18 / 33

3. ADOLESCENT/共犯(2)

 誰かが触るのを待っていたように、イオリの友達グループが、村瀬に話し掛けるようになった。 「村瀬って不良だよな」  あまりにも直球で、イオリも村瀬も同時に噎せた。 「ゲホッ。……不良って、学校来ないでしょ」 「えー、だけどさぁ」  確かに目付きは悪い。髪の毛は赤い。  ブレザーは前を開けて、ネクタイは大体緩んでいる。  歩くときは肩で風を切って歩く。  でも、遅刻も居眠りもしない。  変なグループとも、付き合わない。 「村瀬、中学のときに佐々木ってやべー高校生ボコしたって」 「もー。お前さぁ、普通ここで言う?」  イオリがクラスメートにデコピンをする横で、村瀬は天井を見上げて黙っていた。  静まり返るイオリのグループ。隣の女子グループも、たぶん聞き耳を立てていた。 「あー……ササキ、いたわ。警察に、パクられた」  俺も、とボソリと付け加えて、村瀬は真っ黒なボールおにぎりを頬張る。  この日のおにぎりの具は、冷凍のソースとんかつと、高菜。イオリの食べる弁当の片隅にも、同じおかずが入っている。 「呼び出された。俺、普通に制服着てて」  彼の口元を眺めながら、朝、そのおにぎりに海苔を貼ったことを思い出す。 「向こう木刀持ってて」 「村瀬は⁉」 「……」  眉を寄せて、嫌そうに顔を横へ向け。 「せーとーぼーえーになった」  とだけ呟いた。 「どゆこと」 「丸腰だったんじゃないの? 村瀬」 「えっ、ヤバ――いてててイオリン痛いですギブギブ」  イオリは真顔でクラスメートの耳を強めに抓る。解放後に、「ナンデェ……」と裏声でぼやく彼を見て、村瀬は安堵したようだった。 「……宮本武蔵みたいだねぇ」 「あれ、武蔵が木刀だろ」 「そうだっけ、ムサシ」  多分、初めて村瀬を「ムサシ」と呼んだのは、この時。  村瀬は、首を傾げた。 「俺、ムサシなのか」 「いいじゃん、モテそう」  イオリはニッと笑う。  ムサシは最後の一口を食べた。  二年生になると、グループはばらけた。  けれどイオリとムサシは、同じクラスのままだった。  ムサシの目つきの悪さと赤毛は、治安の悪い連中に目を付けられる遠因だったが、彼は学校を休まなかったし、成績はむしろ、良い方だった。 「カノジョ出来た」  放課後の図書室。向かい合って二人で勉強していると、ムサシが呟いた。  イオリの指が止まった。 「……えー…誰」 「一年の、立花って子」 「知らないなぁ……」  二人とも、帰宅部だった。  カバンは机の下。イオリが窓際の席。ムサシが通路側の席。 「ムサシここわかる?」 「どれ」 「問三の2」  別冊の解答集は、すぐ隣に置いてある。  だけど、わからないところは、まず聞き合う。 「あー……1の答え、あるじゃん」 「展開したけど、なんか違うっぽくて」 「見して」  ブラインド越しの日光が、背中を温める。  ムサシの赤い髪が、さらに明るく見えた。  頬に、掠れたようなかさぶたが張り付いている。 「職業体験」 「花屋?」 「あの後、告られた」 「僕もいたのに」 「確かに」 「確かに、じゃねえよ。じゃあ、一年の終わりの時じゃん……」  手を止める。  ムサシが、じっとイオリの目を見ていた。 「わかんねえ」 「……何が?」 「何、したら良いのか」 「…………一緒に帰る、とか」  僕にもわかんねえよ、とは言えなかった。  それから徐々に、図書室で解答集を開くことが多くなった。

ともだちにシェアしよう!