16 / 16
CM出演?
地区シリーズ進出を決めて数日後。
クラブハウスへ入るなり、陽彩は監督に呼び止められた。
「藍沢、朝倉。ちょっといいか」
陽彩と凜は顔を見合わせ、そのまま監督室へ向かう。
机の上には一枚の企画書が置かれていた。
「球団にオファーが来た」
「オファー?」
陽彩は首を傾げる。
「スポーツメーカーのCM撮影だ」
一瞬、部屋が静まる。
「……CM?」
「お前ら二人をご指名だ」
陽彩は数秒固まったあと、パッと顔を輝かせた。
「凜と二人? 出る出るー!」
監督は思わず笑みを浮かべる。
「まだ内容も聞いてないぞ」
「凜と一緒ならなんでもいい!」
迷いのない返事だった。
監督は苦笑いしながら、隣に立つ凜へ視線を向けた。
「朝倉はどうだ?」
凜は企画書へ一度だけ目を落とす。
「……断ったら?」
一瞬、部屋の空気が止まる。
「無理!」
陽彩が勢いよく凜の腕にしがみついた。
「こいつも出ます! 大丈夫です!」
「……」
凜は腕にしがみつく陽彩を一瞥すると、小さくため息をついた。
「ということで、俺ら出まーす!」
陽彩が満面の笑みで親指を立てると、監督は苦笑いしながら頷いた。
机の上の企画書を手に取る。
「撮影は来週のオフ。場所はロサンゼルス市内のスタジオだ。ユニフォーム姿だけじゃなく、私服での撮影もあるらしい」
そう言って二人へ資料を差し出す。
陽彩は興味津々といった様子でページをめくり、撮影内容へ目を通した。
スポーツブランドの新作モデル。
キャッチボールやトレーニング風景に加え、二人で並んで歩くカットやインタビューも予定されているらしい。
隣では凜も静かに資料へ視線を落としていた。
表情は変わらない。それでも最後まで目を通すと、静かに企画書を閉じた。
監督はそんな二人を見渡し、小さく笑みを浮かべる。
「詳細はまた後日連絡が来る。それまではいつも通り、野球に集中してくれ」
二人は揃って頷いた。
監督室をあとにし、クラブハウスへ戻る。
扉を開けた瞬間だった。
「お、帰ってきた」
「ボスなんて?」
近くにいたチームメイトたちが一斉に振り返る。
陽彩は隠す気など全くなかった。にやにやと笑いながら企画書をひらひらと振った。
「聞いて驚け!」
わざと間を空ける。
「俺と凜、CMでまーす!」
一瞬静まり返ったクラブハウスは次の瞬間、大きなどよめきに包まれた。
「マジか!」
「メジャーリーガーもここまで来ると、テレビに出れるのか……」
口々に飛ぶ祝福の声に、陽彩は照れくさそうに頭を搔く。
その隣で、凜は相変わらず表情を変えない。
「朝倉、嬉しくないのか?」
「テレビに出たくて野球やってるわけじゃない」
凜は淡々と答え、ロッカーへ視線を戻した。
一瞬、静まり返るクラブハウス。その空気を破ったのは陽彩だった。
「凜ってねー、俺と野球以外興味無いから♡」
「違う」
即答だった。陽彩はけらけらと笑いながら凜の肩へ腕を回す。
「え? 俺まさか野球より下?」
凜は少しだけ考えるように間を置き、淡々と言った。
「比べるものじゃない」
その一言に、陽彩の口元がゆっくりと緩む。
周囲からは「また始まった」とでも言いたげな笑い声が漏れた。
そんな二人のやり取りは、今やノヴァスの日常になっていた。
ともだちにシェアしよう!

