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番外2 初夜(R18)
付き合って約半年。
太河は大学生、凪は教師二年目となった。付き合いは至って順調。二人でいろいろな場所に行ったり、凪の家に太河が泊まったり、軽いキスもよくする。
その先?
……その先には、進んでいない。
原因は付き合う時に凪がストップをかけたせいかもしれない。それにしても、我慢のできなくなった太河が何かしら言ってきたり、手を出してきたりするのではないかと心の片隅では思っていた。しかし、その気配は一向にない。
大学生ってもっと性欲旺盛なものじゃないのか!?
近頃こんなことばかり考えているせいなのか知らず知らずのうちに職員室で深い溜息を吐いてしまっていた。職場に私情を持ち込むなんて良くない、と切り替えようと思ったが、タイミング良くというべきか、悪くというべきか石水にぽんっと肩を叩かれた。
「須藤先生、お悩みですか?」
「……なんでわかったんですか」
「わかりやすいですから。屋上で息抜きしません?」
「……はい」
屋上の扉を開けると残暑の風がクーラーで冷やされた身体を包み込んだ。以前、石水とここへ来た時と同じようにフェンスのほうへと歩いていきグラウンドを見下ろす。
体育の授業をやっているクラスが視界に映ったが、もちろんそこに太河の姿はない。彼は今頃大学で真面目に講義を受けているはずだ。
「それで、どうしたんですか? 恋愛の悩みですか?」
「……お見通しすぎません?」
「だって須藤先生がここまで悩んでいるなんて、恋愛関係以外にないでしょ」
「……そう、ですね」
この人は本当にエスパーなんじゃないか。この調子なら凪の悩みも言わなくてもわかっているのでは、とも思ったが、さすがにそこまではわからないようで凪が話し出すのを辛抱強く待っている様子だ。
けど、こんな悩み、幼稚すぎる、女々しすぎる、と思われてしまうかもしれない。
何度か口を開いては閉じを繰り返しながら以前、石水に相談した時のことを思い出す。あの時も彼は笑い飛ばすようなことはなかったし、凪のことを後押ししてくれた。それに、こんな悩み、他に相談できる人はいない。
一度強く瞼を閉じ、フェンスをぎゅっと握りしめてから意を決して言葉を出した。だが、その声は思いのほか自信のない、小さなものになってしまった。
「こんなこと、相談するのもあれなんですけど……その……先に進まないというか……」
最後のほうは聞こえているか怪しいものだった。きっと距離はあってもグラウンドで騒いでいる生徒たちの声のほうが断然大きく聞こえていただろう。
石水の顔を見ることができず、俯きながら反応を待っていると彼は笑ったり嘲ったりせず、落ち着いた声で尋ねてきた。
「先に進みたいと思っているんですか?」
「……はい……けど、ちょっと怖い気もしていて……幻滅されないかな、とか」
太河相手にはキスだけで勃ってしまったという恥ずかしい過去がある。その時と同じ反応をしてしまったら、それはそれで恥ずかしいが、もしキス以上のことをして何も反応しなかったら、という不安のほうが大きかった。気持ち良さを感じなかったり、彼の期待に応えることができなかったりしたら……。
さすがにここまで詳細な相談をすることはできず、凪が口籠ると石水は少し呆れたようにも見える笑みを浮かべた。
「須藤先生、それは俺にじゃなくて相手にそのまま相談してみてください。それに幻滅なんてしないと思いますよ。相手も須藤先生が言ってくれるのを待っているかもしれませんし」
「待ってる、んですかね……」
「佐伯は忠犬ですからね。須藤先生が待てって言ったらずっと待ってますよ」
「……」
ん……?
今、佐伯って言った……? 言った、よな?
えっ、バレていた? いつから!?
確かに石水の口から出た『佐伯』という言葉。太河の苗字。昨年の太河と同じ学年に佐伯という苗字は他にはいなかった。つまり、石水が言ったのは間違いなく佐伯太河である。
完全に隠しきれていると思っていたのに、知らぬ間にバレていた。
この状況に頭が追い付けずに硬直していると石水が顔を覗き込んできた。
「須藤先生? 固まっちゃってどうしました?」
「あの……今、佐伯って言いました、よね……いつから……」
「え? あぁ、最初に相談された時からそうかなって思ってましたよ。それに、酔ってて覚えてないかもしれないですけど、卒業式の日に『今日告白されるかも』って嬉しそうに言ってたあとに迎えに来たのが佐伯でしたから。いやぁ、ラブラブで羨ましいなぁ」
最初の相談……この屋上でした時、視線の先のグラウンドには太河がいた。そして、卒業式の日。凪は酔いつぶれていたが、記憶のないところで石水と太河は接触していたのだ。
あまりの衝撃に顔が真っ赤になり、言葉が出せずに口をただただ開閉させてしまう。
「とにかく、佐伯とちゃんと話してくださいね。じゃあ俺は先に戻ります。先生は顔の赤み収まったら戻ってきてください」
ひらひらと手を振って去っていく石水の背中に言葉が何も出せないまま扉がパタンッと閉まる。
顔の赤みが収まったら、と言われたが顔が燃えるように熱い。立ち続けていることができず、凪はその場にしゃがみこんで膝に顔を埋めた。
相手がバレている状態でする恋愛相談がこんなにも恥ずかしいなんて。しかも教師と元教え子。付き合ったのは卒業式後だけど、石水にはその前から凪が太河のことを好きだということがバレていた。しかも、まさに今、『相手と先に進めない』なんてとんでもない相談をしてしまった。年下相手に先に進めなくて悩む教師……ダメだ……考えれば考えるほど現実逃避したくなってくる。穴があったら入りたい。
秋の太陽の日差しはそこまで強くないはずなのに顔の熱さはじりじりと増していく。しばらくの間伏せていてもそれは一向に収まってはくれず、凪は仕方なく口元を抑えながら顔を上げて小さく呟いた。
「……このあとの授業できるかな」
◆
待ちに待った週末。凪が多忙ということもあり平日はなかなか会うことができないが、週末は基本的に太河が凪の家に泊まりにきていた。
目の前に並ぶのは凪の作った夕飯。いつも通りの光景。しかし、毎週末そこに置かれているものが今日は置かれていなかった。
「今日はお酒飲まないの?」
「まぁ……休肝日」
もちろんそれは建前。本当はとても飲みたい。べろべろに酔っ払ったら余計な恥を捨ててきっと太河にいろいろと聞くことができる。しかし、泥酔したら確実に話した内容を忘れてしまう。そんなの本末転倒だ。
今日はお酒の力は借りない。ちゃんとシラフで向き合う。
夕食を食べ終え、凪が風呂から上がってくると先に風呂を終えた太河はソファに座りながらスマホを弄っていた。高校のときよりもまた少し体格の良くなったその身体の横に腰掛け、軽く寄りかかる。
「太河、あのさ……」
「ん?」
「……」
なんで手出してこないんだよ。俺とこれ以上のこと、したいとか思わないのかよ。
ほんの数語の言葉。授業ならすらすら出てくるのに。
喉元まで出かかっている言葉は何かに阻まれているようで、声になってくれない。
カチカチと部屋の時計の音がやけに大きく聞こえ、それよりも自分の心臓の音が耳の奥でバクバクと煩くなっていく。
「凪? 何かあった?」
「えっと……」
俯きながら泳がせた視線の先でソファの上に置かれた太河のスマホ画面が点灯した。暗かった画面が突然明るくなったことに思わずそちらに目を向けてしまう。
表示されているのはメッセージの通知。少し太文字になっているのは明らかに女性の名前。その下に表示されたメッセージは何と書いてあるかわからなかったが、太河が女性とやりとりをしているという事実に思考が停止する。
「凪?」
キーンという甲高い耳鳴りに重なり、太河の声が遠くに聞こえる。
ダメだ、何か、答えないと。
「……スマホ……連絡、きてるぞ……」
何とか声を絞り出したが明らかに震えていた。
どうして震えているんだ。視界も何かおかしい。
あ、泣きそうなんだ。こんなところ太河に見せたくない。
バッと顔を背けながら立ち上がりかけたが、太河に手首を掴まれてそのまま彼の腕の中に抱きこまれてしまった。
とくとくと鳴る彼の心臓の音が間近に聞こえ、目の奥がじわっと熱くなっていく。
「本当にどうしたの?」
「なんでもない……連絡、急ぎじゃないのか」
「ゼミの連絡だから後で良いよ。それより凪のほうが心配。顔見せて?」
ゼミの連絡……そっか……。
太河は昔からモテたが、凪の前で女性と関わっているところを見せたことはほとんどなかった。彼はいつも凪のことばかりを見ていたから、それが普通になっていた。
その太河が女性とメッセージのやりとりをしている姿を少し見せただけでおかしなくらいに動揺してしまった。
太河が凪を裏切るわけがないんだ。もっと信用しなければ。
少し後ろめたさがありながらも渋々顔を上げると太河の指先が凪の目元を軽く撫でた。
「キス、していい?」
「……うん」
軽く弧を描いた唇は目元に触れ、彼の唇から微かな温かさが伝わってくる。
涙は流れていないはずだが、太河はそこに雫があるかのように舌先で目尻を軽く舐めた。犬に舐められているかのようなくすぐったさに身を捩り、瞼をきゅっと閉じると彼の唇は凪の薄くて柔らかい唇へと触れた。
音もしないような軽い口付け。太河はいつもそれだけで終わらせる。
凪が昔のような口付けはしたくないと言ったから、彼はその言いつけを付き合ったときから半年以上ずっと守り続けている。凪は詰めていた息を吐きだし、太河の頭の後ろに手を回した。
「……太河、もう一回」
「うん、良いよ。何度でも」
再び唇に柔らかい感触が重なる。軽い口付けが何度も繰り返されるが、彼はその先には決して進もうとはしない。
やっぱり、さっきのだけじゃダメだ。はっきり言うか、自分のほうから行動を起こさないと。
凪は意を決し、薄く唇を開いて軽く舌を出した。
「凪、良いの……?」
「……ん」
こくりと頷き、凪は自らの舌を太河の口内へと差し入れた。彼の中はとても熱く、柔らかい。もう少し中に、と舌を伸ばすと太河の舌に触れた。昔触れた時はその感触とがむしゃらさに翻弄され、頭が真っ白になってしまった。
今は、その感触が気持ちよく、身体の全ての熱が高められていく感覚を抱いた。一度味わった彼の舌は凪のものよりも厚くて大きいように感じる。
太河も探り探りといった様子で、凪が太河の舌をぺろぺろと舐めているのを観察していたが、次第に凪の口内にも舌を差し入れ始めた。舌だけでなく、歯列、口蓋と舐めていき、二人の唾液が絡み合っていく。
最初は余裕があると思っていた凪もすぐに満足に呼吸ができなくなっていることに気付いた。僅かに開いた隙間から酸素を取り込み、余裕なさげに太河にしがみつく。すると、太河の指が凪の耳に触れた。いつもすぐに赤くなってしまうその場所は今も赤くなっており、耳の先を指先でくにくにと弄られ、びくんっと身体が大袈裟に跳ね上がる。
「ん、ぁっ……た、いっ……んぅっ……」
耳の骨を揉まれるくすぐったさに身体は逃げようとしたが、太河に口付けを深くされてしまった。互いの唾液が口内で混ざり合い、飲み込み切れなかったそれが凪の顎をツーッと伝い落ちていく。
貪りつくような口付けをされながら薄く瞼を開けると太河の熱い瞳と視線が交わる。
いつから、見ていたんだろう。もしかして、キスをしている間ずっと見ていたんだろうか。
真剣な視線に至近距離で見つめられ、キスで翻弄され、骨が抜かれたかのように上手く力が入れられなくなっていく。ようやく唇が離れた時には息も絶え絶えで、辛うじて身体を起こせているような状態だった。
はぁはぁと荒く呼吸を繰り返し、次の行動はどうしようかと頭の片隅で考え始めたところで凪は大変なことに気付いてしまった。
ありえない。
誰か嘘だと言ってくれ。
そんなありもしないことを願いながら僅かに視線を下へと落とす。
「……」
硬くなっている。自身の下半身が。
しかも、さっき腕を引かれたときに太河の脚を跨ぐ形になっていた。この硬さ、絶対気付かれている。
「凪、勃たなくなったんじゃなかったっけ? ちゃんと反応したね」
「……えっ!? なんっ、おまっ、知って!?」
太河にこのことを話したことはなかったはず……いや、話したのか……。もしかしたら酔っ払った勢いで言ってしまったのかもしれない。
口をぱくぱくさせながら顔を赤くさせている凪を見て太河はにやりと口角を上げた。
「去年の夏休み。凪が自分から言ってきたんだよ。そのとき、俺がキスして試してみる?って聞いたら、もし反応したら困るからキスしたくないって……ずっと軽いのしか嫌って言ってた理由、やっぱこれだったんだ?」
「~~っ! ばかっ!」
全部知られていた。しかも一年以上前に。
あの頃は付き合う予兆なんて全くなかったのに教え子に対して一体何を暴露しているんだ。
一年前のことを思い出したいような、この際完全に忘れてしまいたいような複雑な気持ちで太河のことを軽く睨みつける。そんな凪を宥めるように太河は少し赤くなった目尻を軽く撫でた。
「とりあえず凪が元気になったみたいで良かった。あ、下半身の話じゃなくてね」
「殴るぞ」
「暴力反対! それで、元気なかった理由は?」
凪はむすっとした表情からいつもの表情に戻り、言葉を探しながら視線を落とした。
正直に言おうと決めた。だけど、年上としてこんなことを言うのは情けないような気もしてしまい、結局出てきたのは消え入りそうな小さな声だった。
「……お前、全然手出してこないから……魅力がないのかなって……」
「……」
「……太河?」
「凪、俺がどれだけ我慢してるか知らないでしょ」
「え?」
ぐっと抱き寄せられ、彼の身体にぴたりと密着する。そして、触れた。彼の熱い部分に。凪だけじゃない。彼のその場所も硬くなっているのだ。
「なん……っ!?」
下半身のものに驚いている間に彼の手が服の中へと入り込んできた。熱くて大きな手が腰、背中となぞっていく。ただ触れているだけなのにそこからはぞくぞくとした快感を生み出されているような気がして、目を見開いたまま固まってしまう。
「ずっと我慢してるんだよ。凪のこと怖がらせたくないから」
どくんっと心臓が大きく飛び跳ねる。太河の吐息が耳にかかり、じわじわと体温を上げていく。
背中をなぞる彼の手は肩甲骨や背骨を這い、触れられた素肌がしっとりと汗で濡れていった。そして、指先が下がっていくとどうしても想像してしまう。その先のことを。
凪はごくりと唾を飲み込んだ。
「や、りたい……?」
「うん。凪が許してくれるなら毎日でも」
耳元で言われた言葉は直接脳内に流し込まれたかのようで、ぞくっと身体が震える。
太河とそういうことをしたら自分がどうなってしまうのかわからない。だけど、身体も心も太河のことを求めているのは間違いない。
だって、キスだけでこうなってしまうのは太河に対してだけだから。それは今も昔も、きっとこれからもずっと。
彼の服をきゅっと掴み、肩に顔を埋めて小さいながらもはっきりと答えた。
「ベッド、行こう」
◆
「一応聞くけどさ……俺のこと抱きたい、で良いんだよな……?」
「そう、だけど……えっ、凪も抱く側で考えてた!?」
「……ぷっ、良いよ。俺が抱かれるほうで」
正直、太河に抱かれる想像は何度かしたことがあった。初めてキスした時の彼の強引さがそうさせたのかもしれない。それか、今のこの体格差を考えて、というのもあるかもしれない。自分自身としても不思議だが、自分が受け手になることに抵抗はなかった。もちろん、太河が相手という場合に限るが。
凪の覚悟はとっくにできていたが、それでも太河は心配そうに眉尻を下げて凪の顔を覗き込んできた。
「本当に大丈夫? 嫌じゃない?」
「嫌だったら誘ってない。それと、そこの引き出しのやつ、使って」
ベッドサイドの引き出し。そこには凪が予め買っておいたコンドームとローションが入っている。
これは付き合って比較的早い段階で購入していたものだ。まさかそこから半年以上も放置されるとは思わなかったが、ようやく役に立つ日がきた。
「ふっ……さすが先生、準備は怠らないね」
「……保健体育は専門外だけどな」
「じゃあ俺たち対等だ。優しくするよ、凪。もし痛かったら言ってね」
カチッと一つ小さな電気に落とし、太河は凪のことをベッドにゆっくりと押し倒した。
もっと勢いに任せてやってくるのかと思いきや、彼はまるで宝物でも扱うかのように凪の顔にキスを落としてくる。そして先ほど背中をなぞっていた手が今度はお腹側から服の中へと入ってきた。ゆっくりと上がってきた手は胸の突起をくりっと摘まみ、むず痒いような微弱な刺激が走る。
「んっ……」
「ここ、感じる?」
「わかんない……服、脱ぎたい。お前も脱げ」
「積極的だね」
そういう意味で言ったんじゃない、汗掻いて不快だったからだ。そう言おうとしたが、自身の服を脱がされたことと薄暗い中で太河の裸を見たことで言葉は詰まってしまった。
昔の太河はこんな逞しい身体をしていなかった。
今、目の前にいるのは記憶の中とはかなり違う。大人の男。胸板も厚くなり、腹筋も綺麗についている。
今からこの身体が凪のことを抱こうとしているんだ。
「見惚れちゃった?」
「……うるさい」
ぷいっと横を向くが、すぐに顎を掴まれて唇を塞がれてしまった。口内に入り込んだ舌が少し強引に凪の舌を絡め取っていく。
やっぱり、太河のキスは気持ち良い。
こんなこと本人に言ったら調子に乗るから言わないが、キスだけで全身が蕩かされ、自身の制御ができなくなってしまうのだ。それを示すように少し落ち着いていた下半身がすぐに反応を見せ始めた。
むずむずとする感覚に両膝を擦り合わせていると太河の指が胸の突起の周りをなぞってきた。円を描くようになぞられ、くにくにと二本の指で軽く揉まれる。ただ、決して先端のほうには触れようとはせずに周りだけを刺激され、なんともいえない感覚が募っていく。
女じゃないんだしそんなところで感じるわけがないんだ、そう思った瞬間、二本の指がくりゅっと突起を少し強めに摘まみ上げた。
「んぁっ……!」
びりっと痺れるような快感が腰に走り抜け、重なり合った唇の隙間から高めの声が零れ落ちる。
最初はそれが自分の口から出たなんて思えなかった。しかし、それを聞いた太河は止めるどころか乳首への刺激を強めてきた。
くりくりと弄られ、きゅーっと引っ張られ、じんじんとした痺れが増していく。小さな胸の粒をこんな風に弄られたら普通なら痛いと思うはず。それなのに、痛いどころか、触れられた部分から電気を流されたような強い快感が腰にまで広がっていく。
「ゃ、っ……あっ……だ、めっ……」
「凪、胸弱いでしょ?」
「ちがっ……ぁ、あっ、それっ」
ニッと口角を上げた太河が身体を下へとずらした。弧を描いた唇がちょうど凪の胸の上辺りで止まる。
嫌な予感と期待が入り混じり、上手く呼吸ができない。
少しずつ太河の唇が下がっていき、小さな突起に近付いていく。震える手を伸ばして止めようとしたが、その手は彼の肩に軽く添えるだけになってしまった。
まだ触れられていなかった小さな胸の粒に太河の唇がちょんっと触れ、身体を跳ねさせながら大きく目を見開く。
「だ、だめっ、たいっ……あ、ぁっ!」
熱い口内に小さな突起が包み込まれる。ぬるぬるとした感触、先端に触れる舌先、それだけでも十分だったのに、彼は唇できゅうっと吸い上げてきた。軽く歯を立てられ、痛みと快感がない交ぜになった感覚に腰が上がり、全身がびくびくと跳ね上がる。
反対側の乳首も指で弄られ、快感を追う以外のことが考えられなくなる。下からもぐちゅぐちゅと濡れた音が響き、そのまま果ててしまいそうになったが、太河は唇も手もパッと離してしまった。
「な、んでっ……」
「イっちゃいそうかなって思って。すごい擦りつけてたよ」
擦りつけていた……。
涙で霞んだ視界で下を見やる。そこには腰が上がり、太河の身体に自身の硬くなった部分を擦りつけている姿が残っていた。
これじゃあまるで彼の身体を使ってオナニーをしていたみたいだ。
あまりにも恥ずかしい。しかし、性に支配された思考は果てたいという欲でいっぱいになっていた。
「……イきたい」
「んー、我慢」
「えっ……」
「初めてだから、凪と一緒にイきたい。もう少し我慢できる?」
これじゃあどっちが年上かわからないような言い方だ。しかし、太河が言っていることも十分わかる。これは二人にとって初めてだから。
凪は身体を小さく震わせながらもこくりと頷いた。
「……早く」
「うん、下も脱がすよ」
「んっ」
ズボンと下着を一纏めに掴まれて下へとずらされていく。
中は先走りの液体でびしょびしょになっていた。黒のボクサーパンツだけでなく、ズボンにまで染みが広がっていたことに顔がじわじわと熱くなっていく。
性行為の経験はないが、自分で抜いた時だってこんなにも先走り液が出たことはないし、そもそも割と適当に済ましてしまうことのほうが多かった。
こんな姿、変だと思われていないだろうか。そんな不安も過ったが、晒された陰茎を指先で軽く撫でられたことによってその考えは掻き消され、代わりに快感が与えられた。
「凪のここ、綺麗な色してるね」
「ん、っ……あんま、見るなよ……」
「はぁい。後ろ、触るね」
本当はもっと前を触ってほしい気持ちもあったが、凪が達してしまうと思ったのか太河はすぐに手を離してしまった。
透明な液体を流し続けてふるふると震える陰茎を自分で擦りたい衝動に駆られながらも、まだイくな、イくな……と心の中で念じているとローションを纏った太河の指が窄まった部分に触れた。ひやりとした感触にきゅっと一瞬力が入ってしまうが、すぐにローションは人肌に馴染んでいき、力も次第に抜けていく。
丹念に周りにぬめりを与え、ぷちゅっと小さな音を鳴らして一本の指が中へと入ってくる。
痛みは、今のところない。快感もなく、異物が入っているということだけを強く感じる。本当にこんなところで気持ち良くなれるのだろうか……。
変に力を入れないように息を吐き出し、全身の力を抜いた瞬間、太河の指がある場所をぐりっと擦り上げた。
「ひ、ぁっ!?」
びりっと腰に刺激が駆け抜け、目の前に白い光が弾け飛ぶ。
自分の身体に一体何が起こったのかわからなかった。チカチカとした余韻がまだ残る中に太河の声が飛び込んでくる。
「ここ、凪の気持ち良いとこ?」
「な、に……あ、あぁっ!」
再びぐりぐりと押し上げられ、腰がびくんっと仰け反る。今までに感じたことのない内側からの強すぎる快感。中から直接射精を促されているような感覚。押される度に神経が痺れ、陰茎からはどぷどぷと透明な液体が止まらなくなってしまう。
「た、いっ、だめっ、そこっ、すぐ、イっちゃっ」
「凪、我慢だよ」
そう言いながら太河は指の本数を増やしてきた。ローションを纏った二本の指が狭い穴の中をばらばらに動き、時折狂おしいほどに快感を与える部分を引っ掻いてくる。
太河にキスをされたあの時からAVを見ても勃たなくなってしまい、自分が不全になってしまったのではないかと一時期不安にもなった。一応、刺激を与えれば反応はしたため、完全なる不全というわけではないが、それでも他人に対して興味を失っていたとは言える。
そんな自分の身体が、今は太河が触れる場所の全てが快感になっていた。直接触られている場所だけじゃない。彼の視線、呼吸、体温……彼から与えられる全てが気持ち良くてたまらない。
「ふ、ぅっ……たいがっ……へんっ……からだ、おかしい……」
「痛い?」
「ちがう……わかんなっ……い、あぁっ!」
圧迫感が増し、狭い穴が更に押し広げられる。
たっぷりとローションをまとっているおかげで痛みはほとんどない。ただ、あの長くて骨ばった太河の指を三本も咥え込み、それが中を擦って出入りしているということに頭がどうにかなってしまいそうだった。
身体の細かな痙攣も止まらず、涙もぽろぽろと止まらなくなっている。それに加え、太河は凪の弱い場所を的確に擦ってくる。しかし、中だけの刺激ではあと一歩足りず、凪は本能に従って自身の陰茎を扱きたくて仕方なかった。
「は、ぁっ……んっ、前もっ、さわりたいっ……」
「後ろだけじゃ足りない?」
「んっ……」
こくりと頷くと太河の手が凪の陰茎に軽く触れた。それだけで痺れるような快感が全身に駆け抜け、びくんっと腰が跳ね上がる。
「あぁっ!」
もっと擦ってほしい。そのままイかせてほしい。
自ら腰を上げて太河の手に擦りつけそうになったが、太河は手を離し、後孔に入っていた指も全て抜いてしまった。
「ん、ぁっ……な、んで……」
「イくのは一緒って言ったでしょ? 凪だけ先はダメ」
だからって、この寸止めはひどすぎる。太河も早くイってくれないだろうか。
そんな理不尽なことを考えていると太河がズボンと下着を降ろしてコンドームを付けていた。薄暗い部屋の明かりの中でも見えたその輪郭。一度視線を外したものの、やはり気になってもう一度見てしまう。
……でかい。
最後に見たのは多分、中学入りたての頃くらい。もちろんあの頃は身長もそこまで大きくはなかったし、そこのサイズも身長に見合ったものだったはずだ。
身体と同じように立派に成長しすぎていて、少し怖くなってきた。
「凪?」
「……なんでもない」
これ以上見ていたら怖気づいてしまいそうで凪はさり気なく視線を逸らしたが、すぐに太河に気付かれた。彼の大きな身体が覆いかぶさり、唇に軽くキスが落ちてくる。
「怖い?」
「……へいき」
「すぐ気持ち良くしてあげる。それか目隠しとかする?」
「ばか、へんたい」
太河の軽口にくすりと笑い、彼の腰へと両脚を回す。二人の汗ばんだ下半身が密着し、ローションで濡れた秘所にくちゅりと太河の先端が触れる。
ドキドキと鼓動の早まりを感じる中、ふぅーっと息を吐き出すのと同時に太河がゆっくりと腰を押し進めてきた。指で十分に広げられた後孔に今度は彼の陰茎が入ってくる。
指とは違う質量、熱さ。そして、間近に感じる大好きな太河。彼が中に入ってきている。
「っ……あっ、まっ、て……!」
「えっ?」
「ひ、ぁっ……!」
びくびくっと身体が激しく痙攣し、目の前に白い光が飛び散る。中途半端に入った彼の陰茎をきゅうきゅうと締め付けてしまい、張り上がった亀頭が凪の弱い部分を更に押し上げた。
陰茎を擦って達するのとは違う長く続く快感に、少しの間なにが起こったのか理解が追い付かなかった。涙でぼやけた視界の中に太河の顔が見え、徐々にいろんな部分の感覚が戻っていく。その中で鮮明に感じたお腹の上の生暖かいもの。さっきはなかった白濁の液体。それは間違いなく凪自身から出たもの。
嘘だと思いたかった。だけど、お腹の上にあるこれは紛れもない現実。初めてで、挿入しただけでイってしまったのだ。
「……凪……一応聞くけど……初めて、なんだよね?」
「ッ……あたりまえっ……おまえが、さっき中途半端に止めたからっ……あっ、まってっ、いまはっ」
射精の余韻も冷め切らぬうちに太河は更に陰茎を奥へと押し進めてきた。指では届かなかったところにまで入ってくる彼の長大なものにチカチカと視界が明滅し、太河の腕を強く掴む。それで止まってくれれば良かったのだが、凪の思うようにはならず、太河は中へ中へと入ってきた。
狭い穴が押し開かれていき、太河に埋め尽くされていく。
こんなの普通なら苦しくてたまらないはずだ。だけど、時折気持ち良い場所を彼の陰茎が擦り上げ、苦しさと気持ち良さがごちゃまぜになっていた。
「んっ、ぁ……たいっ……す、すとっぷ……」
息も絶え絶えに訴えると太河の動きがその場でぴたっと止まる。
多分、全部は埋まりきっていない。一気に入れてしまえという気持ちと、一度止まってくれという気持ちがぶつかり合い、優先されたのは後者だった。
言う通りに止まった太河は凪の表情を伺いながら頬を優しく撫で、僅かに腰を引いた。
「きつい?」
「ちょっと……まって……」
はぁはぁと呼吸を繰り返しながら高まり過ぎた快感をどうにか収めようとする。すると、太河がいろんなところへキスを落としてきた。額、鼻先、唇、喉仏……そこまでは良かった。彼は身体への愛撫も加えてきたのだ。確かにその行動は後孔以外へ一時的にでも意識を向けられた。だが、彼に触られた場所の全てがおかしなくらいに敏感になっていることにも気付いてしまう。
耳も、鎖骨も、胸も、身体の何処を触られてもびくびくと跳ねてしまい、お腹の上を撫でられた瞬間、凪は思わずその手をぱしっと掴んだ。
「う、ごくなっ」
「……はい」
今度こそ太河は大人しく止まった。凪のことをぎゅっと抱きしめ、首元に顔を埋めたが少ししてからくぐもった声を漏らした。
「そろそろ動いて良い?」
「ま、だっ……」
もう少ししたらちょっとは落ち着くかもしれない。そう思って太河に『待て』をさせているのだが、身体は一向に落ち着く気配をみせない。むしろずっと中に入っている彼の存在を余計に強く感じてしまい、快感は増している気さえしていた。
「……っ……な、ぎっ……動いたほうが、楽になるかもよ……?」
「や、だっ……だって、おまえが、さわったとこっ、ぜんぶ、おかしいからっ、まだ、だめっ」
「……」
ぐちゅっと下から濡れた音が響く。それは動くなと言って大人しくしていた太河が腰を引いたことによって出た音だ。少し動いただけなのかと思いきや、彼はそのままゆっくりと腰を引き続け、同時に凪の中を張り上がった亀頭で擦り上げていく。
「ッ、あっ……うご、くなって……言ったぁっ……」
「今のは凪が悪い」
「えっ、なんっ……あ、ゃあぁっ!」
抜けるぎりぎりのところまで引かれていた彼の陰茎が再び中へと埋め込まれていく。早い動きではないが、それが余計に中を擦られているということを鮮明に感じさせた。そして、凪の弱い部分をぐっぐっと押し上げ、射精感が増すと共に喘ぎ声が抑えられなくなってしまう。
普段の声もそこまで低いわけではないが、それでもここまで高い声が出ることなんてほとんどない。口を閉じようと思っても太河に擦られる度に勝手に口が開いてしまい、凪は両手でぎゅっと自分の口を押さえつけた。
「凪、声聞かせて」
「……や」
くぐもった声で答えると太河は凪の手の甲へキスを落とした。ちゅっ、ちゅっと何度もキスをしながら下では緩慢な動きで抽挿を続け、じわじわと快感を引き上げてくる。
最初は手で強く押さえつけて声を我慢していたが、中の弱い部分や最奥を軽く突かれる度に力が抜け、少しずつ指の隙間から息が漏れていた。それを狙っていたかのように太河は指の間を舌先で舐め、熱い瞳で凪のことを見つめてくる。
「凪、手どけて。キスしたい」
「うっ……」
ずるい。
その顔は反則だ。
太河がイケメンであるのは周知の事実だが、凪は小さな頃から彼を見てきたこともあって見慣れてしまっていた。しかし、今見たこの表情……これは……世の中の全てが惚れるのではないだろうか。
それともこれが惚れた弱みというやつなのか。
どちらにせよ、そんな顔でお願いされたら凪が抵抗することなんてできなかった。
自身の唇を塞いでいた両手をゆっくり外すと太河が微笑みを浮かべ、唇同士を重ね合わせてくる。
最初は軽いものから少しずつ深いものへ。舌を絡めあっていくうちに腰の動きも徐々に早まっていき、お互いの熱も高まっていく。
「ふ、ぅっ、ぁっ……た、いっ……ん、ぁっ……おくっ、や、ぁっ……」
「気持ち良いんじゃない? すごい、びくびくしてるよ」
「ば、かぁっ……いわなくてっ、いっ……あ、あぁっ!」
ぐちゅんっと強めに突かれ、彼のことを強く締め付ける。二人の間で揺れる自身の陰茎も透明の液体を流し続けて震えており、限界が近いことを示していた。
太河も限界が近いのか、額には汗が浮かび上がり、腰の動きも早くなっている。
「たいっ、イ、っちゃっ、イきたっ」
「うんっ、俺もっ……くっ」
「ひっ、ぁっ……!」
どちゅんっと最奥をいっそう強く突き上げられる。その瞬間、目の前にチカチカと白い光が瞬き、頭の中が真っ白になった。ガクガクと全身が痙攣し、強い快感の中で必死に太河にしがみつく。
二人の間に色が薄まって勢いの落ちた精液がどぷっと落ち、ほぼ同時に太河も大量の精液を放った。
コンドーム越しに陰茎がどくどくと力強く脈打っているのを感じる。
もしも生でやっていたらその精液の量と熱さをもっと感じたのかな、とぼんやりとした頭で考えていると太河は中に刷り込むように腰をぐりぐりと押し付けてきた。生じゃないのに……と思いながらも彼のその行動にどこか嬉しさも感じてしまう。
絶頂の余韻がゆっくりと引いていき、全身の力が抜けると太河は凪の顔にキスの雨を降らせてきた。額、瞼、鼻先、頬、唇。まるでマーキングでもしているかのようにありとあらゆる場所にキスをしていく。
「たいー……くすぐったい」
「んー?」
凪の声は聞こえているが、止める気はないようだ。けど、こんな行動も可愛いと思ってしまうのだから自分も相当重症なのかもしれない。
まぁ、もう少しこのまま好きにさせておいても良いか。
そのうち飽きるだろう、と思ったのだが、すぐに彼の可愛くない部分に気付いてしまった。
「……硬くなってる」
「若いからね」
「……」
さっきもかなりの量が出ていたような気がするが、まだ足りなかったのか。
それよりも、太河は今までよくこの性欲を我慢できていたものだ。いや、我慢させていたのは自分だが……。それなら今日はもう少し甘やかしたほうが良いのか……?
「……もうちょっと、する?」
「いいの?」
「俺だって体力はある」
同年代よりは確実に体力はある。その自信は十分にある。しかし、数時間後、凪は二回戦以降に臨んだことを後悔した。
「凪、頑張って」
「や、ぁっ……も、むりっ……ぁあっ!」
無理と言いながらも体力があるせいで身体はまだバテてはいなかった。それがまず一つ目の誤算。
二つ目の誤算。それは、太河の性欲。本当によくこの数年間我慢していたものだ。我慢しすぎてタガが外れたという可能性もあるけど。それにしたって止まることを知らな過ぎだ。
そして最後の誤算。これが一番厄介だったかもしれない。太河の知らなかった一面、というよりもその片鱗は初めてキスをされた時から少し見えていた。
それは、彼にSっ気がある、ということだ。
「教えて」
「ん、ゃっ……わ、かんなっ……」
もう何回果てたか、どれくらいの時間が経っているのかもわからなくなっていた。初夜にも関わらずいろんな体位を試し、今はまた正常位に戻っている。
最初は彼のものを全部受け入れるなんて無理だと思っていたが、今ではそのほとんど受け入れていた。そして、太河はその状態のまま止まり、凪の手首を緩く掴んでいる。
「須藤先生、教えてほしいな。先生なら教えてくれるよね」
「……ばか」
「ばかな俺に教えてよ。俺のが、先生のどこまで入っているのか」
「っ……」
誰だ、こいつをこんなドSの変態に育てたのは!
けど、ここで答えなければ太河は絶対に引かない。変なところで頑固だから。
ごくりと喉仏を上下させ、自身の手を下腹部辺りに触れさせる。瞼を伏せたまま指をゆっくりと下から上へと滑らせ、感覚を頼りに汗ばんだ皮膚を指差した。
「……ここ」
「すごいね。凪も見てみて」
見たところでお腹の上からでは何もわからないだろう。
若干呆れ気味になりながらも僅かに頭を上げながら自身の指差す場所へと目を向けた。
「ッ……!」
「ね? すごいでしょ」
……思ったよりも深くに入っている。
こんなにも深くに太河が……。いや、けど自分の勘違いの可能性もあるし……。
信じられない深さに固まっていると、凪の考えを見透かしたかのように太河がぐちゅんっと凪の最奥を突いてきた。その衝撃を感じた場所はまさに今、指差している場所だ。
「ひ、あっ!」
「凪の奥、すごい気持ち良い」
「も、ばかっ……はやくっ、イけっ……あ、あぁっ」
ずちゅっずちゅっと激しく抽挿され、もう十分深いと思っていた繋がりを更に深めるように彼の肩に両脚を担がれる。腰が浮き上がり、太河のものが最奥を強く押し上げた。まるでその先に入ってくるようにぐりぐりと押し付けられ、凪は目を大きく見開いて首を小さく横に振った。
「や、やぁっ、そ、こっ、だめっ」
「今日は入らないよ。いつか、入れさせてね」
「あ、あぁっ……!」
押し付けるような動きから一転、上から貫かれるように強く突かれる。
太河の言葉の意味を理解する前に凪は全身を痙攣させ頭の中が真っ白になっていた。ガクガクと震え、絶頂を感じながらも太河に突かれ続け、意識が朦朧としていく。
「凪っ、好きだよっ」
「ぅ、あっ……お、れもっ……」
「くっ……!」
びくびくっと太河の陰茎が体内で震え、何度目かもわからない精液が放たれる。抱かれ続けた身体はすでに瞼を開けることができなくなっており、暗い視界の中で汗ばんだ身体に抱きしめられるのを感じた。
二人とも汗だく、別の液体も付いている、不快に感じてもおかしくない状況。だけど、これが今はとても心地良く感じた。太河の体温、匂い、心臓の音、近くで感じるその全てが眠りへと誘ってくる。
結局、その誘惑に抗うことはできず、凪は太河に抱きしめられたまま夢の中へと落ちていってしまった。
翌朝、目覚めてまず感じたのは痛み。
身体中のいたるところが痛い。瞼を開けるのも億劫だったが、鉛のように重い瞼をゆっくりと開けるとまず見えたのは微かに笑みを浮かべた太河の顔。
この様子、起きてしばらく凪のことを観察していたようだ。
凪とは対照的に太河はぴんぴんしているように見える。溜まっていた性欲を発散できたと思えばそれも納得だ。あとはただ単に若さもあるだろう。
「おはよう。大丈夫?」
「……大丈夫に見えるか?」
「ごめん、見えないね。朝ご飯、俺が作るよ」
凪の声は自分でもびっくりするくらいに掠れていた。昨日あれだけ声を出したのだから仕方がないと言えば仕方がないのだが、喘ぎ声の出し過ぎで声が枯れてしまったなんて、他人には絶対にバレたくない。
指一本すらも動かしたくなくてジッと太河のことを見つめていると彼はちゅっと小さな音を立てて凪の額にキスをした。寝ぐせのついた凪の柔らかな髪をくしゃっと撫で、ムカつくくらいに爽やかな笑みを浮かべながらキッチンへと向かって行く。
少しするとカチャカチャと何かを準備する音が聞こえ、それを聞きながら布団の中へちらりと視線を向ける。
昨晩の最後のほうは記憶が飛んでしまっていたが、どうやら太河が後片付けをしてくれたみたいだ。
何故かパンイチだが。
せめてTシャツまで着させてほしかった。
見えた素肌は太河がつけたキスマークでいっぱいだ。特に胸の周りがひどい。吸われ過ぎた乳首は赤く腫れているし、下手したらTシャツから浮いて見えてしまうんじゃないだろうか。
……国語の教師で助かった。もし体育教師で水泳の授業で脱がなければいけない、となったら一発アウトになるところだった。
そんな風に自分の身体の状態を確認しているとキッチンのほうから何かを焼く匂いが漂ってきた。
そういえば、太河が料理を作ってくれるのは初めてかもしれない。いつも凪が作って、太河がそれを食べる、というのが二人の役割だったから。
一体彼は何を作ってくれるんだろうか。そもそも料理なんてできるんだろうか。
もしかしたら今後も、こうやって凪の身体が痛くて起きられない日は太河が作ってくれる、そんな日が増えていくのかもしれない。
……それも楽しみかも。
自然と口角が上がるのを抑えられずにいると部屋をバタバタと走ってくる音が聞こえてきた。
朝の眩しい光が差し込む中、愛しい恋人の姿が現れる。
「凪! ごめん! ちょっと焦げた!」
「……ばーか。けど良いよ、それで」
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