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第1話 宿命のライバル
季節は新緑の頃。
「三鷹のアホたれーーー!」
俺、雀野真央 の叫び声が良く晴れた青い空に響き渡った。
今日はテストの成績上位者の名前が職員室前の掲示板に貼り出される日。
今回こそは1位だという絶対的自信があった。
ドキドキと胸を高鳴らせながら掲示板を見上げ、俺は愕然とした。
『2位 雀野真央 489点』
2位。
何度メガネを掛け直して見ても2位。
また2位。安定の2位。
連続2位の記録をまた更新。
そして。
俺の上、1位の座にいやがるのは、いつもいつも同じ名前。
『1位 三鷹蓮 492点』
「三鷹くんすごーい! 安定の1位だね!」
「さっすが三鷹くん!」
「やっぱ三鷹くん天才〜!」
俺の永遠のライバル、三鷹蓮 ……!
髪はサラサラ、笑顔は爽やか、まさに王子様な見た目の奴は、いつものように女の子たちに囲まれちやほやされている。
2位の俺など見向きもされない。
うらやま……いや、悔しくて悔しくてギリギリと拳を握り遠巻きにそちらを睨んでいると丁度奴の視線とぶつかった。
――ふっ。
得意げに口端を上げた奴を見て、ぷちんと来た俺はそのまま屋上に駆け上がり天に向かって叫んだ。
「三鷹のアホたれーーー!」
……そして冒頭に戻る。
「バカたれう〇こったれーー!」
「お前さぁ、一応頭良いんだからその小学生並みの悪口はどうなのよ」
友人、鳶田護 の呆れたような声が聞こえて俺は勢いよく振り返った。
「一応って言うな!」
「てか2位だって十分凄ぇだろ。俺なんてあそこに名前が載ったこともないっつーの」
俺を追って屋上まで来てくれたらしい友人はベンチに座りながらダルそうに言った。
「それにほんのちょっとの差だろ? 5点差だっけか」
「3点差! 前回が5点差だったんだ」
「はぁ、良く覚えてんなぁ」
「当たり前だ! くっそ~今回こそは行けると思ったのに~~」
俺が頭を掻きむしっていると友人の大きな溜息が聞こえた。
――改めて。
俺の名は雀野真央。17歳。高校2年生。
幼い頃から優秀で周囲に褒めそやされ育った。
運動もでき、顔もそれなりに整っていたため女子にも男子にもモテた。
今思えばあの頃が俺の人生のピークだった……。
だが、それも小学2年生まで。
小学3年生で奴、三鷹が転校してきて俺の人生は一変した。
いつも何をしても1番だった俺を、あいつはいとも簡単に蹴り落としていきやがったのだ。
勉強でも、スポーツでも、モテ度でも!
あいつにはどうしても敵わなかった。
それからの俺は常に2位。
運動会の100m走でも2位。
クラスの人気者ランキングでも2位。
バレンタインでもらったチョコの数でも2位。
オマケに俺が初めて好きになった女の子はあいつに惚れる始末。
お蔭で性格もかなり歪んでしまった自覚がある。
中学受験でやっと離れられると思ったのに奇しくも同じ私立中で、そのままエスカレーター式で高校も一緒。
しかも2年連続同じクラス。
……そろそろ色々限界だ。
「何か……何か、あいつより俺のが勝っているものはないのか……?」
「おい、大丈夫か雀野。目がヤバイぞ」
「なぁ、鳶田。何かあいつより俺のが優れているものはないか?」
「え〜? あ、身長は? お前らどっちも結構高いし」
「あいつのが1センチ高い」
「ガチで? あー、じゃあ体重は三鷹のがあるんじゃね?」
「俺のが0.5キロ重いし体脂肪率も俺のがある!」
「そんなことまで知ってんのかよ……」
なぜか引いたような顔をした友人に俺は更に問う。
「他は? 鳶田、他に何かないか?」
「ん~~、あ、でもほら、1位より2位のほうが親近感わかないか?」
「残念! 俺よりあいつの方が皆に好かれてる!」
「残念? まぁ、お前いつもピリピリしてるから近寄りがたいんだよなぁ。慣れれば面白いのになぁ」
「面白い言うな! 次だ次! 頼む鳶田!」
「えーと……あっ、苗字が珍しい! 三鷹より雀野のが断然珍しいだろ!」
「鷹と雀だぞ! 鷹のが断然強いだろーが!」
すると鳶田は「確かに」と納得してから真顔で続けた。
「スマン雀野。三鷹ってやっぱ最強過ぎん?」
「くっそー! 三鷹めーー!」
俺はしゃがみ込んで頭を抱える。
やっぱり俺はなにひとつ、あいつに敵わないのだろうか。
これからずっとあいつの後ろで、あいつの背中を見ていかなくてはならないのだろうか。
「でもよ~、三鷹の奴あんなにモテるのに彼女は作らないよなぁ」
「え?」
鳶田のその言葉に俺は顔を上げる。
……確かに。
言われてみれば、あんなにいつも女の子に囲まれているのに彼女が出来たという話は聞いたことがない。
「やっぱ本命がいるって噂はガチかもなぁ」
「は? なんだそれ」
本命?
三鷹の本命?
なんだそれ、めちゃくちゃ気になるが!?
俺がベンチに座って身を乗り出すと鳶田は意外そうな顔をした。
「え? 聞いたことないか?」
「ない!」
「いつだか、あいつにコクった女子が好きな子がいるからって断られたんだと」
俺は目を見開いた。
……あいつに、好きな子?
そのとき俺の脳裏に蘇ったのは、儚く散った初恋の思い出。
「ふ、ふふ……」
「なんだよその笑い、きっしょ」
「あいつの本命俺が奪ってやったら、あいつどんな顔するかな」
「うわー、最低発言出たー」
「ふふ、見てろよ三鷹ァ。いつかの恨み必ず晴らしてやるからなぁー!」
そのまま立ち上がり大空に向かって吠えた俺の後ろで大きな溜息がまた聞こえた気がした。
***
それから三鷹の本命探しが始まったわけだが、いきなり躓くこととなった。
(誰に、どう訊けばいいんだ?)
そう。まず俺にはそんなことを訊ける相手がいなかった。
それにもし俺が急にそんなことを訊いたら皆怪しむに決まっている。
小学生の頃はあんなに友達がいたというのに、鳶田が言うように俺は近寄りがたい雰囲気があるらしく、今友達と呼べるのは鳶田くらいなものだ。
(それもこれも全部三鷹のせいだけどな)
ちなみに鳶田とは去年同じクラスになり、こいつの方から話しかけてきてくれてそのまま友達と呼べる関係になった。
いつだったか、近寄りがたい雰囲気を醸しているという俺によく声を掛けたなと言うと「頭の良い友達がいると何かとお得だし、お前見てると面白い」と返ってきた。
なんにしても俺にとってはめちゃくちゃ有難い存在だ。
そして、その鳶田に頼み込んで周囲に探りを入れてもらったところ、やっとひとつ情報が手に入った。
「三鷹の奴、ずーっと同じ子に片想いしてるんだと」
「ずーっと?」
いつもの屋上のベンチでお礼の品として贈呈した焼きそばパンを頬張りながら鳶田は頷いた。
「振られたってことか?」
「さぁ、そこまではわかんねーけど。“ずーっと”ってのがなぁ。だからお前も知ってる子なんじゃねーの?」
「え?」
「お前ら小学校から一緒なんだろ?」
「そう、だけど……」
いたか? あの三鷹が好きになりそうな子なんて。
三鷹のことを好きそうな子はこれまでたくさん見てきたけれど。
例の俺の初恋の子もそのうちのひとり。……思い出したらまたムカムカしてきた。
「お前がわかんねーならもうお手上げじゃね? もう諦めろって」
「……こうなったら本人に直接探りを入れるしか……」
「ガチで?」
そして、そのチャンスはすぐに巡ってきたのである。
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