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【九】青羽―一番街のスターダスト③
『高校を卒業したら、この街を出るんじゃ。あの娘は捨てていけ』
虎横飯店の厨房で、虎爺さんは幾度も俺に促した。けれど、俺はどうしても我が儘な義妹を見放すことが出来なかった――。
俺達の親はろくでなしで、子の幸せを考える素敵な両親じゃなかった。八 木 山 ボニーランドに子供を連れて行く人間じゃなかった。観覧車に家族で乗る夢を、何度見たことだろう。
期待が諦めに、諦めが絶望になる瞬間を、奈々は俺よりも沢山知っている――。
アパートでラリっている義母の姿は、俺でさえ情けなくて涙が出た。
だからせめて、俺だけは奈々の『まともな兄』でいたかったんだ。
やっと道路に辿り着いた。遠くの空にナイターゲレンデの明かりが浮かび上がっている。やはりここは泉岳の麓だった。でも、もう立っていられない……。溢れる涙が生きている温もりを伝えてきた。父親の葬式以来、泣いたことなどなかったのに。
透に会いたい。彼を愛している。
俺はまだ、透に思いを伝えていない――。
ひとめで俺を魅了した赤毛の海賊は、恵まれた環境にも関わらず異人の鎧をまとっていた。幾千のネオンが瞬く繁華街で出会った俺達は、性欲を満たす割り切った関係を飛び越して、犯罪が絡まりついた。
星屑と害虫が混在する街で、俺は透の一等星になれたのだろうか?
寒さと後悔と絶望のまま、死にたくはなかった。
背後から車のライトが道路を照らして近づいて来る。二台が通り過ぎ、そして停まった。ドアが開いて人々が降りてきた。
「高木君はあっちです!」
転落現場を指さすと、星刑事とテツさん達が斜面を下っていった。
「青羽!」
ああ、その声が聞きたかったんだ……。
抱きしめてきた赤毛の大男に頬ずりした。早く伝えなくては。
「「愛してる」」
完璧なハモリ具合だった――。
※ ※ ※
「高木君が刑事だって知ってたの?」
「新人の頃、星刑事が店に連れて来たことがあるんじゃよ」
豪華な個室のソファーに座る虎爺さんが秘密を暴露した。俺は『山本ビューティークリニック』に検査入院していた。結果次第では午後に退院できそうだ。リクライニングベッドに寄りかかる俺に、透がせっせとプリンを口に運んでいた。
「それ、いつの話?」
「五年以上前じゃなぁ……」
「高木刑事って何歳なの?」
雪道をスリップし、センターラインを越えてきた車を避けて山の斜面を滑落した事故から三日が経った。
俺に報復しに泉岳へ向かっていた山田は無事逮捕され、アジトで栽培されていた大麻や、加工されたお菓子も押収された。クリスマスプレゼント(麻薬)は死亡したチャラ泉さんのマンションで発見され、手柄を立てた星刑事は昇進。青龍神 はたいそうご機嫌で、害虫駆除に一役買った俺に『ビジネスホテル水上』の経営権をプレゼントしたいと打診してきた。もちろん、丁重にお断りした。
俺は透と一緒にファッションホテル『ルキア』で働いていくつもりだ。
コンコン。ガチャリ。
「こんにちは」
「こんにちは。ねえ、高木刑事は何歳なの?」
「本名は岩沼です。歳は二十八歳です」
右足をギブスで固定し、松葉杖をついた岩沼刑事が星刑事と共に現れた。青龍神 お抱えの病院に来るなんて大丈夫なのか。
「骨折したんだろう。休まないでいいのか」
透がベッドに腰掛け、俺の手を握ったまま威嚇している。芝居でも俺を殴り、危険な目に遭わせた刑事を許していないのだ。
「もちろん、犯人も逮捕できたし休職しますよ。その前に日野君に伝えたいことがあるんです」
「もう水上だ。手短にお願いするよ」
グルルルル。うなり声が聞こえてきそうだ。そう、俺は透のプロポーズを受けて入籍した。
「まさか青羽君の相手が社長とは思いませんでした」
「おれ、面食いだって言ってたよ」
性別は明かさなかったけど。
「まあ、それは否定しませんけど。女性だと思っていたんです。だから諦めてたのに……」
「永遠に諦めてろ」
「水上社長、性格悪かったんですね」
「意外と我が儘なんだよ~」
「そんなのろけ要りません。青羽君、助けてくれてありがとう。もしGPS搭載指輪に飽きたら、いつでも俺のところへおいで」
「え?」
「はい、面会終了!」
「透、大人げないぞ!」
「青羽……」
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