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番外編 君との夜-2(sideヤン)

 その言葉にこちらがくらくらする。 「くらくらしたら、お前、どうなっちゃうの?」  低く囁きながら細い首筋を食む。あ、と漏れた声にはすでにびっしりと欲望が滲んでいる。 「こういう声、出ちゃうってこと?」 「馬鹿っ……そうい、う、こと言わなっ……あっ……」  抗議の声が思わず漏れた声に掻き消える。口で拒絶しながらも声は嘘がつけていない。その素直な反応に愛おしさを感じながら白い肌を指で、舌で辿る。  同じ男のはずなのに、シリルの体は自分とはまるで違う。雪原のように清らかで、滑らかで。触れるだけで敏感に痙攣を返す。  光魔術師と闇魔術師。自分達は対極の者同士だったけれど、魔術とは関係なく、シリルは光や白が似合う。だからこの行為はそんな降りたての新雪を穢すようにも思えてしまうが、彼の魅力はその清らかさだけじゃ、ない。 「ヤ、ン……」  シリルの体の隅々に口づけを落としていると、上ずった声で名前が呼ばれた。 「どした?」  シリルの足を上げ、太ももの内側を吸い上げ、痕をつけながら問い返す。できるだけ穏やかに、柔らかく、いつも通りのトーンの声で。とたん、シリルがじれったそうに唇を震わせた。 「お願い……」 「なに?」  わかっていながらそう言ってふくらはぎに唇を押し当てる。すると、シリルの手が髪を掴んできた。 「そこじゃ、なく、て」 「じゃなくて?」 「もうっ……」  真っ赤になった顔がこちらを見つめてくる。雪とは真逆のねっとりと熱い眼差しに焼かれ、ヤンは焦らすのをやめた。だってこちらももう限界だ。  ごめんな、と囁いてヤンはシリルの中心に顔を埋める。すでに十分に張り詰めていたそれを吸い上げるように舐めると、シリルの細い背が反った。 「んっ……ふっ……ああ……」  待ちわびた感触に体が歓喜しているのがわかる。でももっと悦ばせたくて、ヤンはシリルの後ろへ指を差し入れた。まだ少し硬いそこをじりじりと優しく指先で掻き回すや否や、小刻みに震えていた体が一層跳ねた。 「やっ……やっ……そんなしちゃっ……やっ……」  拒絶の声を無視して前で追い立て、後ろでじんわりと欲情の火を点ける。悶え、髪を振り乱して声を上げる彼の反応が自分の中にも火を灯す。施しているはずの自身の体が熱くてたまらない。気が付くと息も荒くなっている。  口と指先、両方で時間をかけてシリルの体を溶かすうち、皮膚の内側で快感に似た情動が渦巻き始め、ヤンはたまらずシリルの足の間から顔を上げた。 「シリル」 「んっ……な、なに……」 「俺、さ」 「う、ん」 「このままだとお前にめちゃくちゃしちゃいそうなんだけど。どうしよう」 「んー……」  熱に浮かされた目でシリルがこちらを見る。ゆらゆらと揺れる紅の瞳の美しさにうっとりするヤンの耳に、いいよ、とかすかな声が滑り込んできた。 「して、いい。ヤンも気持ちよく、なって、ほし……」  言葉の途中で我慢ができなくなった。ぐいっと膝頭を押して足を開く。すっかり潤んだそこへ自身の中心を押し当てるとそれだけでシリルは呼吸を乱した。  まるで、早く、と言いたげな期待の籠った息遣いに目の前がちかちかするほどの興奮を覚える。熱くなる頭を一振りし、ヤンはシリルに囁きかけた。 「ごめんな、ひどく、するよ」 「ん」  ふわっとシリルの目が柔らかく和む。全部を許してくれる眼差しに体が緩むほどの安堵を覚えながら、ヤンはシリルの中に自身を沈める。言葉では乱暴にすると言いながらも注意深く体を進め、埋め切ったところで深く息を吐くと、シリルが笑んだ。 「口、ばっか。優しいんだから、ヤンは……」 「お、言ったな。笑ってられるのは今だけだって」  唇をひん曲げて言ってやったがシリルはまだ微笑んでいる。少し意地悪い気持ちが湧き上がってきて、ヤンは身を起こした。収め切った自分を勢いよく引き、叩きつけるように奥を突くとシリルが高い声を上げた。 「ああっ……やっ……」 「優しく、ない、だろ」 「そ、んなことなっ……んんっ……あああっ」  言葉を返すことができないくらい激しく揺さぶる。先ほどまでの余裕は完全に消え失せ、シリルの目尻に涙が浮かぶ。  泣かせたいわけではないけれど、情事の最中に泣かれるとなぜかより昂ぶってしまう。それほど加虐性のあるタイプではないはずなのにもっと涙を見たくなる。そんな自分がほんのり怖くもなるが、理性はとっくに手の届かない心の外側だ。  シリルの中に自分を収めているだけで熱くて気持ちよくて、正常でなんていられない。 「なあ、シリル」  この状況では満足に話しなんてできないのがわかっているけれど、腕の中の恋人へヤンは尋ねる。 「もっとひどくして、いい?」 「やっ……」  反射的にシリルが声を上げる。けれど、その声を無視し、ヤンは埋めた自分でシリルの中を削り取るように激しく腰を揺らす。 「やっ……だめっ……だめっ……奥、そんなし、ちゃっ……もっ……」 「だめ? ほんとに?」  意地悪く声をかける。シリルは涙をいっぱいにためた目でいやいやをする。やりすぎか、と腰の動きを緩めたときだった。  細い腕がきゅうっと背中に回され、どきっと心臓が鳴った。 「やっ……」  細い汗ばんだ腕。その腕が言う。もっと来て、と。 「嘘つき」 「あああっ……!」  耳元に声を落とし、ヤンはシリルを抱き起こす。膝にシリルを乗せ、揺すり上げるように突き上げるとシリルが嬌声を上げた。  普段の彼とは明らかに違う声に脳が溶けそうになる。 「もう、やめる?」 「やっ……やだっ……やめ、ちゃ、やっ…はっ……あああっ」  口から漏れる言葉はいつしか懇願へと変わっていた。泣きじゃくり、ひっきりなしに喘ぎながら首を振り、首に絡められた両腕でヤンを締め付ける。もっともっとといわんばかりにしがみついてくる細い体をヤンも情動のまま、強く抱き寄せる。 「もっとほしい?」 「んっ……もっと、もっ……とっ、あ、あんっ」  自分の自重でより深くヤンが収まってしまってどうにもできないシリルが、快感を求めるように腰を揺らす。その必死な仕草にヤンは息を呑む。  だめだ。可愛い。  くらくらしちゃうから激しくしないで、とシリルは言ったけれど、それはやはりこちらのほうだ。こんな淫靡な姿を見せられたら正気を保ってなんていられない。  こらえてもこらえても込み上げて来る射精感に眉根を寄せながらヤンはシリルを再び押し倒す。  シリルも限界が近いのか、彼の中心はしっとりと濡れてひくついている。その彼を片手で握り締めながら腰を動かすと、シリルがひときわ高い声を上げた。 「あっ、あっ、ああっ……んんっもう、ヤン、もうっ……」 「うん」  わかってるよ、の意味で短く頷いてヤンは奥へとぐいっと自身を埋めた。奥の奥へとねじ込むように先を押しつけと、やっ、とシリルが涙目でこちらを見上げてきた。 「そっ……そこっ……だめっ……!」 「うん、でもごめん。ここ入れさせて」 「でもっ、でもっ……」  奥の奥。いつもはそこまで入れない。でもだめだ。今日は、入れたい。  自分にこんな獰猛な感情が眠っていたことに驚きながらヤンはシリルの目を覗き込む。 「シリル、お願い」 「ん……」  ああ、まったくひどい男だな、と自分自身に呆れる。  こんな言い方をされてシリルが頷かないわけないのに。  でも今日はシリルの体の隅から隅までを穢してしまいたくてたまらなかった。  自身の罪に向き合おうとしているシリル。その心をこちらに向けてなにも考えずに済むようにしてしまいたかった。

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