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【八】水上―ペットはどこだ?①

 刑事に麻薬売買の悪事を知らされてから、毎日十七時から二十四時までパソコンにへばりついて防犯カメラで従業員を監視していた。テツの部下が外部で調査を進め、消去法で容疑者を絞っていく。昼間のパートは全員シロ。女性フロント社員の佐々木もシロ。夜勤専門の男性社員二名もシロ。夕方から深夜勤務の大学生やWワーカー達……。この中に犯人がいる。俺の服を脱がす妄想全開の女子大生とBチームのリーダーは辞めさせたいがそうもいかない。  Bチームのリーダーは灰色だ。今夜は彼女を重点的に監視してみよう。  コンコン。カチャリ。 「夕食をお持ちしました」 「ああ、ありがとう」  青羽が料理人として勤務を始めてから、夕食は炒飯セットか五目焼きそばを交互に食べていた。コックコート姿の恋人がコーヒーテーブルにお盆を置いて手招きする。おや、今夜はカレーライス、サラダ、そしてコーヒーのメニューだ。スパイシーな匂いに腹が鳴った。 「同じメニューは飽きるだろ?」  スプーンで多めにすくい、急いで口に入れた。 「うん、うまい。バイト連中に嫉妬されそうだな」 「アハハハ。うん、賄い付きならここのバイトだけにするって学生がいってるよ」 「なに? 今まで聞いたことないぞ」 「ほら、ラーメン屋や居酒屋って賄い付きが多いだろ。あれ目当てでバイトしてるんだって」  求人募集にかける広告費と、賄いの食費を脳内ではじき出す。面接の手間暇を考えれば、炒飯セットを提供して人員を確保するのは、仕事の効率も上がって得策かもしれない。 「賄いか……考えておくよ」 「うん!」 「もっと従業員と面談の機会を持たないとな。ありがとう、青羽」 「カレーが気に入ったのか。今度はシチューにしようか?」  彼は俺の気づかない事柄を示してくれるが、押しつけがましさなど一切ない。虎爺さんが虎横飯店の調理場に隠しておかなければ、数年前に出会っていたかも知れない。いや高校生を連れ込んだら、あの医者と同類になっちまうところだった……。  全ては、運命がここで交わるように定められていたのかも知れない。    カレーを堪能し、デスクチェアに座ると満足のため息をついた。そろそろWワーカーや学生が出勤してくる。引き続きパソコンで監視すると、三階西の非常階段でBチームのリーダーが高木君と抱き合っていた。  え、お前らデキてたのか。まてよ、『高木と女子大生が備品倉庫で抱き合っていた』と青羽に報告を受けていたじゃないか。二股か?    プルルルル。 「こんばんは、水上社長。少し上で話ができるかな」 「……ラーメンはありませんよ」 「調査に進展があってね。相談したいことがあるんだよ」 「わかりました」  一時間ほどペントハウスに戻るとフロントへ告げてエレベーターに乗り込むと、十分後に茂山副社長、護衛二名とテツが現れた。 「忙しい時間帯に悪いな」  遠慮など微塵も感じられない口調だ。この男が女性に泣きつく日が訪れたら、俺が豚骨ラーメンをホテルメニューに加えてやる。 「青羽は勤務中なので、食事はないですよ」 「なんか、カレーの匂いがしますね」 「腹減ったっす」  護衛め、余計なことを! 「食べたいのなら、ご自由にどうぞ」  ご飯があるのかは知らん。 「おい、よそってこい」 「はい!」  青羽はデキた男で、炊飯器に炊きたてご飯、保温器にカレーをタップリと用意していた。それに冷蔵庫には福神漬けまで。まるで来客を見越していたかのようだ……。 「「いただきます!」」  茂山副社長と護衛がダイニングテーブルでカレーにがっつくのを無言で眺めていた。テツはソファーで持参したノートパソコンを眺めながらカレーを口に運んでいる。イヤホンを時々手で調節しているのは、何かを受信しているのか。 「これ、母ちゃんのと同じ味がする」 「バーモン○だろ」 「少しスパイスが入ってるな」 「副社長、グルメっすね」 「青羽は仕上げに少量のお酢とインスタントコーヒーを加えてますよ」 「部下に伝えときます」  護衛がお代わりをしに席を立つ。おい、遠慮が無いな!  リビングの壁時計が二十時を刻み、カーテンが開け放しの窓は黒炭の闇に包まれていた。ネオンが霞むほど雪雲が厚いのだろうか。室内はエアコンが行き渡り、俺が入れたドリップコーヒーを飲み終えると書斎へ移動し、護衛達は廊下へと消えた。茂山副社長とテツが向かい側のソファーに腰を下ろす。テツはノートパソコンに集中しながらも会話に加わるようだ。 「さて、我々で内緒話でもしようじゃないか、水上社長」  青龍神(ブルードラゴン)の幹部が会話の口火を切る。 「……はなからそのつもりで待ってます」 「君のペットはとても多才で羨ましいよ。料理人で、献身的な社員で、家族思いだ」 「青羽はペットじゃありませんよ」 「おや、君は子犬を飼ったんじゃないのか」 「あれは立前です。事件が片付いたら、日野の姓は水上に変更するつもりです」  秘めていた計画を明かしてしまった。 「……それは本人に伝えたのか?」 「いいえ。全てにけりがついてから」 「水上社長、ニュースは見たか?」 「何かありましたか?」

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