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3. ADOLESCENT/共犯(4)

「は、はい」  俯いた萌花の頭へ、ムサシが手を伸ばす。  壊れ物を扱うように、そっと撫でた。  ――口の中に、苦くて酸っぱい味が広がった。 『普通』  さっきの声が、唇の動きが甦る。  イオリは薄く笑いながら、ノートを閉じた。  でも、立ち上がれなかった。 「先輩達、テスト終わったら修学旅行ですよね」  帰るタイミングを逃した、と思った。  いや、萌花は萌花なりに、席を立たない二人に気を遣って口を開いたのかもしれなかった。 「まぁ……ね。終わったらね。僕、日本史と社会史と化学やばそう」 「が、がんばってください、先輩」 「がんばりまぁす。立花さんはどう?」 「はい。あの……時々センパイが、勉強教えてくれるんです。がんばります」 「へー、良いね。めっちゃアオハルしてるって感じ」 「……モエの方が、頭良いと思う」 「待って。それだと、この三人の中で僕が一番頭悪いってことにならない?」 「そんなこと……」 「ほら~ムサシまた立花さん困らせてる~」 「お、小倉先輩、ちょっと、声が……」  ムサシは、何も言わなかった。 「そろそろ閉めますよ」  入り口に座っていた司書の先生が立ち上がった。  他の生徒達も、ノートを閉じて立ち上がる。  イオリは二人と別れて、いつも通り、一人で電車に乗った。  イヤホンから、洋楽が流れる。たしか、失恋の歌だ。 『今日の一位は、魚座のあなた  新しい一歩を踏み出すのにピッタリ  ラッキーアイテムは、赤い花』  車内ビジョンに、星座占いが小さく映し出されていた。  テストの結果、イオリは初めて三教科で追試になった。 「じゃあ放課後、選択B2教室で追試な。遅れないように」 「きりーつ、れい」  昼休みは相変わらず、ムサシと一緒に昼食をとった。  イオリが持参する自分用の弁当と、ムサシ用のずっしりと重たい、丸いおにぎり。放課後は追試と、修学旅行の準備に追われる予定だ。 「は~ぁ……」 「追試?」 「そ。ごめんね、事前学習進んでないよね」 「……まぁ、そう」 「ごめーん……」 「別に」  真っ黒な、いつも通りのおにぎりと、コロッケパン。  それと、赤い水筒が増えた。どうやら萌花が、ムサシに持たせているらしい。 「そういえば」  プチトマトを頬張る。  口の中で弾けて、青みを帯びた甘酸っぱい果肉が潰れた。 「なんか、話あるって言ってなかったっけ」  ムサシの肩が跳ねた。  喉仏が、ゴクリと上下する。 「ムサシ?」 「……追試、全部終わるの、いつ」 「えっ。今日のが終わったら、あと……数学だけ」  ムサシは、緩く握った拳を額に当て、目を瞑った。 「土曜日、空いてるか」 「うん……」 「土曜日、十時に。南公民館」 「また急に決めるー。良いよ、十時ね」 「がんば」 「うん。ほどほどにね」 「それ、俺が言う方」  イオリは、んふっ、と笑った。  ムサシも、くっと笑った。

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