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第11話 最後の我儘
「なっ、何言ってんだお前!?」
大分遅れて俺が怒鳴ると、鳶田はそんな俺を指差し興奮気味に言った。
「ほら、また顔真っ赤になってんし! 前からそうだけどよ、お前三鷹に抱きつかれたりキスされたりって話になると、いつもそうやって顔赤くするじゃんか」
「キスはされてねーし! や、だって、お前が変なこと言うから」
顔の熱を指摘されて、これ以上赤くなるなと思うのにそう思えば思うほどどんどん熱は上がっていく。
「や、普通はさ、どっちかってーと青くなるっていうか、同じ男で、しかも嫌いな奴に好かれたらゾっと怖気がするもんだろ」
「え……?」
「お前、あいつに抱きつかれたときどうだったんだよ。驚いて拒否ったってのは聞いたけどよ」
「そ、そりゃ……」
あのときのことを思い出してみる。
体育倉庫で後ろから抱きしめられて、とにかくびっくりして。
耳のすぐ後ろであいつの低い声が響いて、全身が沸騰したみたいに熱くなって……。
「……あれ?」
「ほらー!」
両手で指差されて俺はぶんぶんと頭を振った。
「そ、そんなわけねーだろ! 俺があいつを好きなんてそんなこと、」
――え?
ない、よな……?
「や、そんな真顔で訊かれても」
知らず心の声が漏れてしまっていたようで、鳶田が困ったようにそう答えた。
「お前が言い出したんだろ〜よ〜鳶田ァ〜〜」
頭が混乱してきて、友人の肩を掴んでガクガク揺さぶる。
友人はされるがまま揺れながら口を開いた。
「や、まぁ、そうだけど、別に好きと言っても色んな意味の好きがあんじゃん?」
「どういうことだよ」
「お前はさ、あいつのことずっとライバル視してきたわけで」
「あぁ……」
「でもさ、それ抜きにしたら、あいつのことは結構好きなんじゃね?って俺は言いたかったわけで」
俺は鳶田からゆっくりと手を離し座り直した。
――ライバル視しなければ……自分と比べなければ、ということか。
「それは……まぁ」
あいつは優秀で、スポーツも出来て、皆に優しくて。
凄い奴だということは俺だってちゃんと認めている。
オマケにあんなに顔が良いのだ。人気があるのもわかる。
だからこそ、腹が立つわけで。
「だろ? だから別に恋愛感情の好きじゃなくて、友愛っての? 友人としての好きかもしんないし」
「そ、そうだよな」
そうか、友愛。
友人としての好きか。それなら納得だ。
ライバル視しなければ、あいつは確かに良い友人になれたかもしれない。
(そうだ、俺があいつを恋愛感情として好きなわけがない)
「まぁ、言うて友達に抱きつかれて普通は赤くはならねーと思うけどな」
「鳶田〜お前ぇ~~」
「雀野!」
――!?
唐突にあいつの声が聞こえて、心臓が飛び出るかと思った。
見れば、体育館と校舎とをつなぐ渡り廊下からあいつがこちらに向かって駆けてくるではないか。
今の今まであんな会話をしていたからか、また顔に熱が集まってきて俺は咄嗟に鳶田の陰に隠れた。
「こんなとこにいたんだ。……雀野?」
「な、なんだよ! まだなんか用かよ!」
怪訝そうに首を傾げこちらを覗き込んできた三鷹に、そんなつっけんどんな言葉を返してしまった。
「えーと、俺は居ないほうがいい?」
「鳶田!」
立ち上がりかけた鳶田のシャツの裾を掴み、居ろよ、居なくなるなよ、と必死に視線で訴えかけていると三鷹がふっと笑った。
「本当に仲が良いね。いいよ、別に聞かれてマズイ話じゃないし」
そう前置きしてから鳶田を間に挟んだ状態で三鷹は続けた。
「今度の土曜日、また一緒に夏祭り行かない?」
「は?」
「は?」
俺と鳶田の声が見事に被った。
「夏祭りだよ。昔一緒に行ったでしょ。小学校近くの神社の。覚えてない?」
「や、覚えてるけど。でも、だってお前、諦めるって……」
尻すぼみになりながら言うと、三鷹は眉を下げて笑った。
「うん。諦めるから、最後の我儘。……ダメかな?」
「ダメだろ、そんなの」
「やっぱり、僕が怖い?」
「は、はぁ!? 怖いわけねーだろ!」
思わずカチンと来て俺は鳶田の肩口から顔を出していた。
「わかった、行ってやるよ。土曜日な!」
「ほんと? ありがとう! じゃあ、夕方5時に神社の鳥居の前で。楽しみにしてるよ!」
そして三鷹は嬉しそうに手を振り校舎の方へと戻っていった。
「……」
「……」
「……お前さぁ」
「わかってる。何も言うな……」
俺は己のアホさ加減に頭を抱えていた。
そんな俺に妙に爽やかな声がかかる。
「ま、楽しんでこいよ。夏祭りデート」
「デ……っ」
デート!?
三鷹と俺が、デート……!?
一瞬意識が遠のきかけて、なんとか耐えてから俺はゆっくりと友人を見上げた。
「……どうしよう。鳶田ぁ」
「そんな目で見られてもなぁ」
俺の情けない顔を見て、友人ははぁと重い溜息を吐いていた。
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