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【九】青羽―一番街のスターダスト②
ブレーキ音と、ぶつかった衝撃。シートベルトもせずに横たわっていた俺は、転がって床に落ちた。助手席の下に足が突っ込んでいく。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ。
車が滑り落ちて、ようやく止まった。
「今泉さん」
返事がない。気を失っているのか?
「日野君、返事して」
「っはい……」
シーツの猿ぐつわを外した。目隠しも邪魔だ。
「日野君、頭上の室内灯はつくかい?」
カチリ。辛うじて明かりが車内を照らした。
「うわ……」
車体は、山の斜面を大木に追突し、フロントガラスが大破していた。チャラ泉さんが逆さになって流血している。首が変な方向に曲がっていた。
「シートベルトをしないからこうなるんだ。」
「死んでるのか?」
「分からない。さあ手を出して。シーツを切るよ」
彼の手には鋭利なサバイバルナイフが光っていた。ためらっていると、爆弾発言が落ちた。
「俺は星刑事の部下だ。○署の潜入捜査官だよ」
「星刑事の……」
両手を差し出すと、戒めの布がハラリと落ちた。
「足は自分で切って脱出するんだ。早く!」
切羽詰まった口調に、反射的に従った。拘束が解かれてスライドドアを開けると、車体が揺れた。
「高木君、ドアは開くのか?」
「いいから、先に逃げろ」
「どうしたんだ?」
「いいから早く!」
「どうしたんだよ!」
「……足が挟まって動かない。いいから行け!」
グラッ。再び車体が揺れた。このままでは、斜面を転がり落ちてしまう。
「嫌だ、一緒に出るんだ!」
後悔するのはもう嫌だった。奈々が迷いながらも俺を追い返したのを、叱らずに手を離してしまった。透の悩みを消したくて、黙って行動してしまった。父が下田親子をカモフラージュに利用したのを、正当化してしまった。
俺は、そんな生き方は止めるんだ!
「シートベルトを外して」
ゆっくりと車外に出ると、後部から運転席側に回り込んだ。二十センチ程雪の積もった斜面は、油断するとスニーカーでは滑って転倒してしまう。ドアレバーを引いて、高木君の身体に触れた。
「右足のつま先に感覚が無い」
「引っ張るよ」
グッと力を入れて、膝から先を掴んで引っ張った。
「うっ!」
「頑張れ、掴まって!」
グラッ。車体が徐々に下方に傾いてきている。まずい。
「いいから逃げろ……」
「馬鹿野郎っ。俺を卑怯者にする気か!」
グイッ。足下の雪を踏みしめて彼を持ち上げる。高木君も左足で加勢して、勢いよく飛び出してきた。
ドサッ。ギギギギギギギギ~。ガツッ。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガ。
俺の上に高木君が倒れ込んで来たと同時に、白いバンが山の斜面を滑り落ちていった。暗闇に飲み込まれ、状況が全く掴めない。
「助かった……」
「日野君、ありがとう」
「俺、道路で車を探してきます」
「星刑事が尾行している。もうすぐ到着するはずだ」
そうだ。スクランブルボタンを忘れていた。腕時計の突起を長押しして、カメラに向かって告げた。
「高木君が怪我をしています。すぐ来てください」
動けない高木君を座らせて山肌を這い登った。蹴られた背中も、地面の雪に着く手も、感覚が無くなっていく。降りしきる雪がトレーナーに染みて重い。何メートル移動したんだろう。
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