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第16話 響き合う朝

 神殿の瓦礫は、まだわずかに熱を残していた。遠くで復旧の声が上がっている。だが中枢の崩れた床には、別世界のような静けさがあった。  アシュレイは座り込んだまま、夜明けを見ている。穢れはもう暴れていない。背で、呼吸のようにゆるやかに揺れている。  隣に、レオンが腰を下ろした。ほんのわずかに距離を空けて——それが今のふたりには、妙にしっくりきた。 「……痛みますか?」  レオンが低い声で問いかけた。 「少しだけ」  アシュレイは淡く笑う。 「お前は?」 「全身が痛みます」  短い応答に、ふっと息がこぼれた。静寂が戻り、夜がゆっくりほどけていく。 「……怖かった」  レオンが告げた本音に、アシュレイが視線を向ける。 「何も感じないまま、殿下を傷つけるのが」  抑えた声が、わずかに震えている。 「戻れなかったらどうしようって、本気で思った」  胸の奥がきゅっと締まる。あの空虚な瞳が、脳裏をよぎったせい。奪われた温度と切り落とされた心。それでも——。 「戻った」  はっきりと言い切る。 「お前は、自分で戻ったじゃないか」  レオンが、わずかに苦く笑う。 「アシュレイが無茶するからだ」 「秩序ごと壊すって、あれ本気だったろ」 「当然です」  間髪入れない返答に、レオンが呆れたように息を吐く。その仕草が、妙に懐かしい——ちゃんと“レオン”だった。確かな温度に、アシュレイはそっと手を差し出す。もう躊躇はない。  レオンも迷わず、それを取る。指が絡むと、ぬくもりが伝わってくる。 「もう、贄は作らせない」  レオンの静かな宣言に、アシュレイは黙ったまま耳を傾ける。 「誰も俺も、アシュレイも」  どちらかが背負う形じゃない。ふたりで並んで守る。  神殿に朝日が差し込む。黒はやわらかく光を帯び、白は静かに溶ける。対立していた色が、同じ光の中にあった。  レオンが、わずかに距離を詰める。それでも、額が触れる寸前で止まった。 「……今度は、奪われない」  甘い囁きを聞き、アシュレイの指が強く絡み返す。レオンが、わずかに距離を詰める。それでも、額が触れる寸前で止まった。 「……今度は、奪われない」  甘く掠れた囁きを聞き、アシュレイの指が強く絡み返す。「奪わせない」短い言葉を告げた唇が、アシュレイの唇に重なった。最初は優しく、確かめるような口づけだった。  しかしすぐに熱を帯び、レオンの唇がアシュレイの下唇を甘く食む。舌がそっと滑り込み、湿った熱が絡み合う。息が混ざり、甘い唾液の味が広がる。レオンの腕がアシュレイの背中を強く引き寄せ、二人の身体が密着した。  戦いで傷ついた体同士が重なり合い、互いの体温が鎧と白衣の隙間から直接伝わってくる。胸と胸が押し合い、心臓の鼓動が同期するように激しく鳴り響く。  アシュレイの細い腰に回されたレオンの手が、まるで二度と離さないと誓うように強く抱き締める。アシュレイも応えるように腕をレオンの首に回し、身体をさらに密着させた。  戦いの疲れと安堵が混じり合い、互いの体温が溶け合うような甘い感覚が広がる。  唇は深く重ねられ、舌が激しく絡み合い、甘く淫らな音が静かな朝の空気に溶けていく。息が苦しくなるほど深く、熱く、求め合うキス。  やがて唇が離れたとき、二人の間には銀色の糸が一瞬だけ引かれ、朝の光に輝いた。

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