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「わあ……す、すごい」
海中ダンジョンに潜るため、水深が十分な深さになったところで、レンとオルキウスは海獣化した。
アクアが巨大なホホジロザメとシャチを見て、圧倒されたように感嘆の声を漏らす。
「迫力満点だ……」
呆けたようにつぶやくアクアは、人型のままだ。
レンはハッとした。
「アクア、つかまれよ」
「え?」
レンはアクアに背びれを近づけた。
「そっちの方がはええだろ」
そう言いながら、レンは頭の中で『断罪回避』を唱えていた。
レンのルートでは、アクアとダンジョンに潜る時に必ずホホジロザメの姿になったレンの背びれに掴まらせていた。
もうゲームは崩れているのかもしれない。
でも、レンにはこうするしか思いつかない。
「人型のままだと、泳ぎにくいよな」
「え?」
アクアが目を丸くした。
「なんで……僕が海獣化できないこと、知ってるんですか?」
「あ」
レンはぎくりとした。
訝しげな目で見てくるアクアに、ぶんぶんと頭を振る。
「知ってるわけじゃねえ! な、なんとなくだ!」
そう。アクアは実は海獣化ができない〝なりそこない〟という設定だ。
ごく稀に生まれる〝なりそこない〟は、海獣化した時の姿が重要なこの海獣人社会の中では最底辺のヒエラルキーに組み込まれる。
だけど、本当はアクアの正体は伝説上にしか存在しないとされる人魚種だ。
アクアは覚醒するまで海獣化も魔法も使えない。
この秘密は終盤まで誰にも明かされない。
(……危ねえ。思い出して良かった。一緒に泳ぐの忘れるとこだった)
「そう、ですか……」
アクアの桃色の瞳がじっとレンを探る。
レンは内心冷や汗をかきながら、「ほら、つかまれよ」と話を逸らした。
「でも……触って、いいんですか?」
アクアはハッとしたような顔をした。
海獣化した姿に触らせる。
それが何を意味するのか。
レンは一瞬ためらった。
でも、頭の中には再び処刑シーンのスチルが過ぎる。
ちらりとシャチの姿のオルキウスを見る。
ゲームの本筋には、すでに大きな変化が起きていている。
(やれることはやろう)
レンは頷いた。
「いいぜ」
「えっ」
アクアが少し照れたようにうつむく。
「あ、じゃ、じゃあ……」
そう言ってアクアの手が伸びてきた時。
「これに捕まりなよ」
低い声が遮った。
振り返って見ると、オルキウスがどこからか持ってきたのか、大きな流木を口に咥えていた。
「こっちの方が捕まりやすいし、レンは鮫肌だから痛いよ」
「お、オル」
レンはびくりと心臓が跳ねた。
(え、お、怒ってる……?)
「別に、鮫肌でも……」
レンが魔力調整をすれば痛みはないはずだ。
そう言おうとしても、オルキウスがずいっとその巨体を二人の間に割り込ませてくる。
「はい。つかまって」
そう言ってアクアに流木を向ける。
「あ、ありがとうございます」
アクアは素直につかまった。
それを見て、レンは内心でがくりと項垂れる。
(せっかく距離縮められると思ったのに……!)
少し落ち込んでいると、オルキウスと目があった。
金色の目が冷たい。
レンはずきりと胸が痛くなった。
「あの、僕が海獣化できないことは……」
「大丈夫。誰にも言わないよ。ね、レン」
「……お、おう……」
オルキウスとアクアが前を泳いでいく。
レンは二人の後ろを泳ぎながら、ざわざわとした気持ちのまま、巨大なシャチの後ろ姿を見つめる。
朝のように、また胸が重苦しくなった。
嫌われることは慣れている。
レンは暴れ鮫で、海の嫌われ者だ。
誰に嫌われても構わない。
だけど、オルキウスにだけは嫌われたくなかった。
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