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第2夜 この構図、クるな

 正直なところ不在でも全く問題なし。  そう思ってチャイムを押したのに、すぐにドアの向こうに人の気配がして玄関が内側から開かれた。 「───よぉ」  覚悟は決めてきているのでそんなにがっかりはしなかった。挨拶をしながら中に入って、革のショートブーツと同時進行で革ジャンを脱ぐ。  流石に十二月に入り、外気温はぐっと下がっていた。家の中に入るとほっとする。 「結構ゆっくりだったな。デート楽しかった?」  綿素材の上下でリラックスしていたらしいウォルターが、にんまり笑いながら俺のジャンパーを受け取りコートツリーに掛けた。  時刻はもう深夜に近い。我ながらよくこんな時間まで付き合ってたなと思ってしまう。 「ああ、レイトショーで映画観てたから……」  その後電車があるうちにあいつを駅まで送ってからこっちに向かったのだ。ちょっと足が重くなったから余計遅くなったのかも。  ふうん、と相槌を打ちながらウォルターは顔を寄せると、耳の下に舌を這わされた。 「ぁ……っ」  思わずギュッと目を瞑ってしまった瞬間、バランスを崩してたたきに片足が落ちる。そのまま後ろに倒れる前に、驚いたウォルターに抱きこまれて事なきを得た。  あっぶねー……。段差は二十cmほどとはいえ、下手したら捻挫くらいはしてたかもしれねぇ。 「わりぃ」  反射的に謝ってしまい、そういや元凶はこいつだし! と気付いて唇を引き結ぶ。 「あ、いや、ごめんこっちこそ……風呂沸いてるから入ったら?」  予想外だったのか向こうも謝ってきた。場所が悪かったのを反省してるのかも。  ん、と頷いて浴室に向かう。あいつからは石鹸のいい香りがしていたから、もう入浴は済んでいるんだろう。俺も温まりたかったから、素直に申し出を受ける事にする。  椅子に腰掛けてボディータオルで体を洗っていると、ドアが横にスライドして奴が入って来た。勿論全裸である。 「なっ、なんだよ。もう入ったんだろ!? 」  以前ならそんなに気にもしていなかったのに、反射的に足を閉じて背を向けてしまう。 「背中洗ったげる~」  邪気のない笑顔で言われても、全然信用できないんですけど。  浴室自体は割と広めに作られているので、洗い場も浴槽も大人二人入っても問題はない。けどなー、前までなら背中の流しっこも納得できたんだけどな……。  ウォルターは俺の後ろに膝立ちになると、俺の手からタオルを取ってそれで背中を擦り始めた。自分でも出来るとはいえ、やはり力加減は人に遣ってもらう方が心地良い。黙って擦られていると、タオルを脇にのけて手が太腿を伝って前に回って来た。  やっぱそうだろな、と納得してちょっと諦めモード。  そのままゆっくりと内側を撫でられて、段々と股間のものが反応してくる。ぴくぴくと小刻みに揺れる場所に指が絡められ、力が抜けた足を大きく開かされた。  泡で滑りの良くなった肌を両手でゆっくりと愛撫され、あっという間に俺は高められていった。 「まずは一回イっとこうな」 「ふ…ぁ……」  背中から抱き締められるように密着され、耳孔に囁きを落とし込まれて俺は為す術もなく喘いだ。  同性ならどうすれば良いのか知り尽くしているその動きに導かれ、呆気なく白濁がはじける。  はあはあと息をついている俺の体を支えながら桶に汲んだ湯で双方の体を流すと、促されるまま一緒に湯船に浸かった。 「あー……ぬくい……」  ほんわ~と和んだのも束の間、背後に密着したままのあいつが首筋に舌を這わせてくる。ぞくぞくと快感が背筋を駆け上がり、何とか声を堪えて息を吐いた。 「ホント、浩司ってば色っぽい」 「なっ!」  また耳元で囁かれ、羞恥でかあっと顔が火照る。  背後では奴のものも少し固くなってきている感覚がある。何しろピッタリくっ付いている為微妙な変化も伝わってきてしまう。 「な、なあ……もしかして前からそんな風に見てた、のか?」 「そんな風って?」 「んっ……性的な対象としてっ」 「いやー? そうでもないよ? この間のが予想外に良かったから、かな」 「あっ、あぁっ……やっ」  必要以上に耳に息が掛かるように喋られて、俺の体はビクビクと反応する。なんでこんなに耳で感じちまうんだろう。これだけでかなり体力消耗する。 「まあいいじゃん」  ねっとりと中に舌が侵入する。 「気持ちいいこと、好きだし」 「はぁ…っんんっ」  一際高い声が挙がり、恥ずかしさで目が回りそうだった。 「浩司だってこんなになってるくせに、今更ぐだぐだ言わない」  前に回された手の平に、半勃ち状態のものが握り込まれる。一瞬肩に力が入ったものの、また耳に入れられた舌先に翻弄されて脱力しそのまま両手でしごかれ、どちらかというと耳への刺激によりほどなくしてもう一度俺は達してしまった。  あまり浸かりすぎると湯あたりしそうだったので、しっかりとタオルで水気を取ってからバスローブを借りてそのまま寝室へ向かう。  なんてやる気満々のシチュエーション。  蛍光灯はつけずに、フロアライトの僅かな明かりを頼りに前もって用意しておいたらしいセットでウォルターが水割りを作ってくれた。  確かにアルコール無しじゃ俺の方がもたないだろう。精神的に。  受け取ってそのままベッドの脇にしゃがみこんでグラスに口を付けた。ラグが敷いてあるので冷たくはない。風呂で二回イっているのでちょっと気だるい感じでベッドに背を預ける。  ストレートで飲んでいたウォルターが俺の脚をまたぐようにして屈み込んで来た。意図を察して顔を上げ、伏し目がちに近付いて来る端正な顔を見つめる。  唇が触れ合ったかと思うとぐいと顎を持ち上げられ、生ぬるいものが喉の奥へ滑り落ちていった。  んん? 今なんか固形物混じってたような……。  抗議しようとしたが、そのまま舌を絡めて吸われ言葉を奪われる。完全に嚥下してしまった事は判っているだろうに上向かされたまま長いキスをされた。 「……ん、はっ……今のってもしかして……」  口元から垂れる唾液の筋を丁寧に舐め取られながらようやく声を出した。 「帰国した時持って来た。まだ試した事ないから効果の程は不明だけどね? こないだのは少しは効いてた?」  そのまま唇が喉の方にずれていくのを肌で感じる。  オイルのことだなと思いながら、ごくりと喉を鳴らす。確かに何だか中から熱くなってきてたし、あれが効いてる状態だったんだろう。 「やっぱ下からの方が効きやすいか……」  声と共に頭が下に下がって行く。胸の突起を舌でやんわりと押され、甘噛されたり吸われたりしたが、それなりに気持ちは良いものの感じると言うほどでもない。  そんな俺の反応を確かめながらまた上へ上へと愛撫が戻って来た。バスローブの裾を割って差し入れられた手が臀部を撫で、反射的に上がりかけた腰を押さえつけるように圧し掛かられて外耳をねっとりと舐められた。 「ひぁっ」  すっかり堪え性がなくなってしまった俺は高い声を上げる。確実に性感帯であると判っている部分を攻め立てられ、肌が粟立ち体が小刻みに震えた。  しばらく手の平で撫でているだけだった手の指が、そっと菊門に触れ反対の手が腰から離れたと思ったら指が差し込まれた。ぬるぬると動かされ、前回と同じようにいつの間にかオイルを付けられたのだと察する。 「やっ……待って。ウォルター」  快楽に流されかける体を何とか制して、両腕で奴の腕を止めた。何とかして挿入からだけは逃れたい一心で。  気持ち良くない事はないけど、そこはそれ。やっぱり男としての矜持というかなんというかちょっと納得いかねぇ。  俺から手を入れてウォルターのものをやんわりと擦ると、あいつは首を傾げて目を合わせて来た。 「ベッドに腰掛けてくれる?」  こちらの意図を汲んだのか黙って腰掛けると、やや足を開き気味にする。その間に体を入れると、膝を付いて上体を屈め股間のものに口を寄せていく。まだ半分も勃っていないそれに舌を這わせ、少しでも硬くしようと口淫を開始する。  勿論初めてのことだが、気持ち良いポイントは判っているので目を閉じて集中する。裏筋から舐め上げ亀頭を唇の先で吸い上げると、少し首を持ち上げた全体に指先を添えて口の中に収める。舌を絡めるように舐めながら口をすぼませて吸い上げ、歯が当たらないように上下に動かすと俄然やる気が出てきたようだった。  ただ、あんまり大きくなると口の中がいっぱいいっぱいで舌を使いにくくなる。むう、難しいな……。  続けて頑張っていると、手の平で頭や耳の後ろを撫でられた。ちょっとくすぐったい。  目を開けて上目遣いに見上げると、うっとりと俺を見下ろしているあいつと目が合ってしまった。 「……凄い。この構図クるな」  イマイチ意味は理解できないが、目から入ってくる情報で興奮するなら有り難い。更に大きくなった口の中の物体を吸いながら顔を動かす。  たまに袋の方もいじったりして頑張ってはみたものの、もう三十分は続けてるのにどうも決定的なものに欠けるのかイカせられないみたいだ。俺の口の方が疲れてきた。  大きく開けたまましかも吸うという行為ってこんなに疲れるもんだったとは……。  ちょっとがっかりしながら続けていると、背中にローブを捲り上げられてまたあいつの腕が後ろに伸びた。折角放置してくれていたのに、またあの部分に指がつぷりと押し込まれ、もう片方の手で傾けられた小瓶から垂れる液体をゆるゆると塗り込められていく。意識がそちらに向いてしまうと口と手が疎かになり、一瞬離れた隙を突いて腰を上に引き上げられた。  ガクッと床に手を付き、なんとか腰を持ち上げて膝を床に付いた状態を維持すると、冷たい物があてがわれて後ろに捻じ込まれた。 「ひっ…」  掠れた悲鳴が漏れたが奴は止める気はないようで、俺の中にとろとろと液体が滑り込んでくるのが感じられる。  オイルの瓶を直接突っ込んだんだろうと推測し手を後ろにやって止めようとしたが、掴まれて終わり、瓶をぐりぐりと動かされて更に悲鳴が上がる。 「じっとしてて」  最早為すすべなく尻を突き上げたままという恥ずかしい格好のまま動きを止めた俺は、あいつの気が済むまで耐えることにした。痛い事をされるよりマシだ。やがて全部入ったのか瓶が抜かれ、代わりに指の本数が増えて抜き差しされる。 「や…だ……。こないだも大変だったのにっ」  喘ぎながら何とか挿入だけは止めてくれないだろうかと頭を回転させる。最初に飲まされた薬のせいなのか、もう既に体が中から熱くなって来ていて、頭の奥が痺れたような感じがする。思考が纏まらない。 「大変って?」 「っ……あっ……トイレ行く度洗っても、後から後から出て来るしっ、いつまでもお前の匂いが取れねえっつうか……っ」 「へえ」  いつもの何処吹く風な言い方ではなかった。にんまりと笑ったような、そんな感じ。あ、ヤバかったかもと靄が掛かったような頭の隅で思った。  指がまた増やされて、抜き差しされる。 「ひぁぁっ、んっんんっ」 「仕方ないよね? 口じゃイケないんだから」  良い所で指を曲げて刺激され、身も世もない嬌声が上がった。まだ一度もイっていないあいつのものより俺の方がしっかりと硬くなってしまっているという現実。 「このままバックでしちゃおっかな……いやでもやっぱ顔見えた方がいいや」  独り言のような呟きが降って来て、その意味が浸透する前に体を支えられてベッドの上に転がされた。  肌蹴られたローブが布団の上に広がり、かろうじて袖だけ通したままの俺は逆に動きを制限されている。  後ろからの喪失感に浅く速い息をつきながら、自分に覆いかぶさってくるあいつを見上げた。  瞼にチュッと音を立ててキスをされる。 「視線……それ誘ってるとしか見えないぜ?」 「んなわけあるかよ……」  悪態をつくものの、にやりと笑った唇が耳に移った途端に腰が跳ねた。 「ぁん、やっ、うぅ……」  また同じ手だと判っているのに逃れられず、足を折り曲げられて奴自身が入ってきた。ただ、前みたいに一気にではなく今度はちょっとづつゆっくりと。 「ひぅっ」  息を呑んで動きを止めると、奴もそこで止まる。一番嵩の大きい部分で止まられ、知らなかった痛みと圧迫感に悶える。 「今日は自分で力抜いてみて」  宥めながらというのは止めたのか、意地悪げに囁かれる。  抜けって言われても!  必死で深呼吸し、ふぅーっと一際長く息を吐き強張りを解こうとする。それでどうにかなったのか、またゆっくりと侵入が再開された。  圧迫感が増し、奥までぎゅうっと詰め込まれそれを受け入れる。多分全部入っただろうと思うが、またウォルターは動きを止めていた。  不審に思いながらも、また呼吸を整えようと深呼吸を繰り返す。  そうやってじっとしていると、勃ちかけの部分と繋がっている中が、まるで物足りないとでも言うかのようにひくひくと動いた。  自分の吐息が熱くなってくるのが判る。焦らされてんのかな……と思ったらすっと中のものが引かれ、それを止めようとするかのように中がギュッと締まった。  顔を上げた奴が俺を覗き込みくすりと笑う。 「欲しいんだよね?」 「う……ま、さか」  またすっと引かれ掛け中が締まる。全然意識していないのに、体がそう反応している。 「ったく、素直じゃないったら」  そこからズンと奥まで突かれ、背が反り返った。そこでまた動きを止められ、股間で俺のものが先走りを溢れさせて揺らめいた。それをピンと指で弾かれ、くぐもった呻きを漏らす。 「イキたくないの? それとも自分でする?」  一瞬考えただけで、俺の手は自分のものに伸びていた。それを見た奴の方が慌ててその手を握って俺の頭の横に縫い付けるように押さえ込んだ。 「判ったよ……そういう方向に羞恥心捨てられても。それはまた今度のお楽しみにとっとく」  ん? 今度のお楽しみって……どういうこと?  ぼんやりと考えながら、あいつの整った顔を見つめた。困ったようにこちらを覗きこんでいるウォルターは、まだ少し考えているようだった。  じくじくと体の奥からやってくる熱に腰が勝手に動いて更なる刺激を得ようとする。両手を封じられたので、もう下半身でどうにかするしかない。体は自動的に欲求を叶えようと蠢く。中にくわえ込んだまま締め付けをきつくして上下に揺す振ると、くっとあいつが顔を顰めた。  ふう、と息を吐いてまた体を倒し、耳への刺激が再開される。たちまち欲望が刺激されてまた硬さを取り戻し、差し込まれて超至近距離でたてられる濡れた音に反応し白濁を散らした。 「あっ、あぁぁ」  瞼の裏が白く染まり、過呼吸になりそうで必死に息を吐く。手足の先が痺れかけていた。 「ついに耳だけでイケるようになったか~」  耳元でというより耳の中に向けて囁かれ、イったばかりだというのにまた欲望が首をもたげる。  なんで? これもどっちかの薬の効果?  もうあんまり出るものもないのに熱が収まらない。恥ずかしさに身を捩りながらも、腰はもっともっとと刺激を求めていた。 「ひど……っ。誰が、んな体にしたんだよっ」  喘ぐ合間に零すと、 「あー……はい。責任取らせてもらいます」  耳が気持ちいいのは俺だけであって、その時の喘ぎ声があいつを高ぶらせはするんだろうケドそう刺激にはならないのだろう。唇を求められ、頭の中は真っ白なまま貪りあった。  ようやく腰を動かし始め、俺の中はその動きに合わせて締めたり緩めたりを繰り返す。もう条件反射のように。  それにしても長いな~……こっちはまた勃っちゃってるんですけど。なんか切ない。  ぽやっと考えていると、腰を引いて良い場所を突かれて息を飲む。 「イケそうかも……浩司、もっといい声で鳴いて?」  執拗にそこを攻められ、絡められた舌から解放されて喘ぎ声が漏れる。 「ぅあっ、ぁああんっ!」  自分からそんな声が出るなんて信じられないくらい一際艶めいた声を上げ、俺は喉を反らせた。両腕を押さえられていなければ、あいつの背に手を回していたかもしれない。体の中に熱いものが迸るのを感じ、更に中が狭まる。  目を開けると、切なそうに眉を寄せて喘いでいるあいつの顔が見えた。  流石にもうそれ以上は無理で、湯で濡らしたタオルで体を拭かれながら俺はぐったりしていた。もう一度シャワーを浴びて来たウォルターが隣に入って来た時には、既に半分眠りの淵にいた。 「流石に毎日セックスしてるとなかなかイケないな~。でも来週も頑張るから」  耳元で囁かれて、言葉の意味を考える間もなく俺は眠りに落ちてしまった。  翌朝思い出した時に頭を抱えてしまったのは言うまでもない。

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