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番外編 君との夜-3(sideヤン)

「シリル」  見て。俺だけ、見て。お前がいないと駄目な男がここにいるってことだけを考えて。  声なき声で囁いたとき、シリルがそうっと腕を伸ばした。 「い、いよ」  シリルの指先がなぞったのは、左目の眼帯。黒いそれがシリルの手によってはらりと外れ、寝台の上に落ちる。現れた赤い石をシリルがそっとなぞった。  申し訳なさも彼の中には依然としてある。でも今、左目に触れた指先にあったのは贖罪の想いではない気がした。  生きていてくれてうれしい。そんな声が確かに指先から聞こえたから。 「して。お願い」  ……ああ、こいつはやっぱり天使だ。  欲望と焦燥感にまみれた願い事。それをシリルは正確に掬い取ってくれるから。そのうえで言ってくれる。いいよ、だけではなく、お願い、と。  ほしくてほしくてたまらないこの気持ちがこちらだけのものではなく、お互いのものなのだと言うように。 「ありがと」  短い礼がわずかに滲んでしまった。目尻に浮かんでしまった涙を振り切るようにヤンは一度頭を振る。そうして自身を恋人の奥地へと進める。もうこれ以上進めないほど先へ。 「あっ、あっ、ああああっ……!」  細い体が大きくわななく。がくがくと足が震える。そのシリルの膝頭に手を突き、ヤンは激しく腰を使う。 「ああああっ……」  意識が快楽の波へと飲まれていく。それはお互いにそうで、もうまともな思考なんて一切紡げない。ただひとつになることしか考えられない。 「シリ、ル」  言葉なんてどれほども出せない中、お守りみたいな名前を呼ぶと、恍惚の海に完全に没した瞳がこちらを見上げた。  細い腕が、こっちに来て、と伸ばされる。誘われて体を倒すと耳元で、ヤン、と切れ切れの声で名前を呼ばれた。 「な、に?」  本能のままに腰を動かしながら問うそのヤンの耳元で、喘ぎに飲み込まれそうな声でシリルが囁いた。 「好き……」  声によって再び血液が沸騰する。シリルの中に埋めた自身までがどくんと脈打つ。 「お前、ほんと、もう」  だめだ。もう抑えられない。  激しく腰を突き入れる。それに連動するようにシリルの目がぶわっと欲に曇る。こんな、意志も理性も失った彼の顔を自分だけが見られることに失神しそうな幸福を覚えながら、ヤンはシリルの耳に声を落とした。 「出す、よ。シリルも、いって」 「ん、あっ……」  声に引きずられ、ヤンの手の中で彼が達する。あまりにもいやらしすぎるその光景に脳が完全に焼き切れた。体の中をなにかで押されたように、ヤンもまた彼の奥へと放つ。 「はっ……あ……」  どくどくと熱い液体がシリルの中を穢す。受け止める体は痙攣している。心配になって顔を覗き込むと、絶頂のその瞬間閉じていた瞼がふわっと上がった。 「大丈夫、か?」  無理をさせたかったわけではないのについやり過ぎてしまった。体を起こして恋人の様子を確かめようとしたが、それを止めたのは細い腕だった。 「も、ちょ、っと……」 「なに?」 「もうちょっとこのまま……」  声とともにきゅっと腕に力が籠る。汗ばんだ肌と肌がこすれ、そのじっとりとした感触に心臓が激しく踊った。 「ちょっとじゃなくていいよ」  零れだした声がするりと恋人の耳の中へと落ちていく。 「ずっとこうしてようか」  表面的な笑顔ならこれまでいくらでもしてきた。家具職人として客相手に笑わなきゃいけないことも多かったし、なにより闇魔術師の血を持つ自分には敵が多かった。少しでも警戒されないようにするために穏やかな顔は必須だったから。  でもこんなに甘い声は誰にも向けたことがない。腕の中の彼にしか、ない。  体を重ね、欲望を放出し終わった後だというのにずっと抱きしめていたいと願うなんてこともまた。  腕の中で彼はうとうとし始めているようだ。その無防備な表情に笑みを誘われながらヤンは、情事の最中には返せなかった言葉をそっと返した。  明日も明後日もともにいられる、その幸福に震える声で。 「愛してる」 ―――番外編 完―――

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