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1-1 最強は俺だ

 昼下がりの海の底。  海中ダンジョンを攻略している冒険者たちは、息も絶え絶えになりながら、目の前の怪物を絶望的な気持ちで見ていた。 「だ、誰が倒せんだよ、こんなん……」  巨大なタコのような姿をしたダンジョンの主は、無数の吸盤が付いている何本もの太い触手を揺らめかせている。  赤黒い体には骨はなく、物理ダメージをいくら与えようとしても、さほども手応えはない。  黄色く濁った眼球がぎょろりと冒険者たちを見据え、不気味に笑うようにその巨体を揺らした。  冒険者たちはもう魔力も体力も限界が近い。剣士は折れた剣を血まみれの腕で握りしめている。格闘家は利き腕が折られ、痛みに悶絶している。魔法使いも、恐怖で涙を流しながら、ガクガクと震えている。  海の悪魔、クラーケンに挑むには、まだ自分たちには早かった。  剣士に触手が伸びる。  神様。仏様。いやこの際、悪魔でも良い。誰か助けてくれ。  巨大な吸盤がスローモーションで剣士の目に迫ってくる。  その時。  ────ズン、と水圧が増した気がした。  何かが、凄まじい速さで接近してくる。  クラーケンの意識がそちらに逸れる。 「なんだ……!?」  その巨大な力の塊は、あっという間にこの最奥の部屋まで突進してきた。  急にあたりが暗くなり、夜になったかと錯覚した。しかし、それは巨大な影がかかったからだということに気がついて、冒険者たちの背筋が凍る。  クラーケンがぴくりと反応して頭上を見上げた。  冒険者たちも恐る恐る上を見上げる。  ────ギラリ。  海中に二つの赤い目が鋭く光った。  見ると、巨大でおそろしいサメが歯を剥き出してこちらを睨んでいる。 「ホ……」  誰かがつぶやいた。 「ホホジロだー!」  叫び声が上がった瞬間、ホホジロザメが激しく水泡に包まれて消えていく。水泡の中から勢いよく飛び出してくる人影があった。 「────どけ、雑魚(ザコ)どもが!」  海中に響く凶暴な怒声に、ビリビリと海水が震える。冒険者たちは思わず耳を塞ぎ、震えながらその人物を見た。  巨大なクラーケンに相対するのは、一人の男だった。  海水に反射する銀髪。ギラリと光るギザギザの歯。鋭い光を放つ赤い目。ワイルドで凶悪に整った顔。目の下の頬には顎にかけて大きな傷跡がある。尾てい骨からはサメの長い尾が生え、背中には硬質でギザギザした背びれがあった。 「ホ、ホホジロザメのレンだ!」 「やべえよ……。なんでいんだよ……!」 「もっと深いダンジョンにいるんじゃなかったのか!?」 「早く逃げろ、巻き込まれて死ぬぞ!」  タイやエイ、ヒラメの姿に海獣化し、死に物狂いで逃げる海獣人たち。痛みなどもはや関係ない。あわをくったように岩陰に隠れる。  不敵に笑うレンの両手は銀色に硬化しており、バチバチと派手に雷が纏わされている。  クラーケンがぎょろりと不気味な目で派手な闖入(ちんにゅう)者を睨みつけた。  レンは楽しそうに凶悪に笑う。  次の瞬間、クラーケンの巨大な触手が水を切り、鋭く伸びた。 「おせえッ!」  それをレンは素早い身のこなしで全て避ける。  触手が当たった壁は大きく抉られ、土煙を立てて崩れている。  レンは寸分の恐怖も持たない様子で、笑いながらまっすぐにクラーケンに突っ込んでいく。  大きく腕を振り上げて、クラーケンを殴り抜ける。雷が落ちたような轟音と共にクラーケンの巨体が(いびつ)に大きくひしゃげる。クラーケンは感電したように大きく震えて目を見開いた。衝撃波が起こり、冒険者たちは激流に流されそうになる。  大きな地響きと共に、巨体が海底に沈んでいく。土煙が舞い、またたく間に視界を覆う。  やがて土煙がおさまってくると、そこにはすっかり伸びてしまったクラーケンと、それを見下ろすレンの姿があった。バチ、バチ、と両腕は雷を纏っている。 「い、一撃で……!?」 「ノーダメだと……!?」  物陰で見守っていたタイやエイたちは身震いした。  レンは硬化した手でクラーケンの触手をむんずとつかむ。  そして、ぶちりと。海藻のように足を引きちぎり始めた。

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