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第10話 勝負の行方
『2位 三鷹蓮 489点』
掲示板を見上げ、俺は目を見開いた。
いつも自分の名前がある2位の欄に三鷹の名前がある。
そして、その上。
いつもいつも三鷹の名前がある欄には。
『1位 雀野真央 490点』
俺の名前があるように見える。
1位。
俺が、1位?
……間違いない。
何度見直しても、俺が『1位』だ……!
――っしゃ!!
という歓声が喉元まで出かかって、他の生徒たちの手前なんとかギリギリ堪えた。
しかしどうしても口元がニヤついてしまう。
だって、初めてあいつに勝てたのだ。
初めてあいつを超えられたのだ。
心の中では大きくファンファーレが鳴り響き、俺は空高くジャンプを繰り返していた。
(やべ、泣きそうかも)
ぼろが出てしまう前に早々にこの場から立ち去った方が良いかもしれない。
そう思い振り返ると。
「やったじゃねーか」
鳶田がにんまりと笑っていた。
「ま、まぁな。言うて1点差だけど」
顔がにやけてしまうのを誤魔化すためメガネの位置を直しながら言うと、鳶田に腕を小突かれた。
「んだよ、めちゃくちゃ嬉しいくせによ」
「うるせ」
「雀野!」
その呼び声にぎくりとして見やると三鷹の奴が人込みをかき分けこちらにやってくる。
周囲からの視線を痛いほどに感じて無視しようにも出来ず、その間に三鷹は俺の前に立った。
「な、なんだよ」
皆のいる前でまた変なこと言い出すなよと警戒していると、奴は爽やかな笑顔で言った。
「1位おめでとう、雀野」
「は?」
「なんて、僕が言うと負け惜しみみたいに聞こえちゃうかな」
そんなふうに苦笑してから三鷹は続けた。
「今回のテスト全体的にすごく難しかったのに、やっぱり雀野は凄いよ」
「い、いや……」
急にそんなふうに褒められて腹の辺りがなんだかムズムズする。
と、奴は少しだけこちらに顔を寄せ声を潜め言った。
「約束通り、君のことは諦めることにするよ」
「え?」
「これまで色々とごめんね。それだけ。じゃあね!」
そうして、三鷹の奴は笑顔のまま去っていった。
……は?
ポカンとした顔で立ち尽くしていると鳶田からまた小突かれた。
「俺たちも行くぞ。……お前、今注目の的になってるから」
「え? あ、あぁ」
言われて周囲からの視線に気づいて、俺は鳶田と共に教室へと向かったのだった。
……なんだよ、あいつ。
あっさりと負けを認めやがって。少しは悔しがったりしろよ。
長い間ずっと1位に固執していた自分がバカみたいじゃないか。
それに。
なんだよ、あっさりと諦めやがって。
お前の言う『好き』は、そんな程度だったのかよ。
「おーい、雀野?」
「え?」
傍らを見ると、鳶田が呆れたような顔でこちらを見ていた。
今日もしとしと雨の降る中、俺たちはいつもの体育館入口でランチタイムを過ごしている。
「え? じゃないっつーの。俺の話聞いてた?」
「あぁ、悪ィ。なに?」
梅雨明けは待ち遠しいが、明けたら明けたでまた猛暑の夏がやってくると思うとどっちもどっちだななんて話をしていたのは覚えているのだが。
鳶田は、はぁと短く息を吐いた。
「なんだよ、折角念願の1位だってのに、嬉しくねーの?」
「嬉しいに決まってるだろ」
初めての1位だ。嬉しくないわけがない。
先ほど掲示板を見た瞬間、本当に涙が出そうなくらい嬉しかったのだ。
なのに今は、なぜだか酷く虚しくて……。
「そのわりに浮かない顔してんじゃん。なに、今朝三鷹に言われたこと気にしてんの?」
どきりとする。
「約束とか聞こえたけど、何かあいつと約束してたのか?」
俺は手にしていたカフェオレをストローでジューっと全て吸い込んで、雨に濡れる芝生を見つめた。
「今回のテストで俺が勝ったら、俺のことは諦めるって言ったんだ、あいつ」
「え」
「で、今朝、約束通り諦めるってよ」
「えっ!?」
やたらとデカい友人の反応を横目に、俺はふっと鼻で笑う。
「びっくりだよな? あんだけこっちを巻き込んでおいてよ。勝手すぎんだろ……」
「いやいや、それもそうだけど、それより俺はお前にびっくりしてんだけど」
「俺?」
鳶田が目を丸くしたまま頷いた。
「なにお前、三鷹に諦めるって言われてそんな落ち込んでんの?」
「え?」
俺が呆けたように聞き返すと、鳶田は妙に納得したように続けた。
「や、まぁ、なんとな~く俺も実はそうなんかなぁとは思ってたけどよ。お前、あいつのこと結構好きだよな?」
さらりと言われた台詞に今朝のようにぽかんと口が開いてしまった。
――は? なんだって?
(俺が、あいつを『好き』……?)
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