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オルキウスが海中に潜る。その輪郭が海に溶けていくのを見て、レンは興奮しながら自分も海中に潜った。
次の瞬間、ぶわりと泡が弾け、巨大なシャチが姿を現した。
(くうぅ……! 何度見ても最高だ!)
居ても立ってもいられず、魔力を解放する。
ぶわり、と泡が体を包んだ。
巨大なホホジロザメへと姿を変えた瞬間、水底へ大きな影が落ちた。
シャチとホホジロザメ、二匹の巨体が並んだ瞬間、周りの魚たちが一斉に岩陰や海藻に逃げる。
誰もいない、青く澄み渡った海を二匹で泳ぎながら、レンは幸せな気持ちだった。
しばらく二人で泳いで、小さな岩場へ上がった。
人型に戻ると、すぐに体が乾いていく。
レンはぼんやりと晴れた空を見つめた。
『関係ない。行くぞ』
ふと、手の熱さを思い出した。
レンは気がついたら、口を開いていた。
「なあ、次はさ。泳ぐだけじゃなくて……どっか出かけたりしねえ?」
隣で片膝を立てて座っていたオルキウスが、レンを見る。
「出かける?」
「おう。……つっても、どこってのはわかんねえけど」
考えてみるが、友達とはいったい何をして遊ぶものなのだろうか。
(カラオケ? ボーリング? ゲーム? ……全部ねえな)
前世の記憶も総動員して考えるが、答えが見つからない。
そもそも、前世の山田優太にも友達はいなかった。
レンになってからも、友達なんて一人もできたことがない。
「友達って、何すんだろうなぁ……」
空を見上げながらつぶやく。
オルキウスはしばらく黙った後、静かにこぼした。
「……俺も、よくわからん」
「え?」
レンは思わず体を起こす。オルキウスを見ると、立てた膝に頬杖をつきながら、遠くを見ている。
「何するんだろうな」
そう言うオルキウスの低い声には、少しだけいつもの覇気がないように感じられた。
「なんか……意外だな」
「そうか?」
「おう。たくさん友達がいるかと思ってた」
そもそも、友達になろうと言ってきたのも、オルキウスだった。
「友達と言えるような奴はいないな」
「へえ」
わずかに目を見開いた後、ふと気がついた。
(……ん? でも、そもそも友達って、なろうって言ってなるもんなのか?)
なんか、違う気がする。
でも、レンも正解なんて知らない。
そもそも、なぜオルキウスはレンと突然友達になりたいだなんて言ってくれたのだろう。
この一ヶ月、楽しすぎて全然気にしていなかった。
ふと気になって、思考が逸れかけた時。
「友達がすること、思いついたか?」
オルキウスに問われて、レンははっと思考を戻した。
うーん、と考え込んで、一つだけできそうなことを思いついた。
「……ピクニックとか?」
そう言うと、オルキウスは金色の目をわずかに見開いた。
◆
(この一ヶ月……楽しかったな)
ふと我に帰って、レンは回想から意識を戻す。
目の前には、幻想的に光る珊瑚礁が群生している。
ぎゅうぎゅうのレジャーシートの上で、オルキウスと二人で座りながら美しい景色を眺める。
あれから何度かピクニックを重ねた。だんだん、レンのお弁当作りも腕に磨きがかかってきている。
「レン」
名前を呼ばれてオルキウスを見ると、その手には真珠のように光り輝く小さなほら貝があった。
「なんだ、これ」
「耳に当ててみろ」
言われるがままに耳にそっと当ててみて、レンは驚いた。
「これ、なんか音がすんぞ!?」
興奮してオルキウスを見ると、小さく笑われる。
「女神のオルゴールだ。その時、聴きたい音が流れる」
「すげえー! ……い、良いのか、もらっちまって」
ものすごく希少なものなのではないだろうか。
「こんなん、ぜってぇ高えだろ」
頬の傷跡をぽりぽりとかくと、オルキウスが頷いた。
「気にするな。俺には珍しいものでもない」
レンの手作り弁当と女神のオルゴール。
どう考えても釣り合っていないと思うが、レンは少し引け目を感じつつも受け取る。
オルキウスは、レンがお弁当を持ってくるお礼として、いつも何か手土産を持参して来る。
それがどれも希少で高価そうなものだったので、初めて受け取った時は受け取れないと何度も拒否したのだが、オルキウスに「俺の気が済まない」と強く押し付けられてしまえば、受け取るしかなかった。
(そういや、オルは公爵家だったな)
やっぱり公爵家はすごいのだろう。
「ピクニックって、良いものだな」
オルキウスがぽつりとつぶやく。
レンはくすぐったい気持ちで小さく頷いた。
悪役とか、断罪とか。
全部忘れて、ずっとこうしていたい。
そう思った。
だが、時は待ってくれない。
────翌日のことだった。
「初めまして。アクア・マリステラです」
『主人公』のアクアが、ユートランティア王立学園に編入してきた。
(来た……!)
レンはごくりと喉を鳴らした。
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