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第1話
……痛い……。
身体が……痛い……。
ふっと意識が戻ったとき、リュカは地面の上に転がっていた。
闇夜の中に立ち込める硝煙と血の匂い。遠くで何かが燃えているパチパチという音がする。
――あれ、俺は……?
身体に走る痛みに呻きながら、直前までの記憶を探る。そうだ、自分は戦闘中だったはずだ。パートナーの騎竜に乗って、数人の仲間と共にレグラント軍基地近くの哨戒を行っていた。だけどその途中で予期せぬ攻撃を受けて……。
慌てて周囲を見渡したが、パートナーの騎竜の竜人の姿は見えない。どこか遠くに吹き飛ばされてしまったのだろうか。
――そうだ、ゼノ……。ゼノは……?
地上からの砲弾を受けたとき、リュカを庇うように、双子の兄のゼノが乗る騎竜が目の前に滑り込んできたことを思い出した。よろよろと立ち上がり、周囲に目を凝らすと、なぎ倒された木々の向こうに血まみれの細い身体が見えた。
『ゼノ!』
リュカは叫びながら駆け寄った。
『リュ、カ……』
か細い声とともに、ゼノが薄目を開けた。焦点の合わない蜂蜜色の瞳がさまよい、ようやくリュカの顔に視線が据えられる。
『無事か……? 怪我、は……?』
『俺は平気だ! ゼノが庇ってくれたから』
『良か、った……』
ゼノはほっとしたように笑みを浮かべたが、その身体は激しく震えている。胸からも腹部からも出血が止まらない。圧迫して止血しようとしても、あふれ出す大量の血で掌がぬるっと滑るだけだ。
絶望的な予感が背後から迫ってきて、リュカはしゃくりを上げた。
ゼノの震える身体からどんどん熱と血が奪われていく。一刻も早く手当てをしないといけないのに、自分たちがどこに墜落したのか皆目見当がつかなかった。上空を見上げても深い闇が広がっているだけで、仲間の助けは期待できない。
どうしよう、どうしたら――?
『……リュカ』
『しゃべっちゃだめだ!』
『いいから……聞いて』
リュカは涙を拳で拭いながら、ゼノの顔を覗き込んだ。
さっきまで苦痛に顔を歪めていた彼は、今はただ、穏やかな表情をしていた。青ざめた唇が小さく動く。
『リュカ、……ずっと……いっしょに、いれなくて……すまない……でも……おまえは……ひとりでもだいじょうぶだ……おれがいなくとも……いきていける……りっぱに……おまえは……』
言葉が切れ、口からごぽりと大量の血が噴き出した。
荒々しい息が、だんだん間遠になっていく。愛しい身体から、熱が、命が抜けていく。ふっとかすかな最後の息を吐き出したゼノの腕が、静かに地面に落ちる。
『……ゼノ……? ――――ゼノ!!』
リュカは髪を振り乱しながら絶叫した。
嫌だ。
死なないで。
約束したよね、ずっと離れないって、
ずっと一緒にいてくれるって。
約束したんだ、だから――――。
ぷつっと、引きちぎられるように意識が急上昇した。
はっと目を開けたリュカの瞳に映っているのは、蜘蛛の巣の張った木の天井と粗末なテーブルと椅子。……兵舎の自室だった。わずかに夜明けの気配が漂う真っ暗な部屋の中で、リュカはベッドに横たわっていた。
――ああ、またあのときの夢だ。
リュカは茫然と目を瞬き、大きく息を吐いた。絶望がゆっくりと身体中を覆い、手足がずっしりと重くなっていく。
こと切れた兄の身体に縋りつきながら泣きわめき、喉がつぶれるくらいに叫んでいるのは二年前の自分だ。
しばらく茫然としていたが、滝のように顔に流れる汗と涙を掌で拭い、リュカはゆっくりとベッドから起き上がった。
昨日までの嵐の名残で、強い風が窓ガラスを叩いている。そちらにぼんやりと顔を向けると、真っ暗な外の闇を背景にして窓ガラスに自分の姿がはっきりと映っていた。
柔らかそうな金色の髪の毛と蜂蜜色の瞳を持つ、中性的で繊細な顔立ちをした青年だ。それはさっきまで夢に見ていた双子の兄の姿に瓜二つで、リュカは呟かずにはいられなかった。
「……どうして……俺の方が生きているのだろう……」
狂ったように打ち付けている心臓。引きつるような呼吸を続ける胸。そのすべてが厭わしかった。
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