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第14話 初恋とキス
瞬間なんでここに、と思ったが、ここは小学校の近くであの頃の同級生がいてもなんら不思議はないのだ。
「もしかして、鶴岡さんと鴨下さん?」
三鷹が驚いたようにふたりの名を呼ぶと、今声を掛けてきた方、鶴岡が興奮気味に手を合わせた。
「えー嬉しい! 覚えててくれたんだ三鷹くん!」
「そりゃ覚えてるよ。久しぶりだね」
「てか三鷹くん凄いイケメンになったじゃんね!? やばっ、ちょっと緊張すんだけど!」
鶴岡は昔から元気なタイプだったが、今や完全にギャルになっていた。
そして俺の初恋の子、鴨下さんは大人しく物静かなタイプだったけれど今も変わらず、いや、とても綺麗になっていた。
そんな彼女ににこりと微笑まれドキリとする。
「ちゅんのくん、久しぶりだね」
「あ、あぁ。久しぶり」
当時、別に告白したわけではないし俺の気持ちは知られていないはずだが妙な緊張を覚えた。
(というか、めちゃくちゃ気まずい……)
と、鶴岡がこちらを覗き込むようにして言った。
「ちゅんのはかなり雰囲気変わった? 昔はあんな元気でヤンチャ坊主って感じだったのに、大人っぽくなったっていうか色っぽくなった? メガネのせいかな」
「は?」
(色っぽい? 俺が?)
俺が目を瞬いていると、しかし鶴岡はすぐに話を変えた。
「えー、てかふたりとも今も仲良いんだね。同じ私立中行ったってのは聞いてたけど」
「うん、今も同じクラスだし、仲良いよ」
三鷹がさらっとそう答え、ちょっと引っ掛かりを覚えたがふたりの手前スルーする。
「そっちも相変わらず仲良いんだね」
「うん、あたしらずっと親友だしね?」
ふたりが本当に仲良さそうに笑い合っていてこちらも自然と顔が緩んだ。
(そうだった。真逆のふたりだけど、あの頃からいつも一緒にいたよな)
「あたしさ~、今だから言えるけど昔ちゅんののこと好きだったんだよね」
「は!?」
鶴岡が上目遣いでこちらを見ながらいきなりそんなことを言い出して驚く。
お蔭で声がひっくり返ってしまった。
「気づいてなかった?」
「あ、あぁ、ごめん、全然……」
「まぁそうだよね〜、ちゅんのはこの子が好きだったもんね」
「!?」
今度は声も出なかった。
まさか、気づかれていたなんて。
「何気にふたり両思いだったのにさぁ、あたしも辛い立場だったよね〜」
その言葉に更に驚いて鴨下さんの方を見ると、彼女も慌てたように友達を肘で小突いた。
「ちょっとやめてよ、昔の話でしょ」
でも彼女は否定しなかった。
鶴岡はえへへと笑いながらそんな友人に謝る。
「ごめんごめん、つい懐かしくなっちゃって。え、どうする? このまま4人で回る? もっと色々話したくない?」
そんな誘いを受けて一瞬心が揺らぐ。
しかしこの4人で話なんて、これ以上どんな暴露話が出てくるかわかったものじゃない。
鴨下さんと話したい気持ちがないわけじゃないが、それよりも今は気まずさの方が勝っていた。
「あー、えっと、」
俺たちそろそろ帰るところだったんだ、そう続けようとして。
――!?
いきなり横から手を握られてぎょっとする。
「ごめんね。実は今僕らデート中でさ、ふたりで過ごしたいんだよね」
「んなっ、何言ってんだお前!?」
案の定、ふたりがぽかんとした顔をしていて、その手を振り払おうとするが痛いほどの強さで握り返された。
そのままぐいと俺の手を引き、三鷹は彼女たちに背を向け爽やかな笑顔で言った。
「そういうことだから、じゃあね!」
「おい!?」
その場を去る俺たちを、ふたりが呆然としたまま見送っていた。
「ふざけんなよお前! 手ぇ離せよ! おい!」
「……」
何度怒鳴っても強く握られた手は一向に緩まない。
そのまま無理やり連れて来られたのは、先ほど話していた社殿の裏、昔遊具があった場所だ。
確かに遊具は全てなくなっていて、灯りもなくて、祭りの喧騒からそこだけ取り残されたようにひっそりとしていた。
そこで漸く三鷹が足を止め、俺はもう一度怒鳴る。
「おい、聞いてんのかよ三鷹!」
強く握られた手がそろそろ痺れだしていた。
と、小さく声が聞こえた。
「……ふたりはちゅんのって呼んでも怒らないんだね」
「は?」
「僕はダメなのに……」
「何言ってんだお前」
三鷹の様子がおかしい。
いつもなら、ごめんねと軽く笑って済ますくせに。
この暗がりで顔を伏せてしまっているせいで今奴がどんな表情をしているのかもわからない。
ただ声だけが、別人のように低く聞こえた。
「鴨下さんに会えて嬉しかった?」
「は?」
「雀野好きだったもんね、鴨下さんのこと」
三鷹にまで言われてかぁっと顔が熱くなる。
「知ってたよ僕も。わかりやすいんだもん、雀野」
「……っ」
ひょっとして、あの頃俺の気持ちは周りにバレバレだったのだろうか。
今更だが酷い羞恥を覚えて、手を握られていなかったら今すぐにこの場から逃げ出してしまいたかった。
――しかし。
「鶴岡さんと同じで、僕も雀野のことずっと見てたから……だから、鴨下さんは僕のことが好きだって言ったんだ」
「……は?」
途中から急に言葉の意味が理解できなくなって俺は眉を寄せる。
三鷹は低い声で続ける。
「このままじゃふたりが両想いになっちゃうと思って、鴨下さんは僕が好きなんだって皆に言いふらした」
「はぁ!?」
……ちょっと待ってくれ。流石に頭が混乱していた。
でも確かにあの頃どこからかそんな話が入ってきて、俺は自分は失恋したのだとガキながらショックを受けた。
――それがまさか、三鷹が流した嘘だった……?
「雀野ってば、その話をまんまと信じてさ」
バシャっと足元で音がして、俺は自分の持っていたかき氷が地面に落ちたことを知った。
しかしそんなこと今はどうでもよかった。空いた手で三鷹の浴衣の襟元を掴み上げる。
「お前……っ」
やっと顔を上げた三鷹は笑っていた。
だがその笑顔はいつもの三鷹のものではなかった。
怒ったような、苦しそうな、……いや、今にも泣いてしまいそうな歪んだ目が俺を見る。
「でもそれから雀野、僕のことを見てくれるようになっただろう?」
俺は大きく目を見開く。
「どんな目でも、君の視線が僕に向いて嬉しかったんだ」
絶句して、襟を掴んでいた手が知らず緩んだ、――その刹那。
三鷹の整った顔があり得ないほど近い距離にあった。
(――え?)
唇に冷たい感触を覚えて、一瞬、時が止まったように感じた。
ドンっ!
気付けば俺は三鷹の身体を思いっきり突き飛ばしていた。
三鷹のかき氷が地面に落ちて周りに飛び散る。
俺は自分の口を押さえながら怒鳴った。
「っざけんな!!」
「……」
三鷹は俯き何も言わない。
「お前、最っ低だ……っ」
震えた声でそう言い残し、俺は走ってその場を後にした。
――怒りのせいか、全身が熱くて熱くてたまらなかった。
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