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復讐者と弑逆者②
意識が浮上して最初に感じたのは肩の痛みだった。
何度か瞬きして、照隅は自分が川べりの小石の上にいることに気付く。肩の痛みはそのせいだ。
「……どこだ、ここは」
「おそらく、登ってきたのと反対側の下流です」
「ッ!?」
跳ね起きて、刀を探す。ない。落下のどさくさで失くしてしまったらしい。
改めてあたりを見回すと、ここは茶色く濁った川が蛇行して、少し水流が緩やかになった地点だった。両岸ともに木が生い茂って、人里が近くにあるのかどうかも判然としない。
恐らく自分たちが派手に戦ったために、雨で脆くなっていた崖が崩れ、二人とも渓谷を流れる川に落ちたのだろう。よく溺れ死ななかったものだ、と照隅は自分を川の中から引き上げ、ここに寝かせたのであろう人物を睨み付けながら思う。
「なぜ逃げなかった」
泥混じりの川を流されて、白というよりは薄茶色になってしまった着物の袂を絞っていた男は手を止め、振り向いた。
「逃げる? 私は都に戻って神樹の裁きを受けなければなりません。あなたも都に戻られるのですから、こうするのが一番効率的でしょう」
照隅は沈黙した。
(相変わらず、このかんなぎ は何を考えているのかさっぱり分からん)
阿茲迦 。当代に五人しか存在しない大巫 の一人。
歳の頃は照隅とそう変わらないだろう、十代のうちに巫者として最高格にあたる大巫の資格を得、現在も最年少でその地位を守っているという。権門の出身ではなく、政治に興味を持たず、富貴も好まぬその慎ましさが王の覚えめでたく、こうやって王の行う巡礼に度々随行を命じられていた。
王の信任は完全に仇となったわけだが。
照隅は立ち上がり、全身を点検する。山あいの急峻な流れを流されたわりに、服地がところどころ破けたくらいで大きな怪我はない。
(俺の巫力には長時間全身を守るような容量はない。あの刀にあらかた回してしまっていたしな……。と、なると)
考えられるのは、阿茲迦が自分の身を守るついでに照隅の身体にも庇護の術をかけたということだ。竜巻を作り出すほどの巫力を使った後で信じがたい話ではある。この男の巫力は底なしなのだろうか。
ぼんやり散らばっていた思考が収束し始める。
阿茲迦は照隅のことを脅威とすら思っていないのか、袂を探って持ち物を確認している。
「……」
川に落ちるまで殺し合っていたとはいえ、一度命を救われた以上、その借りを清算する前に攻撃を仕掛ける、しかも騙し討ちで、というのは刀を振るう者として、また親王という地位にある者として、当然すべきではない。
すべきではないのだが、
(悪いが、俺は刀を振るう者ではなく、刀そのものなんでな)
心の中でそう呟いて、照隅がさりげなく隠し持った抜き身の懐剣を阿茲迦のうなじめがけて振りかぶったその時だった。
パシッ、パシッ……
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