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後日談その2 公務中の均衡崩壊

 重厚な会議室。長机を囲む重臣たち。空気は異様に張り詰め、議題は神殿再編という国家の中枢に関わるものだった。 「本件について、王子殿下のご意見を」  一斉に視線が集まる中で、アシュレイはゆっくりと顔を上げる。冷静で、揺るぎない眼差しがそこにあった。 「神殿の権限は分割する。監視機構は、王家直轄へ移行――」  淀みない言葉を、誰もが聞き入った。完璧な王子の一歩後ろに、レオンは控えている。背筋を伸ばし、無表情で視線も動かない。  ――外から見れば、非の打ち所がない騎士の姿なのだが。 (……落ち着け)  内側は、まるで違った。アシュレイの横顔が視界の端に入る。首筋——今朝、確かに見た痕跡。一瞬で、思考が引き戻される。 (……思い出すな、今は任務中だ)  意識を切り替えるために、呼吸を整える。完璧に戻すはずだった。 「レオン」  公の場で不意に呼ばれる。 「はい」  即応して視線を向ける。アシュレイが、ほんの僅かに振り向く。 「資料を――」  短い指示は当然の流れだった。レオンは一歩前に出る。机の横に回り込み、書類を差し出す。その時、ほんの一瞬指先が触れる。確実にアシュレイの指が、わずかに絡むようにレオンの指に触れた。 (……っ)  心臓が、強く打つ。ありえない。この場でこの距離で——それなのにアシュレイの表情は、何一つ変わらない。 「ありがとう」  淡々と、何事もなかったかのように対応される。レオンは、無言で一歩下がった。しかしながら思考が、完全に乱れる。 (今のは——故意だ。間違いない。分かっていて、やっている。しかも、誰にも気づかれない範囲で。悪質だ、あまりにも……) 「では次に——」  会議は進むが、声が遠くに感じた。  集中しろ――そう命じるのに、アシュレイに触れられた指先の感触が消えない。温度がじわりと残る。 『レオン……あんッ、もっと強く抱きしめて…私を求めて』  昨夜の記憶が、鮮明に蘇る——触れた熱。絡んだ指。逃がさなかった距離。 「——レオン」  再び呼ばれた少しだけ低い声に、はっとする。 「はい」  視線を上げる。アシュレイが、こちらを見ている。ほんの僅かに目だけで。 「意見は」  一瞬、言葉に詰まる。完全に、思考が逸れていた。 「……現行案で問題ありません」  何とか繋ぐ。冷静に完璧に——のはずだった。沈黙、ほんの一拍。アシュレイの目が、細くなる。きっと分かっている、全部。 「そうか」  短く返す。それだけ。だがその声に、微かな含みがあった。  会議が終わるまで、あと僅か。レオンは一切の隙を見せない。完璧に任務を遂行する——外側だけは。  会議が終了した。重臣たちが退出していく。扉が閉まるその瞬間だった。 「……レオン」  名を呼ばれる。当然、逃げ場はない。 「はい」  アシュレイが椅子に座ったまま、こちらを見上げている。その目は、完全に愉しんでいるのが見て取れた。 「随分と、余裕がなかったな」 「問題ありません」 「そうか?」  立ち上がって、ゆっくりと距離を詰める。一歩、また一歩。レオンは動かない、動けない。 「公務中だぞ」  アシュレイは目の前まで近寄り、ぐっと顔を寄せた。 「それで、あの顔か」  低い声で囁かれたことで、レオンの喉が鳴る。 「……どの顔を指しているのか、分かりかねます」  最後の抵抗にアシュレイは、くすりと笑う。 「では教えてやる」  アシュレイの指がレオンの胸元に触れる。今朝と同じ場所、心臓の上を軽く押す。それだけでドクン、と強く跳ねる。 「これだ」  言い逃れは、できない。 「……生理現象です」 「またそれか」と言いながら、アシュレイは肩を震わせる。 「便利な言葉だな」  そのまま、さらに距離を詰める。ほぼ体が触れる距離に、レオンは息を呑むしかなかった。 「昨夜のことを思い出していたな」  断定された言葉で、レオンの視線がわずかに揺れる。 「……否定はしません」  ついに折れる。アシュレイの目が、満足そうに細まる。 「正直でいい」  そのまま、ほんの一瞬だけ唇が触れる——一瞬。誰にも見られていない、完全な死角。だが確実にレオンの思考が、完全に止まる。 「……殿下」  声が低い。危うい距離感と接触。アシュレイは一歩引く。何事もなかったように。 「今は公務中だ」  さっきと同じ台詞でも意味が違う。レオンは、深く息を吐く。 「……承知しています」  限界をなんとか抑える。その様子を見て、アシュレイが最後に一言だけ呟いた。 「——後で」  視線だけで続きを告げる。レオンの理性が、そこでぎりぎりで繋がる。 「……はい」  短い返答をしたが、その声にはもう隠しきれない熱が混じっていた。  夜。すべての公務を終え、静寂が落ちる時間。王子の私室の扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。 「……終わったな」  アシュレイが息を吐く。ようやく誰の目もない。誰の制約もない時間になった。 「はい。本日の予定は、すべて完了しています」  レオンはいつも通りに答える。姿勢も声も、全て完璧——昼間と、何一つ変わらない。それが、逆に腹立たしい。 「お前、随分と余裕だな」  アシュレイが独り言のように呟く。 「余裕ではありません。制御しているだけです」  あくまで冷静を保つが、その言葉の裏にあるものを、アシュレイは知っている。  ——ずっと、耐えていた。昼の会議。触れた指先。あの一瞬で、全部を押し込めて。それでも崩れなかった。崩さなかった。 「……そうか」  アシュレイは、ゆっくりと歩み寄る。一歩、また一歩。レオンは動かない。受け止める姿勢で逃げない。その距離がゼロになる。 「なら」  低く、静かに訊ねる。 「今はどうだ」  視線が絡むほんの一瞬、レオンの喉がわずかに動く。 「……問題ありません」 (——まだ、保つつもりか)  アシュレイは、息をこぼす。 (——面白い)  同時に胸の奥が、じわじわと熱を持つ。昼間、あれだけ揺さぶったのにまだ崩れない。それなら——。 「……くっ」  それでも先に息が乱れたのは、アシュレイの方だった。胸の奥が熱い。じわじわと積み上がっていたものが、一気に溢れそうになる。 「……レオン」  声が、少しだけ低くなる。 「はい」  即応。だがその声にも、もう余裕はない。互いにぎりぎりで均衡の上だった。 「もういい」  短く言う。 「——耐えなくていい」  一瞬、空気が変わる。レオンの瞳が、はっきりと揺れた。それが、引き金だった。気づいた時には腕が伸びる。迷いはなく、アシュレイの身体を引き寄せる。 「……んっ」  距離が消えて、さっきまでの均衡が一瞬で崩壊する。触れられた瞬間、アシュレイの呼吸が乱れる。 (——熱い。抑えられていた分だけ強い) 「後悔しませんね」  低い声で確認されたが、もう答えは決まっている。 「すると思うか」  レオンの口元がわずかに歪む次の瞬間、唇が重なる。昼のそれとは違う。確かめるだけじゃない。抑えきれなかった熱が、そのまま流れ込む。 「んんっ…っぁ!」  アシュレイの指が、レオンの服を強く掴む。逃がさないように。 「……殿下が、先に限界ですか」  レオンが息の合間に、かすかに笑う。アシュレイは何とか返す。 「悪いか」 「いいえ」  そのまま、さらに引き寄せる。もう遠慮はない。理性も均衡も全部、この瞬間に越えていく。ただ一つ。確かなのは——もう、奪われないということ。  触れても求めても誰にも、遮られない。それだけで十分だった。  レオンの唇が、再びアシュレイの唇を奪う。深く、激しく、貪るように舌が絡み合い、甘い唾液が混ざり合う。息が苦しくなるほど長いキスに、アシュレイの指がレオンの服を強く掴み、離れていた距離をゼロにした。 「……まだ、足りない」  レオンが耳元で甘く囁き、再び唇を重ねる。アシュレイの身体を優しく、しかし力強くベッドに押し倒し、衣服を脱がせて、うつ伏せにさせる。レオンの大きな手が腰を掴み、引き上げて四つん這いの姿勢に整える。白い背中が露わになり、腰のくびれと丸い臀部がレオンの視線を釘付けにした。 「この格好……好きです」  低く熱を帯びた声で囁きながら、レオンはアシュレイの腰を強く引き寄せる。そして用意していたローションを指先に塗り込み、アシュレイの窄まりに丁寧に広げていく。 「ンンッ……」 「あなたが、俺の前でこうして……全てを預けてくれる姿が。守るべき存在を、俺だけに見せて、俺だけに触れさせて、俺だけに乱れさせてくれる……それが、たまらないんです」  すでに硬く滾った屹立を、熱く濡れた窄まりに押し当てる。 「ん……っ、待って……まだ……」 「我慢できません」  一気に根元まで埋め込む。バックの体位で深く貫かれた瞬間、アシュレイの背が弓なりに反り、甘い悲鳴が上がった。 「あぁっ……! 深い……!」  レオンの腰が激しく前後に動き、肉棒が最奥を抉るように突き上げる。結合部から溢れる愛液が太ももを伝い、淫らな水音が部屋に響き渡る。 「アシュレイ……締まる……熱い……」  レオンの手がアシュレイの腰を強く掴み、容赦なく引き寄せながら腰を打ちつける。バックの角度で最奥を直接突かれるたび、アシュレイの身体がびくびくと痙攣する。 「は……っ、あんっ……そこ、すごい……」  アシュレイの声が甘く溶けていく。レオンは片手を伸ばし、アシュレイの前を激しく扱きながら、さらに深く突き上げる。肉棒が最奥を何度も抉り、愛液を掻き出す。 「もっと……声を出して……」  レオンの腰の動きが激しさを増す。肌がぶつかるパンパンという音と、濡れた水音が混ざり合う。アシュレイの背中が汗で光り、腰が無意識にくねってレオンを迎え入れる。 「レオン……もっと……奥まで……壊して……」  アシュレイの懇願に、レオンは低く唸る。脚をさらに広げ、深く沈み込むような角度で激しく突き上げる。肉棒が最奥を叩くたび、アシュレイの内部が強く収縮する。 「アシュレイ……愛してる……」  掠れた声で告白しながら、レオンは最奥を強く突き、熱い精を大量に注ぎ込んだ。 「あ……っ、いく……!」  アシュレイの身体が激しく痙攣し、自身も白い飛沫を放つ。レオンは射精しながらも腰を動かし続け、二度、三度と中出しを繰り返す。  溢れ出した精液が太ももを伝い、シーツを濡らす。  荒い呼吸の中、レオンはアシュレイの背中に覆い被さるように抱きつき、首筋にキスを落とす。 「……まだ、離したくない」  掠れた声で囁きながら、レオンは再び腰をゆっくりと動かし始める。この夜は何度も深く交わり、空が明るくなるまで続いたのだった。

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