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7-1 友達がすること

 レンはそわそわとしながら、校舎裏で待っていた。  下校していく生徒たちの声が遠くに聞こえてくる。  (まだかな……)  手持ち無沙汰になって、地面に木の枝でガリガリと絵を描く。 「おい」  その時。低い声が頭上から落ちてきた。  はっと見上げると、そこには黒と白の髪を持つ男がいた。 「オル!」  レンはぱっと顔を輝かせた。白いギザ歯がきらりと光る。  オルキウスは目を細めた。金色の目がレンを見下ろす。  地面いっぱいに、丸っこい生き物の絵が何匹も並んでいた。 「……それは、なんだ」 「え? シャチ」 「……俺か」 「ん? あ、そうなるな」  そう言って照れくさそうに笑うレンに、オルキウスはぐっと奥歯を噛み締める。 「……もしかして、今までも描いてたのか」 「おう」  (本当にこの男は……)  レンはオルキウスを見上げて、わくわくと首を傾げた。 「今日も泳ぎ行くか?」 「……ああ」  オルキウスが頷くと、レンは無邪気に笑った。    レンとオルキウスが『友達』になってから一ヶ月ほどが過ぎていた。  一ヶ月の間、放課後になると二人は毎日のように海へ通った。  レンはオルキウスのことを『オル』と愛称で呼ぶようになり、オルキウスとの時間を楽しみにするようになっていた。  こんなことをしている場合じゃないとはわかっている。  主人公が来るまで、まだ少し時間はある。  断罪への対策も考え終えた。  ……だから今だけは。  友達と───オルキウスと過ごす時間を、大事にしたかった。      今日もいつものように、二人は内海へ向かった。 「あ、オルキウス様!」 「……げっ!? ホホジロザメのレン!?」  歩いていると、ひと気のないところを選んだつもりなのに、生徒たちに見つかってしまう。 「やあ、こんにちは」  爽やかに笑って挨拶をするオルキウスに、生徒たちが騒ぎながら、レンに恐怖の目を向ける。 「な、なんで暴れ鮫と……?」  ひそひそと話している声を背中に、レンはオルキウスと歩く。だんだん、レンは足取りが重くなって、オルキウスと距離が開いていった。 「……何してる?」 「……いや」  生徒たちが見えなくなったところで、振り返ったオルキウスが足を止める。レンはもごもごと口の中でつぶやく。 「ほら、俺って……嫌われてるだろ」  見た者を怖がらせる暴れ鮫。乱暴な暴君で、今まで散々周囲に迷惑をかけてきた。学園中から恐れられている。 「オルに……迷惑かけたくねぇ」  小さく言うと、オルキウスはしばらく黙っていた。  やがてレンの方に歩いてきたかと思うと、手を取られる。 「関係ない。行くぞ」  はっとして顔を上げると、オルキウスはいつもの余裕そうな笑みを浮かべた。  レンは、つながれた手がとたんに熱くなったように感じて、困惑した。 「て、手……!」  慌てるが、そのまま手を引かれる。  オルキウスは少しも迷わず歩いていく。  手を離そうと思うのに、離せなかった。  オルキウスの広い背中を見ながら、レンは不思議と胸がくすぐったくなった。 「……オルはなんでみんなの前では王子キャラなんだ?」  ひと気のない、学園から離れた入り江から海に入る。海獣化はまだしていない。  オルキウスは濡れた前髪を無造作にかき上げた。  学園で見せる王子様の笑顔は、もうどこにもない。水に濡れたオルキウスは、どっしりと構えた大型の捕食者の風格があった。  そういえば前世でも、シャチは「海のギャング」と呼ばれていた。 「その方が印象が良いだろう」 「印象?」  オルキウスは気だるげにそう言って、泳いでいく。 「効率が良い。余計な敵を作らずに済む」 「敵……」  レンはおうむ返しし、後をついて泳ぐ。 「あれ、じゃあ、俺には?」 「……」  オルキウスは少し黙った。ちらりとレンを見る。 「お前は敵にならないだろ」 「よくわかんねえけど、あったりまえだ!」  自信満々に言うと、オルキウスが目を細めた。

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