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第一章 【一】青羽―お金がない!
柔らかな霜月の雪がちらつく中を帰宅し、スマホに届いたクレジット会社の請求書を開いて仰天した。
【日野 青羽 様
○○年十一月ご請求分 十五万二千円
引き落とし日……十二月某日】
「十五万円!」
六畳二間のボロアパートの家賃六万円は、口座から自動送金に設定している。化石となりつつあるスマホ二台の通話料金と光熱費は二万円もかからないはず。身に覚えのない請求額に目を走らせると、某電話会社のオンラインショップで最新機種のスマホが購入されていた。
コンコン。
「奈々 、いるのか。聞きたいことがあるんだ」
ガチャリ。
「なによ。うわ、汚なっ。作業着脱いでシャワーしてよっ」
不機嫌な妹の手には、見たことのないスマホが握られていたー!
「そ、それはなんだよ?」
「スマホじゃん。壊れたから買った」
「なんで勝手に買うんだよ。相談してくれよ」
「だってお兄ちゃん、中古買うに決まってるでしょ。断固拒否!」
「十三万円は高すぎるだろう。俺の給料は十八万だぞ。どうやって暮らす気なんだ?」
「うるさいなぁ。ナンチャラ還元商品券が送られてくるって。良かったじゃん」
「もっと安いのがあっただろう?」
「いやよ。母さんが亡くなる前から、ずっと貧乏を我慢してたんだもん。これぐらい買ってくれてもいいじゃん。最新のスマホがないと馬鹿にされるんだから!」
逆ギレされて、ほとほと困り果てた。いまさら返品など出来ないし、スマホという友情育成アイテムがなければ、妹が高校卒業までボッチになりかねない。下手すると不登校だ。
母親が男と駆け落ちしたのは、俺が五歳の頃だ。酒を飲んで荒れていた父は数年後に再婚して『人並みの家庭を築けた』と喜んだが、五年前に肺炎であっけなくこの世を去った。それが引き金になったのか、奈々の母親も二年前に他界。両親を失い貧乏に耐えてきた妹を、強く責めることは出来なかった。
「ネットで買い物はしばらく控えてくれよ」
拗ねて返事もしない妹の部屋を出るとシャワーを浴びた。
残り物のカレーを無言で食べ終えた妹が、皿も下げずに真新しいスマホをいじりだした。いままで隠してたんだな……。
『人間は誰しも隠しておきたい事があるもんなんだ。それをほじくり返しても幸せになんてなれないんだよ。いいか、青羽。沈黙が平和を保つことだってあるんだ』
死んだ父さんがそう俺に言い聞かせたのは、ずっと昔のこと。だけどこれは黙ってられない案件だった。
俺、日野青 羽 (二十一歳)は東北一の繁華街から数キロ離れた町工場に勤務している隠れゲイだ。薄給で四歳下の妹に贅沢はさせてあげられないけれど、無遅刻無欠勤で頑張ってきたつもりだった。が、先月は冬のコートや服を無断でネット購入されて、とうとう僅かな貯金に手を付けてしまった。初めて五千円の小遣いを渡した時、友達とカラオケやカフェに行けると喜んでいた妹の姿が遠い昔のようだ――。
いや。そんなことよりも、我が家の経済状況はかなりマズい。やはり夜もアルバイトをするしかないだろう。零細企業の社長は転職されるよりマシだ、とWワークを黙認しているのだ。さっそくコタツに潜り込みながら化石スマホで検索してみた。
ふむふむ、繁華街のラブホテルで清掃員を募集しているな。曜日、勤務時間応相談。時給は千百五十円。深夜加算ありで悪くない。接客業は性に合わないから、これにしよう。
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