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後日談 後編

「うわっ」  そのままの勢いでベッドに押し倒すと、蓮は焦ったような顔で俺を見上げた。 「ちょ、ちょっと待っ……んぅ」  もう一度、蓮にキスをする。先ほどよりもディープなやつだ。  一ヶ月前、蓮が行ってしまう前に何度かこういうキスはしたが、いつも蓮に主導権を握られてムカつくから今回は俺がしたいようにしてやる。  いつもとは逆に自分から舌を絡めにいったときだ。 「……っと、待ってってば!」  グイと強く肩を押され引きはがされた。  ムッとして、唇の端に伝った唾液を拭う。 「んだよ、大人しくしてろよ。ご褒美欲しかったんだろ?」 「そりゃ欲しいけど、そうじゃなくて。まぁ、こういうのも悪くはないんだけど」 「はぁ? ――うおっ!?」  今度は強い力で引き寄せられたと思ったら、視界が反転していた。  部屋の天井が見えて、蓮がこちらを見下ろしている。   「うん。やっぱり、僕がこっち側のがしっくり来るかな」 「こ、こっち側って、」  伸びてきた手に眼鏡を外される。  それを枕元の棚に置いてから蓮はにっこりと続けた。 「だから、僕が攻める側っていうか、男役?」  それを聞いてサーっと血の気が引いた。 「っざけんな! 俺は嫌だぞ、女役なんて絶対お断りだ!」  怒鳴りながら起き上がろうとするが、蓮が腹の上に乗っているせいで上手く動けない。  ……そう、男同士のやり方を調べたときに俺は考えたのだ。  入れる方と入れられる方、俺はどっちになるんだ? と。  しかし、自分が入れられる方なんてありえないと思った。 (だって、絶対痛いだろ!?) 「えー」 「えー、じゃない! そういうことならご褒美は無しだ! 退け!」 「えー! ここまでしておいて酷いよ!」 「知るか! 早く退けって!」  しかし蓮は俺の上から退こうとはしなかった。  代わりに俺の腹に優しく手を当てて言った。 「僕、ちゅんののここに入りたいなぁ」 「!?」  ぶわっと全身の熱が上がった気がした。 「な、なな、な……っ」 (なんつーことを言うんだこいつは!?) 「気持ち良くするからさ」 「う、嘘だ! 絶対痛いに決まってる!」 「大丈夫だよ。僕に任せて。ちゃんと色々用意してあるんだ!」  楽しそうに笑う蓮。 「用意って……」 「ローションでしょ、あと勿論ゴムもちゃんとあるよ!」  一気に真実味が増して何も言えずただ口をパクパクさせていると、そんな俺に覆いかぶさるようにして蓮は耳元で囁いた。 「ね? 絶対、気持ちよくするから。……お願い、|真央《まひろ》」  多分初めて名前を呼ばれて、ぞくぞくと身体中に電気が走ったような感覚に襲われた。  そして。 「…………無理だったら即止めるって約束するなら」 「了解!」  お得意のキラキライケメンスマイルが直視出来なかった。 「好きだよ、真央」  ちゅっと軽いキスを落とされ、俺は蓮を睨み上げる。 「それ、やめろ」 「キス?」 「そうじゃなくて、名前。……慣れないから」  顔が赤いのを自覚しながら言うと、蓮は楽しげに笑った。 「じゃあ、今日は慣れるまで呼んじゃおっかな」 「てめ、んっ」  もう一度、俺の文句を塞ぐようにキスが降ってきた。  先程俺がしたキスよりも濃厚で甘くてエロいキスだ。しかもしつこくて、俺はいつもそれだけで頭がぼーっとしてしまう。 「……っ、お前、いつも長いんだよっ」 「今日はベッドにいるから、力入らなくなっても平気でしょ」 「そういうことじゃ、ひぇっ」  変な声が出てしまったのは、奴の手が俺のシャツの裾から入ってきたからだ。 「脇、弱いんだ?」 「びっくりしただけだ!」 「じゃあ、ここは?」 「……っ」  シャツの中の手が胸に触れてびくっと身体が反応してしまった。 「感じる?」 「そういう言い方やめろ! てか、男の胸なんて触って何が楽しいんだよ」 「楽しいよ、だって真央の反応が可愛いから」 「可愛いとか言うな!」  そう言い合っている間もずっと胸の突起を弄られていて、だんだんと妙な気分になってくる。 「……もう嫌だ、それ」 「えー、気持ちよくない?」 「よくな……わっ」  いきなりシャツをたくし上げられ俺の胸が露わになる。 「乳首立ってるし」 「バっ、――お、おいっ!」  怒鳴ろうとして蓮がその突起を口に含んでぎょっとする。 「や、め……っ」  頭を押しのけようとするが蓮はやめてくれない。  ちろちろと舌で転がされるように舐められてくすぐったい。  なのに、なぜか腰辺りがぞくぞくと疼いた。  また変な声が漏れてしまいそうで俺は必死で自分の口を押さえていた。  漸く俺の胸から顔を上げた蓮が呟く。 「……しょっぱい」 「汗かいてんだから当たり前だろ馬鹿!」 「でも気持ちよかったでしょ?」 「だから気持ちよくなんて……うあっ!」  蓮がいきなり俺の中心に触れて高い声が漏れた。 「ここはちゃんと反応してるけどね」 「う、うるせー!」  そこはジーンズ越しでもわかるほどにしっかりと勃ち上がっていて、顔が爆発するかと思った。 「キツそうだから脱ごうか」 「はっ!? 待て、おい!」  ベルトを外されあっという間にジッパーも下ろされてしまった。  俺の昂ぶりがはっきりとわかって物凄く居た堪れなくなる。 「恥ずかしがらないでいいよ、僕だってもうこんなだし」  そう言って蓮は自分で前をくつろげた。  しっかりと俺以上に主張しているそれを見て、俺はぎくりとする。 「真央が可愛いからすごく興奮しちゃった」 「あっ、ちょっと待……っ」  布越しにそこをゆるゆると触れられて、止めようとしたところでまた濃厚なキスが降ってきた。 「んん……っ」  こんなの、無理だ。  気持ちよすぎて、すぐに達してしまいそうになる。 「……っ、蓮、ダメだ、俺、っ」 「僕のも触って、真央」  顔を上気させた蓮の手に誘導され、俺の手が蓮の昂りに押し当てられる。  他人のモノに触れるなんて勿論初めてのことで、羞恥と緊張を覚えながら布越しにゆっくりと手を動かすと、蓮が気持ちよさそうな吐息をついた。  その顔がやたらと色っぽくて、こいつのこんな顔を見られるのはきっと俺だけだと妙な優越感を覚える。  でもすぐにそんな余裕はなくなった。 「あっ」  また甲高い声が出てしまった。  蓮の手が俺のモノに直に触れたからだ。 「待っ、それガチでダメだって、あ、あっ」  どうしても情けない声が漏れてしまう。  なのに蓮の手の動きには容赦がない。  退けようとするも思ったように力が入らなくて。  そんなときだ。 「!」  俺のことをまっすぐに見下ろす瞳とぶつかった。  ――蓮に見られている。  俺のこんな痴態を、蓮に見られている。 「〜〜ッ!」    俺は奴の手の中に思いっきり放ってしまっていた。 「……はぁ、はっ」  一気に脱力しぐったりとベッドに身体を預け荒く呼吸していると。 「いっぱい出たね」  蓮が俺のものがべったりとついた自分の手を嬉しそうに眺めていて。  そのとき、俺の中の何かが限界突破した。 「……真央? 真央!?」  意識が薄れていく中、焦ったような蓮の声が遠くに聞こえた。    *** 「真央?」 「……」 「おーい」 「…………」  俺は蓮の夏掛け布団を頭から被って無言を貫いていた。 「まーひーろー?」 「……」 「気持ち良すぎてちょっと目を回したくらいで、そんなに恥ずかしがらないでいいよ」 「言うなあああーーーー!!」  俺は頭を抱え悶絶した。  目を回していたのはほんの数分だったと思う。  でも目を覚ましてからも蓮の顔がまともに見れず、俺は逃げるように布団を被ったのだ。 「真央」  もう一度、穏やかな声で名を呼ばれ、俺は小さく謝罪する。 「……悪かった」 「え?」 「結局、何も、出来なくて……」  覚悟を決めたのに、全然ダメだった。  自分だけ気持ちよくなって、蓮には結局何もしてやれなかった。  やっぱり俺にはハードルが高過ぎるのだ。 「僕は真央と触れ合えて嬉しかったよ。十分なご褒美だった」  布団越しにポンポンと子供をあやすように頭を叩かれて、ぐうとまた悔しくなる。 「それに、真央の可愛い顔いっぱい見られたし」 「うわーー!!」  俺はまた叫んだ。  自分がどんな顔をしていたかなんて全く覚えていない。でも、情けない顔をたくさん晒してしまった自覚はある。 「声もえっちで可愛かったな〜」 「やめろーーーー!」  そうだ、声もだ。  自分のものではないような恥ずかしい声をたくさん上げてしまった。  これはまだはっきりと耳に残っていて最悪だった。 「真央」  そのとき、布団ごとぎゅうと抱きしめられた。 「ありがとう。好きだよ」 「――っ」  きゅんと胸が切なく鳴った気がした。 「……俺も、好きだ」  小さくそう答えると、俺を抱きしめる力が強くなった。 「顔、見ていい?」 「……」  もぞもぞと布団から出ると、優しい顔があった。 「急がないから、ゆっくりいこう」 「ん」  短く頷くと、ちゅっと軽く啄むようなキスをされた。  こういうところが、こいつは本当にズルいと思う。不覚にもときめいてしまった。    ……しかし。 「別に試験があるわけじゃないんだし。――あ、そういえば夏休み明けテストは絶対負けないからね」  にっこりと言われて、カチーンときた。  ついでにカチリと俺の中の対抗心スイッチが入る。 「何言ってんだ。次も俺が1位に決まってんだろ」 「じゃあ折角だし、勝った方が次『攻め役』をするってのはどう?」 「! ……望むところだ。ぜってー俺が勝つからな!」 「ふふ、そう来なくっちゃ!」  そうして、俺たちは笑い合った。  そうだ。別に急ぐことはない。  俺たちはまだ始まったばかりなのだから。  ――ちなみに、夏休み明けテストで俺は再び2位に陥落。  またも蓮に恥ずかしいところをたくさん見られ、こんな勝負を受けてしまったことを後悔するハメになるのだが、それはまた別の話である。

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