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復讐者と弑逆者①

 黒いほどに青く澄んだ空をゆく猛禽は、岩だらけの山の上で羽ばたきを緩めた。    男の体からはまだ血が流れ出していた。毛皮のついた豪奢な服が血で染まっている。  胸には大きな穴。刀傷とも矢傷とも思えぬ奇怪な死に様だった。  鳥は血の匂いに引かれて旋回していたが、やがて大きく羽ばたいて山から離れていく。  不吉な気配が、あたりに満ちていた。 ――確かなものは殺意だけに思える。  照隅(てるすみ)は刀を握り直す。無骨な黒っぽい刀身、無装飾の鍔。身分相応の刀を使うべきだと兄は言うが、照隅にはこれが良かった。  丈夫で、手に馴染んで、巫者を斬れるならそれでいい!  それはまさに今の照隅を体現していた。  目前の風の渦は刻々と勢いを増し、石ころだらけの山肌を削り、土砂を巻き上げて頭上に竜巻を形成しつつある。その中心に、ほっそりとした人影が佇んでいた。  あれは、人間の形をした災厄だ。 「なぜ、陛下を弑逆した?」  鋭く、切り付けるような問い。しかし、渦の中の男は長い髪と袂を風に弄ばせながら、表情をまったく動かさない。 「私がその問いに答えるべき相手は、あなたではない」 「俺は陛下の弟だぞ!!」  怒気が爆発する。味方すら近寄るのを躊躇う負の感情が照隅の身体を覆い尽くす。兵士たちは睨み合う二人を遠巻きに見やるのみだ。  しかし、照隅自身はずっと、現実感を喪失したままでいた。  まるで、背後にいるもう一人の自分に、指先に至るまで操られているようだ。 (それがどうした。何をすべきかさえ分かっていれば、それでいい)  よく切れる刀がよい刀だ。  照隅は地面を蹴って渦に飛び込んだ。布切れを放り込み、風の弱まる周期をじっと測っていたのだ。不意をつかれた男は掌を前方に向け、輝く半透明の防壁を打ち出した。刀を振るうと玻璃の砕けるような音が立て続けに響き渡る。風が抉った崖から、巨岩が崩れ落ちていく音が響いた。巫力の制御が揺らぎ始めている。男の白い顔に初めて焦りが浮かんだ。 「王弟殿下!これ以上ッ………!」 「死ね!!」  大上段から刀を振り下ろす。防壁ごと脳天を叩き割る気迫を込めた一刀はしかし、空を切った。  地面が消えたのだ。  体が宙に浮く感覚。泥の匂いと石礫が当たる痛み、そして轟音。  照隅は意識を失った。

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