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第11話 診療所
翌日、俺はサーシャから旅に何が必要であるか教わり買い物に行こうとした。
けれどアマンダから止められてしまった。
「もう、動いては駄目ですよ、カミルさん」
厳しい口調で言われ、俺は内心苦笑を浮かべつつ彼女の言葉に従うしかなかった。
「ねえアマンダ。話があるんだけど」
彼女からお茶の入ったカップを受け取りながら、俺は言った。
「なんでしょう?」
答えながら彼女は、ベッドの横に置かれた椅子に腰かける。
俺はお茶をひと口のみ、すっと息を吐く。そして、真剣なまなざしでこちらを見るアマンダに告げた。
「俺はここを離れようと思う。ノエル……様の事を考えると、俺はここにいない方がいいだろうと思って」
するとアマンダは目を丸くした。
まあ驚くだろう。でも、そうなる可能性はずっとあった。
ノエルは何度も俺にアプローチをかけてきていたし、彼のオメガが妊娠してからいっそうひどくなった。そして、この間の出来事だ。
このままでは、俺だけじゃなくアマンダ達にも何があるかわからない。
「あの……サーシャさんから話は伺いましたが……ノエル様に襲われた、んですよね」
声を潜めて言うアマンダの言葉に、俺は頷く。
「サーシャさんが気絶されているカミルさんを抱きかかえていて、とりあえず診療所の方に運んでもらって、その時に身体を診ました。その時、その……腕や、身体に打撲痕がありましたし……」
そしてアマンダは顔を伏せる。
「まさかノエル様がそんなことまで……アルファであることは存じ上げていますけど、カミルさんはオメガではないですよね?」
そんなアマンダの言葉に俺はとりあえず頷く。
本当に俺はベータ、なのだろうか。
その根拠は何もない。オメガであれば十代後半までには発情期が訪れる。それで判明するのだ。
けれど研究段階でありわかっていないことが多い。
だから俺が本当にベータなのか、ということについてなんの根拠も見いだせなかった。
あのノエルの執着心を見たら、俺はもしかしたら……
その可能性を思うと、マグカップをもつ手が震えてしまう。
もし、俺が本当にオメガだとしたらノ、エルのそばにいるのはやはり危険だろう。
あの男は俺を愛人にしかねないし、もし、万が一俺に発情期が来たらきっと、逃げ切れないと思う。
逃げるなら今の内だ。
「アマンダひとりでは大変かもしれないけど、能力には問題ないし大丈夫だと思う。ひとり看護師を雇うよ。お金もある程度渡すから君に診療所を託したい」
まっすぐにアマンダを見つめると、彼女は複雑な表情を見せた。
まつ毛が震え、視線を下に向ける。
哀しみ、憂い、同情、怒り? 色んな感情が渦巻いているように見える。
「どうしてノエル様はカミルさんにあんなひどいことを……」
俺が、彼の運命だかららしいが、そんなの関係ない。
俺はそんな風に思わないし、勘弁してほしいと思うからだ。
俺は肩をすくめ、
「さあ」
と、短く答えた。
「ここにいたら、ノエルの行動はもっとひどいものになりそうだから。サーシャさんと一緒に旅に出ようと思う。俺の祖父である勇者一行の事を知るのも楽しそうだし」
それに、アルファとオメガについてもっと知りたい。他の国に行ったらもっと詳しい研究が進んでいるかもしれない。さまざまな国で、オメガバースの研究がなされているはずだ。
ここにいては、その情報を得るのは難しかった。
微笑み言うと、アマンダは悲しげな目をして何度も頷きながら言った。
「そんな追い詰められるようなことになるなんて……」
追い詰められる、か。
確かにそうだな。
俺はただの医術師だ。
貴族に抗うことなどできないし、そんなことしたら社会的に死ぬだろう。
それなら逃げるしかない。
この町に未練がないといえばうそになるが、幸い俺は医術師だ。
どこに行っても需要があるから、金を稼ぐことはできるだろう。
それに、ひとりじゃない。
「サーシャさんも一緒だし、大丈夫だよアマンダ。準備もあるから少し先にはなるだろうけれど。看護師は俺の方で探すから診療所を頼むよ」
涙ぐむアマンダは、何度も頷きながら、
「わかり、ました」
と言った。
「私、まだ未熟ですけど……」
「大丈夫だよ、アマンダなら。せっかく医術師の学校を出ているんだし、その力を生かさないともったいないよ」
まだ女性が働くことについて風当たりが強い。
アマンダが医術師になる、となったとき父親の反対にあったらしい。結婚が出来なくなるからと。
けれどきっと、時代は変わっていくだろう。
「そう、ですね。ここで働かせていただいて、ちょっと自信はつきました」
と、涙目でアマンダは笑いながら言った。
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