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【八】水上―ペットはどこだ?②

「例の医者が麻薬横流し容疑と脱税で逮捕されたよ」 「そうですか」 「冷酷な男だな。愛人を脅しとけってテツに頼んだだろうに、日野君の義妹は気にならないのか。共犯で逮捕されるかもしれないぞ」 「されても自業自得です。青羽に連絡が来れば対応しますよ、それなりに」  探偵屋とヤクザの幹部は視線で会話を交わしていた。ふん、なんだよ。俺は身勝手な妊婦と関わりたくないだけだ。これは青羽の為なんだ。パソコンから顔を上げたテツが調査結果を伝えてきた。 「今泉の正体が分かりましたよ。奴は二十年以上前に解散させられた暴走族のリーダーです。警察にマークされたので、よそで流れのチンピラをしていました。数年前に帰郷し、族の後輩にビジネスを始めないかと声をかけて回っています」 「うちの組員も知り合いだったよ」  なるほど、それで調査が加速したのか。 「ビジネス……オレオレ詐欺か」  テツが向かい側で首を振る。 「いいえ、大麻栽培と加工製品の密売です。先週、大学生がアパートで大麻栽培をして逮捕されました。高額のバイト求人で自家製高級野菜の栽培と銘打ち、大麻を育てていたんです。出来心で使用して具合が悪くなり、救急車を呼んで隊員が発見、通報されました。大学生の供述に今泉の名は出て来ませんが、日野君の昔なじみの【山田】が繋がりました。奴はどこかで大麻を飴やクッキーに加工し、若者へと売りさばいています。警察は山田を指名手配しました。星刑事は今泉も一緒に逮捕して、来週クリスマスプレゼントを押収したい。無論、我々も害虫駆除に協力するつもりです」 「今泉は山田経由で大麻も売っているのか」 「そうです。奴は海外旅行で独自にコカインの入手ルートを開拓したようです。山田と組んで、さらに大麻で設けようとしている。取り引きのからくりに青羽君が気づいて知らせてくれました」 「俺は聞いていないぞ」  からくりとは何だ? 「水上社長、そんなに怒るな。俺がテツに口止めを命じたんだよ。実は『ルキア』に潜入している組員から、今夜客と今泉がコカインの売買を行うとの情報が入ったんだ。そしてその後、【山田】がご執心の【日野青羽】を拉致するのを手伝って欲しいと今泉から頼まれている」 「拉致してどうするつもりだ?」 「確か、金持ちのジジイが若い男を欲しがってるって話だったな」 「薬漬けにして売るつもりですかね」 「取り引きは今夜だろ、なに悠長にしてるんだ。何時なんだ。それに組員を潜入させていたなんて俺は知らないぞ」  俺のホテルで勝手なことしやがって。 「潜入だからね。君に知らせる義務もない。犯人を突き止めたんだ。我々に感謝して欲しいね」 「その組員は誰だ?」  青羽には武術や護身術の心得はない。今泉と山田が就業後を狙って彼を襲えば、いとも簡単に車へ運ばれてしまうだろう。 「青羽をここへ呼ばないと……」  立ち上がり、デスクの固定電話に近づく。 「おっと、まだ話は終わっていないぜ」 「水上社長、座ってください」  有無を言わさぬ口調だ。逆らえば青龍神(ブルードラゴン)に噛みついたと見なされる。さすれば、繁華街からは追放されてしまうだろう。 「青羽君は君が義妹を見捨てるとわかっていて、我々に救いを求めてきたんだ。だから、交換条件を提示した」  龍青会組長の右腕はダークスーツから煙草を取り出して火をつけた。 「まさか、わざと拉致させるつもりか」  誘拐容疑も加われば拘留時間も延長できる。 「おや察しがいいね。だが交換条件は違う。ほら、彼の左腕にはカメラがついているだろう。それで取り引きを録画してもらうんだ。君のためにもなるし、妹も遠くの安全な病院で出産できる。彼は喜んで引き受けたよ」 「青羽の愛情を利用したな」  プルルルル。 フロントからの内線電話が鳴り響き、茂山副社長が頷いたのを確認して受話器を取った。 「もしもし」 「社長、高木君が早退しました」 「バイトの早退報告はいらない」  それどころじゃないんだよ! 「それが、Aチームの山本さんから『今泉さんが戻ってこない、フロアを捜してもいない』と連絡が来たんです。ヘルプを頼もうとした日野君も調理場に戻ってきません。二人とも男子トイレにも、更衣室にもいないんです」  どういうことだ? 「すぐいく」  受話器を置いて振り返った。 「テツ、首尾はどうだ?」  茂山副社長の言葉に、探偵が頷いた。 「予定通りです。二十時十五分。白い営業用バンに日野君が運ばれて出発しました」 「なに!?」 「落ち着いてください、水上社長。星刑事が覆面で追跡しています」 「あんたら、青羽を騙したな。高木が組員なのか?」  わざわざここを訪れて、俺を監視から遠ざけた理由が腑に落ちた。 「刑事が『お菓子の家』を発見して無事逮捕できれば、我々も都合がいいんだ。高木は組員ではないよ。さあ、下に行って紹介してあげよう」 「俺は青羽を連れ戻す」 「我々と一緒に行こう。日野君の腕時計からは、まだスクランブル信号が出ていない。君の秘密兵器が必要なんだ」 「なぜそれを……」  テツを睨んだが、彼は(よう)(へい)(づら)を崩しもしない。 「テツじゃない。あれは俺の弟が作ったんだ。一個百万円以上する指輪なんて滅多に売れないからね。君は我々に貢献してくれてるよ」  街の宝飾店は青龍神(ブルードラゴン)の傘下企業だったのか。  定員六名のエレベーターにガタイのいい野郎共が詰め込まれて一階に到着した。社長室から廊下を挟んだ休憩室に入ると、フロント社員がギョッとしながらも近づいて来た。 「青羽はどこじゃ」  調理場から恋人の守護者が顔を出したが、かなりお(かんむり)だ。 「虎爺さん、お久しぶりです」 「これはこれは……茂山さんじゃないか。青羽をどうしたんじゃ?」 「すぐに戻ってきますよ」  自信ありげなダンディースマイルに女性フロント社員が顔を赤らめた。おい、そんな場合か! 「虎爺さん、佐々木さん。俺は出掛けてくる。この件は内密に」 「わかりました」 「私もご一緒します」  現れた人物に、茂山副社長が頷く。 「ああ、そうしてくれ」 「まさか、組員は君なのか?」 「詳しくは、車中でお話しします」  Bチームのリーダーが、冬仕様の服装で微笑んでいた。

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