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第15話 自覚

 ――最悪だ。  三鷹にキスをされた。  ――最っ悪だ。  三鷹とキスをしてしまった。  間近に迫ったあいつの顔、あいつの唇の感触が、帰宅して風呂に入ってもベッドに横になり目を瞑っても消えない。  全身の熱が全然引いてくれない。  小学生の頃の告白に怒りを覚えた。  何年も昔のこととはいえ、ふざけんなと思った。  当時俺がどれだけショックを受けたか。お蔭で性格だってこんなにねじ曲がってしまった。    ……なのに。  それより何より一番最悪なのが。 (なんで俺、あいつにキスされて嫌じゃなかったんだよ……っ)  それどころか、俺は――。 「……?」  そのときスマホに通知が来ていることに気づいた。  そういえば祭りの最中一度もスマホを見なかった気がする。  色々な通知の中に、鳶田からのメッセージがあった。 『デート、どうだった?』  そんな短文にイラッとして、俺は返信するよりも通話を選んだ。  ……どうせこのままでは眠れそうにない。話して少しでも気を紛らわしたかった。  何度目かのコールで鳶田が出たのがわかって。 「デートじゃねーって言ってんだろ!」 『声でっか!』  そして空気を読まない面白がるような声が続く。 『で、どうだったよ。キスでもされたか?』 「~~っ!?」  いきなり図星を指され俺が何も言えずにいると、ちょっと引いたような声が返ってきた。 『……え、ガチで?』 「う、うるせー!」 『えーと、もしかしてそのまま付き合うことになったとか?』 「なわけねーだろ! あいつなんてもう顔も見たくねーし! やっぱ祭りなんて行かなきゃ良かった!」 『まぁまぁ、落ち着けよ雀野。何があったか話せるか?』  流石にただ事じゃないとわかったのだろう。  その声が本気(ガチ)トーンに変わって、俺は一度深呼吸してから話し始めた。 『なんつーか……想像以上にエっグいな』 「だろ? ほんと意味わかんねー。そこまでするか、普通」 『激重執着愛ってやつだな』 「あ?」  また聞き慣れない単語が出てきて頭に疑問符が浮かんだが、鳶田の次の言葉で吹っ飛んだ。 『でもよ、お前だって同じようなことしようとしてたし、おあいこじゃね?』 「はぁ!?」 『あいつの好きな子奪ってやるとか言ってただろお前』 「そ、それとこれとは……」  否定しようとして、強くは言えなくなった。  確かに、我ながら随分最低なことを考えていたものだと思う。  でも、それでも、ガキの頃の何も知らなかった自分が不憫に思えて、すぐには納得できそうになかった。 『まぁ、今でもその子に未練があんなら連絡とってみりゃいいじゃん。ワンチャンあるかも?』 「別に未練なんてねーよ。連絡先なんて知らねーし。そういうことじゃなくて……」  そう、別に鴨下さんに未練があるわけではない。  あのとき実は両想いだったと知ることが出来て嬉しくはあったけれど、でもだからと言って今付き合いたいかと言われたら、それは違う気がした。 『ふーん。で?』 「え?」 『三鷹にキスされてどうだったんだよ』 「!」  少しの沈黙が流れて。 『当ててやろうか。今、お前顔真っ赤になってんだろ』 「うるせーー! ……当てんなよ、バカやろ……」  真っ赤どころじゃない。  今本当に酷い顔をしている自覚があって、心底通話で良かったと思った。  友達にだってこんな情けない顔は見せられない。 『そっかそっか、それでやっと自覚しちゃったわけね』 「自覚ってなんだよ」 『いやそれはないわ~』  そして鳶田はやけに優し気な声で続けた。 『お前も三鷹のことが好きだって自覚しちゃったんだろ?』  俺は火照ってしょうがない顔を枕に埋め、小さくぼやいた。 「どうしよう、鳶田……」  自分でもまだ信じられないが、どうやら俺は三鷹のことが好きらしい。  あんな告白をされて確かに強い怒りを覚えたはずなのに、それでも嫌いになるどころか俺は……。 「もしかして俺、ドМだったのか?」 『知らんし。てか、どうしようもなにも、俺も好きだって告れば良くね?』 「でも俺、あいつに酷いこといっぱい言っちまったし」  ――離せ!  ――俺はお前なんか嫌いだ。  ――最っ低だ。  自分が言い放った台詞が次々耳に蘇る。  今更ながら、なんて酷いことを言ってしまったのだろう。  好きな相手からそんな言葉を浴びせられて、普通ならショックを受けるはずだ。  俺は今までどれだけあいつを傷付けてきたのだろう。  そう考えたら罪悪感で胸が苦しくなった。   「それに、ずっと嫌ってたのに今更好きなんて信じられるか? 俺だって自分でまだ信じらんねぇのに……」 『そうか? お前だってずっと三鷹に惚れてたようなもんだろ』 「は?」  あっけらかんと言われて、間抜けな声が出ていた。 『長い間ずっと飽きずに一人をライバル視してよ。それって恋に似てるよなぁと思ってたし』 「こ、恋!?」  熱がまた上がった気がした。 『あいつがずーっとお前に恋してたのと同じようにさ、お前はずーっとあいつのことライバル視してたわけだろ? ある意味両想いじゃね?」 「……」  かなり強引な気もするが、言われて見ればそんな気もしてきた。 (両想い……)  胸の辺りに先ほどとは違う熱を感じて、それが嬉しいという感情なのだと気付く。 『おーい、雀野? 聞いてるか?』 「……まずは、謝ろうと思う」  そうだ。まずは謝らなければ。  酷い言葉をたくさんぶつけてしまったことを。  たくさん傷付けてしまったことを、ちゃんと謝罪しなければ。 『あー、そうだな。それがいいかもな』 「うん。それで許してもらえたら、告って……みる……かもしれない」 『なんでそこで弱気になるんだよ』 「だっ……て、告るって、俺があいつに、す、すす、好きとか……言える気がしねぇ~~」  結局最後は泣き言になってしまって、スマホ越しに鳶田の溜息が聞こえてきた。

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