合わせて俺の体が大きく揺さぶられる。
奴もそろそろ限界のようだった。
「中でイっていい?」
「はぅ?」
言葉の意味を理解する間もなく動きが早くなり、返答出来る余裕なんてなくなってしまう。
中で一際大きくなったな、と思った次の瞬間最奥で熱いものが吐き出された。鼓動と合わせてドクドクと中を満たしていくものを感じる。
そっか……生で出すとこんな感じなのか……って弛緩した体を放り出して考える。まぁ妊娠するわけじゃねえからいっか。……いいのか?
いいや。深く考えるのはよそう。流石にこれであいつも満足しただろう。
抜いてやる、なんて言いながら最後までやって自分も気持ち良くなってる辺りがアレだけど。俺だって一方的にされんのはやだし、いいかな。
流石に挿入はちょっときつかったけど、予想と違って出血もないみたいだし許してやるか。
繋がったまま呼吸が整うのを待ちつつ、最後に閉じてしまっていた目を開くと、あいつもふぅーっと息を吐いて目を合わせてきた。
「結構良かったんじゃない? 勿論俺も気持ち良かったけど」
「い、いいわけあるかよ!」
気持ち良くない訳じゃないけどそれだけじゃ済まされんだろうが。
そんな意味も含めて睨んだのに、肩に抱え上げられた太腿に舌を這わされただけでまた腰が震えた。そのまま膝頭を舐められた時にキュウッと中を締め付けてしまう。ん、と眉根を寄せてそれをやり過ごしたウォルターは、そのまま体を倒してきた。そんなに体が硬いわけじゃないが、流石にこの姿勢はキツイ。それにまた奥の方まで入ってきているものが元気になってる気がするんですけどっ。
「素直じゃないなぁー。まぁ、そんなトコが浩司らしいんだけど」
くすりと笑みを浮かべて、腰を動かし始める。
「え、まだやんの……?」
恐る恐る口にすると、笑みを浮かべたまま耳元に唇を寄せて来た。うっ、ヤバイ!
「取り敢えず、浩司の出なくなるまでイカせてあげる」
ふぅー、と力が抜けていく。
出なくなるまでって、どんだけ……?
もう既に意識を手放してしまえたら楽だなあなんて思いながら、もう俺は抗う気力も全部かなぐり捨てて喘ぎまくった。
翌日、何とか歩けるまでに回復したのは夕暮れ時だった。言葉通り本当に俺から何も出なくなるまでやりまくりやがって、このエロ大魔神め。
しばらく来るのやめよ、と心の中で密かに誓いながら靴を履いていると、
「また運動しような?」
なんて後ろから声が掛かる。
朝はぐったりして布団から出られなかった俺の体の隅々までタオルで綺麗にしてくれたし、昼御飯もご馳走にはなったけど、もう勘弁して欲しい。中のものは事後にすぐ掻き出してくれたらしいが、意識失ってて良かったと思うべきか問題だ。
「やだ。来年までしばらくこねえ」
「んじゃ俺が行こうかなー」
にやりと微笑むその表情で思い出してしまった。
そうだった、姉貴がうちのスペアキー渡してるんだ……。
まさか姉貴がいる時にはしないだろうけど、いない時に勝手に押しかけられて万が一にも夜中に帰宅した両親にバレるのだけは絶対に避けたい。
視線を彷徨わせてそこまで思い至ると、渋々俺は頷いた。
「───解った。じゃあまた土曜日の夜に……」
ふふ、と笑いながら奴は頷いた。
まあいいや。そうは言っても、恋人から連絡入りゃあそっちに行くだろ。
そう思い付くと少し気が楽になり、痛む腰を誤魔化しながらどうにか帰宅したんだった。
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