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第6話 恋人未満で入館禁止
オカ研は、意外と真面目に活動している。
名前だけ聞くと、夜中に洋館へ忍び込んだり、怪しい儀式をしたり、ろうそくを囲んで意味深に頷いたりしていそうだが、実際はもっと地味だ。
古い怪談資料を整理する。
噂の出典を確認する。
過去の調査メモを年代順に並べる。
必要なら現地へ行く。
だいたい、そういう活動だった。
その日も、部室の机には古いファイルとコピー用紙が広がっていた。
「この地域の怪談、年代が混ざってるね」
昇さんが、いつもの穏やかな先輩の顔で言った。
「昭和の話と平成の話が、同じ伝承みたいにまとめられてる」
「じゃあ、分けますか」
俺は、なるべく普通の後輩の声で返した。
普通に。
ちゃんと。
オカ研の活動中だ。
部室には、俺と昇さん以外にも部員がいた。
同じ机を囲んで、資料を分担している。
だから、俺たちは普通の先輩後輩でいなければならない。
少なくとも、いようとしていた。
「吉井、このコピー、年代順に並べてくれる?」
昇さんが、俺の方へ資料を差し出す。
吉井。
活動中の呼び方。
恋人になる前から聞き慣れた呼び方。
なのに、今は少しだけ胸がくすぐったい。
だって、二人きりの時はもう違う。
和也。
そう呼ばれる。
耳元で。
キスの前に。
抱き寄せられた時に。
昨日の夜を思い出しそうになって、俺は慌てて資料を受け取った。
「はい。任せてください」
「うん。助かるよ」
昇さんが微笑む。
いつもの先輩の笑顔。
誰にでも向ける、柔らかい笑顔。
それを見た瞬間、胸の奥が小さくむっとした。
いや、活動中だ。
先輩が部員に笑うのは普通だ。
普通なのに。
恋人になった俺は、普通が少し嫌になっている。
かなり困る。
「吉井くん?」
隣の部員に呼ばれて、俺ははっとした。
「はい?」
「その資料、こっちの山じゃない?」
「あ、すみません」
違う山に置きかけていた。
完全に集中していない。
原因は分かっている。
昇さんが近い。
近いのに、遠い。
部室では普通の先輩後輩の距離でいようとしているから、余計に変な緊張がある。
机の下で、昇さんの足が少し動いた。
偶然、俺の靴先に触れる。
それだけで、心臓が跳ねた。
俺は資料を落としそうになった。
昇さんは何もなかった顔で、別のファイルを開いている。
ずるい。
絶対、気づいている。
いや、わざとかもしれない。
「牧野先輩、今日なんか二人とも変じゃないですか?」
部員の一人が、軽い調子で言った。
俺は固まった。
「変?」
昇さんは涼しい顔で聞き返す。
「いや、なんか、距離感が……いつもよりよそよそしいというか」
「真面目に活動しているだけだよ」
昇さんは、穏やかに笑った。
真面目に活動しているだけ。
その顔で、机の下で俺の靴先に触れてきた人が言うことじゃない。
俺は内心でそう思った。
でも、口には出せない。
出せるわけがない。
「吉井も真面目だしね」
昇さんがこちらを見る。
俺は一拍遅れて頷いた。
「はい。真面目です」
「今、間があった」
部員に笑われる。
俺は資料を揃えながら、無理やり平静を装った。
「真面目すぎて、返事に重みが出ただけです」
「何それ」
部室に笑いが起きる。
昇さんも笑った。
その笑顔を見て、また胸がむっとする。
他の人に笑顔。
普通。
普通だけど。
恋人になった俺には、少しだけ贅沢な不満ができてしまった。
****
活動が終わる頃には、外は夕方になっていた。
他の部員たちは、今日まとめた資料を棚に戻し、鞄を持って部室を出ていく。
「お疲れさまでした」
「お疲れ」
昇さんは、最後までいつもの先輩の顔で見送った。
扉が閉まる。
足音が遠ざかる。
廊下の気配が静かになる。
部室に、俺と昇さんだけが残った。
空気が変わった。
ほんの少し。
でも、はっきり。
俺は資料を揃えるふりをした。
本当は、もう一枚も読んでいない。
背中に昇さんの視線を感じる。
さっきまで「吉井」と呼んでいた声が、少しだけ柔らかくなる気配がした。
「和也」
指が止まった。
だめだ。
二人きりでその呼び方をされると、まだ慣れない。
いや、慣れたい。
慣れたいけど、慣れたくない。
呼ばれるたびに胸が跳ねる今のままでもいたい。
「はい」
振り返ると、昇さんが椅子に座ったまま俺を見ていた。
先輩の顔ではない。
恋人の顔だった。
優しいのに、目の奥に熱がある。
「おいで」
たったそれだけで、体が熱くなった。
「まだ片付けが」
「あとで一緒にやろう」
「部室です」
「鍵は閉めたよ」
「そういう問題ですか」
「うん。たぶん、そういう問題ではないね」
昇さんは笑った。
ずるい。
分かっている顔だ。
俺がもう行きたいと思っていることも。
さっきからずっと我慢していたことも。
全部、分かっている顔。
俺は資料を机に置いた。
一歩、昇さんに近づく。
それだけで、胸が苦しい。
二歩目で、もう顔が熱い。
昇さんの前に立つと、彼は手を伸ばして、俺の指先に触れた。
「活動中、ずっと我慢してた?」
「……してました」
言った。
もう隠せない。
「先輩が、ずっと吉井って呼ぶから」
「活動中だからね」
「分かってます」
「でも、和也って呼んでほしかった?」
「……はい」
認めると、昇さんの目が甘くなる。
「可愛いね」
その声だけで、胸の奥がほどけた。
俺は昇さんの肩に手を置いた。
迷ったのは、一瞬だけだった。
そのまま、昇さんの膝に跨る。
自分でやったくせに、顔が一気に熱くなった。
昇さんの手が、俺の腰を支える。
「今日は和也から来てくれるんだね」
「だって、活動中ずっと我慢してました」
昇さんが息を止める。
それから、低く笑った。
「俺も」
その一言で、もうだめだった。
俺は昇さんにキスをした。
最初は軽く。
唇が触れるだけ。
でも、すぐに足りなくなる。
昇さんの腕が腰に回る。
俺は昇さんの首に腕を回す。
もう一度、キスをする。
今度は少し深く。
息が混ざる。
胸が熱くなる。
「昇さん……っ♡」
名前がこぼれた。
昇さんの指が、腰をゆっくり撫でる。
「和也」
その声が、甘い。
優しいのに、逃がしてくれない。
「活動中、他の部員に笑ってたね」
「それは、普通に話してただけです」
「俺以外に、あんな顔で笑うの禁止って言っただろ」
心臓が跳ねた。
「言われてません」
「今、言った」
「今ですか」
「うん。恋人だからね」
恋人だから。
その言葉だけで、何でも許してしまいそうになる。
ずるい。
「昇さんこそ」
俺は昇さんの肩を掴んだ。
「他の人に優しすぎです」
昇さんが目を細める。
「そう?」
「そうです。資料渡す時も、普通に笑ってました」
「和也、見てたんだ」
「見てました」
言ってから、顔が熱くなった。
でも、引かない。
俺だって、恋人だ。
言いたいことくらいある。
「ぷー」
思わず口を尖らせると、昇さんが一瞬だけ固まった。
それから、困ったように笑う。
「可愛い顔」
「可愛いって言えば、誤魔化せると思ってますよね」
「思ってる」
「思ってるんですか」
「だって、和也は可愛いって言うと、すぐ反応するから」
「そんなこと」
昇さんが、俺の腰を少し引き寄せた。
体が密着する。
「あっ……♡」
言葉が途切れた。
「そんなこと、何?」
耳元で囁かれる。
声が優しい。
でも、恋人として俺を捕まえる声だった。
「誤魔化されません……っ♡」
「そう」
昇さんの唇が首筋に触れる。
「あ……っ♡」
甘い。
部室なのに。
普通の放課後なのに。
月影館でもないのに。
俺は、昇さんの膝の上で、簡単にほどけていく。
「和也」
「はい……っ♡」
「今の和也は、自分で俺を欲しがってる」
胸の奥が、甘く痛くなった。
そうだ。
誰も命令していない。
壁に文字も出ていない。
扉は開いている。
それなのに、俺は自分から昇さんの膝に乗っている。
自分からキスしている。
昇さんに触れられたいと思っている。
「はい……っ♡」
俺は、昇さんのシャツを掴んだ。
「俺が、欲しいです……っ♡」
昇さんの目が揺れた。
優しい。
でも、熱い。
「いい子だね」
その一言で、体が震える。
「あっ……♡」
「ちゃんと言えた」
「言わせたんです……っ♡」
「うん。言わせた」
昇さんが、俺を抱きしめる。
「じゃあ、言えたご褒美」
「ご褒美……っ?」
返事より先に、キスが落ちてきた。
深いキス。
甘いキス。
俺を全部溶かすみたいなキス。
「ん……っ♡」
声が漏れる。
昇さんの手が、俺の背中を撫でる。
肩。
腰。
髪。
触れられるところ全部が、熱くなる。
「昇さん、甘いです……っ♡」
「甘やかしてるからね」
「だめ、甘やかされると、変になります……っ♡」
「なっていいよ」
昇さんの声が、少し低くなる。
「俺の恋人なんだから」
恋人。
その言葉だけで、また胸の奥がほどける。
「俺、昇さんの恋人って言われるの、嬉しいです……っ♡」
「俺も嬉しいよ」
昇さんの腕に力がこもる。
「だから、我慢できなかった」
「我慢……?」
「活動中、真面目な顔をしてる和也を見てたら、早く二人きりになりたくなった」
胸が、甘く痛くなる。
昇さんも。
俺と同じだった。
「俺も、です……っ♡」
「知ってる」
「知ってたなら、早く」
「早く?」
昇さんが少し笑う。
「早く、こうしてほしかった?」
返事ができない。
でも、顔に出たらしい。
昇さんの目が甘く細まる。
「顔に出てる」
「あ……っ♡」
「可愛い」
まただ。
可愛いと言われるたび、体が反応してしまう。
「可愛いって、言わないで……っ♡」
「どうして?」
「また、変になる……っ♡」
「なっていいよ」
昇さんが、俺の耳元で囁く。
「俺だけが見るから」
胸の奥が、熱でいっぱいになる。
俺だけ。
昇さんだけ。
その言葉が、甘すぎて、息がうまく吸えない。
昇さんは、俺を急かさなかった。
でも、逃がしてもくれなかった。
ゆっくり。
甘く。
確実に。
俺が弱いところを、恋人の手つきでほどいていく。
俺は昇さんの肩にしがみついた。
「昇さん……っ♡」
「うん」
「もっと、ください……っ♡」
言ってしまった。
でも、もう恥ずかしさより、欲しさの方が勝っていた。
昇さんの目が、甘く揺れる。
「いいよ」
それだけで、胸が満たされる。
この先の甘さを、俺はもう知っている。
月影館の夜に暴かれた熱。
でも今は、あの館に命じられているわけじゃない。
俺が、自分で昇さんを欲しがっている。
昇さんも、俺を欲しがってくれている。
それが分かるだけで、体の奥まで甘くなる。
「和也」
昇さんの声が掠れた。
「ゆっくりでいいよ」
「はい……っ♡」
俺は昇さんの肩にしがみつきながら、少しずつ近づく。
近い。
重い。
深い。
「あっ……♡」
息が跳ねた。
昇さんの熱を、体の奥で受け止めている。
俺が、自分から求めた。
自分から跨って、自分からキスして、自分から欲しいと言って。
今、昇さんを受け止めている。
「昇さん……っ♡」
「うん」
「ちゃんと、奥まで……っ♡」
言った瞬間、自分の声でさらに熱くなった。
昇さんが、俺の腰を抱きしめる。
「そんなことを言われたら、俺がもたない」
「もたなくて、いいです……っ♡」
昇さんの目が、熱く揺れた。
それから、俺の腰を少しだけ引き寄せる。
奥で、熱が甘く擦れた。
「あっ♡」
思わず声が跳ねる。
「擦れてる?」
「擦れてます……っ♡」
「気持ちいい?」
「気持ちいいです……っ♡」
素直に言った。
もう、隠せない。
昇さんの前では、隠したくない。
昇さんが、俺の腰をゆっくり動かす。
深く重なったまま、奥で熱が擦れる。
「あっ……♡ 昇さん……っ♡」
「ここ?」
昇さんが、角度を少し変える。
奥に、こつんと当たった。
「ひゃっ……♡」
変な声が出た。
昇さんの目が甘く細まる。
「奥、当たってるね」
「言わないで……っ♡」
「でも、そこがいいんだろ」
「いいです……っ♡」
認めた瞬間、昇さんが下からゆっくり突き上げた。
「ああっ♡」
体が跳ねる。
昇さんの肩を掴む指に、力が入った。
「昇さん、奥っ……♡」
「うん。分かってる」
「分かってるなら、少し待って……っ♡」
「待てるかな」
声が甘い。
意地悪なのに、優しい。
恋人の声。
昇さんは、俺の腰を支えながら、もう一度下から突き上げた。
「あっ♡ 無理……っ♡」
「無理?」
「奥、当たって……っ♡」
「じゃあ、ここを覚えておく」
「また覚えるんですか……っ♡」
「和也のことだからね」
その言葉で、胸まで甘くなる。
恋人だから。
俺の反応を覚えられる。
俺の弱いところを、好きな人に知られていく。
恥ずかしい。
でも、嬉しい。
俺は昇さんにしがみついたまま、少しだけ体に力を込めた。
昇さんの呼吸が、はっきり乱れる。
「うっ……」
低い声が、耳元に落ちた。
「締まる。やばい」
胸が跳ねた。
俺が。
昇さんを。
気持ちよくできている。
それが分かった瞬間、嬉しさがこみ上げた。
「っ、どうですか……あっ♡」
自分で仕掛けたくせに、奥で熱が擦れて声が崩れる。
「熱い……仕返しです♡」
昇さんの目が、一瞬だけ大きくなる。
それから、甘く危うく細められた。
「……やるな、和也」
その声で、体の奥が震えた。
「でも、こうしたらどうだ?」
昇さんが、俺の腰を抱え直す。
次の瞬間、下から深く突き上げられた。
「……っ♡、ああっ♡ 無理♡」
声が跳ねた。
腰が逃げそうになる。
でも、昇さんの腕が支えている。
逃がさない。
落とさない。
ただ、甘く深く、俺を満たしてくる。
「仕返ししたのは、和也だろ」
「しましたけど……っ♡」
「なら、俺も返すよ」
「返さなくて、いいです……っ♡」
「だめ。恋人だから、ちゃんと返す」
また突き上げられる。
奥で熱が当たる。
擦れる。
跳ねる。
「あっ♡ 昇さん、だめ……っ♡」
「だめじゃない顔をしてる」
「無理……っ♡」
「無理でも、欲しい顔だ」
「欲しいです……っ♡」
言ってしまった。
でも、もう止まらない。
「もっと、ください……っ♡」
昇さんが、俺の額にキスをした。
「いい子だね」
その一言で、体が震える。
「あ……っ♡」
「ちゃんと言えたね」
「言わせたんです……っ♡」
「うん。言わせた」
昇さんが、また深く突き上げる。
「ああっ♡♡」
体が弓みたいにしなる。
もう、部室だとか、鍵をかけたとか、そんなことは頭から消えていた。
昇さんの手。
声。
熱。
俺だけを見る目。
それだけでいっぱいになる。
「可愛い」
「可愛いって、言わないで……っ♡」
「どうして?」
「また、締めちゃう……っ♡」
昇さんの息が乱れた。
「それは、困るね」
「困ってる顔、してません……っ♡」
「嬉しい顔かもしれない」
「じゃあ、もっと困ってください……っ♡」
俺は、もう一度、体に力を込めた。
昇さんが、低く息を吐く。
「和也」
その声だけで、胸が熱くなる。
「本当に、やるな」
「俺、恋人ですから……っ♡」
言えた。
ちゃんと言えた。
俺はただ崩されているだけじゃない。
昇さんに甘やかされるだけじゃない。
昇さんを欲しがって、昇さんを気持ちよくして、昇さんの余裕を少しだけ奪い返せる。
俺たちは、対等な恋人だ。
そう思った瞬間、胸の奥まで満たされた。
「俺の恋人は、ずいぶん可愛い仕返しをするね」
「可愛いで誤魔化さないでください……っ♡」
「誤魔化してないよ」
昇さんが、俺の耳元で囁く。
「本当に可愛い」
そのまま、深く突き上げられる。
「あっ♡ 奥っ……♡」
「それに」
また。
「ああっ♡♡」
「すごく気持ちいい」
その言葉で、限界が近づいた。
昇さんが、俺で気持ちよくなっている。
俺が仕返しすると、息を乱す。
俺がしがみつくと、目が熱くなる。
俺が好きだと言うと、腕の力が強くなる。
それが、嬉しい。
気持ちいい。
好きで、好きで、どうしようもない。
「昇さん……っ♡」
「うん」
「好き……っ♡」
「俺も好きだよ」
昇さんの手が、俺の腰を抱え直す。
「俺も好きだよ、和也」
下から深く突き上げられる。
「あっ♡」
奥に当たる。
擦れる。
熱が、逃げ場をなくす。
「だめ……っ♡」
「和也」
「無理……っ♡ 奥、無理……っ♡」
「可愛いよ」
その声が甘すぎて、また体が震えた。
「可愛いって、言わないで……っ♡」
「可愛い」
「あっ♡」
「気持ちいい」
昇さんの声も、少しずつ余裕をなくしていく。
それが分かる。
俺の中で、昇さんも崩れている。
俺だけじゃない。
二人で、同じ熱の中に落ちている。
「昇さん……っ♡」
「和也」
「好き……っ♡」
「俺も好き」
「大好き……っ♡」
昇さんの腕に力がこもる。
「俺も、大好きだよ」
その言葉で、視界が揺れた。
胸がいっぱいになる。
体の奥も、心も、全部が昇さんで満たされる。
「だめ……っ♡」
「うん」
「いく……っ♡」
「一緒に」
「無理……っ♡ もう、無理……っ♡」
「和也、可愛い」
「好き……っ♡ 昇さん、好き……っ♡」
「俺も好き。気持ちいいよ、和也」
「あっ♡ それ、だめ……っ♡」
「締まる……っ、和也」
昇さんの声が掠れる。
それだけで、また熱が跳ねた。
俺が、昇さんを気持ちよくしている。
昇さんも、俺で余裕をなくしている。
嬉しい。
気持ちいい。
好き。
もう、それしか残らない。
「大好き……っ♡」
「俺も」
「昇さん……っ♡」
「和也」
突き上げられるたびに、奥で熱が弾ける。
擦れるたびに、声が勝手に跳ねる。
昇さんの腕が、俺を落とさないように支えている。
でも、逃がしてはくれない。
甘くて、深くて、どうしようもない。
「いく……っ♡」
「うん」
「いく、昇さん……っ♡」
「俺も、もう」
「ああっ♡♡ 好き、好き……っ♡」
「和也、好きだよ」
その声で、全部が弾けた。
体の奥から、甘い熱が一気に広がる。
俺は昇さんにしがみついたまま、大きく震えた。
声が止まらない。
「昇さん……っ♡ 大好き……っ♡」
昇さんも、俺を抱きしめたまま震える。
熱が深くほどけて、息が重なって、名前だけが何度も耳元に落ちてくる。
「和也」
「昇さん……っ」
「好きだよ」
その言葉を最後に、俺は昇さんの肩に額を預けた。
体はまだ震えている。
でも、胸の奥は、信じられないくらい甘く満たされていた。
****
しばらく、動けなかった。
部室の空気は、夕方の熱を含んでいる。
窓の外では、キャンパスの人声が遠く聞こえた。
普通の放課後。
普通の部室。
なのに、俺は昇さんの膝の上で、すっかり甘やかされていた。
「俺たち」
俺は、昇さんの胸元に顔を埋めたまま言った。
「すっかり、だめな恋人になってませんか」
「だめ?」
昇さんの手が、俺の髪を撫でる。
「甘すぎます」
「和也は嫌?」
「……嫌じゃないです」
昇さんが笑う気配がした。
「じゃあ、甘い恋人でいいんじゃないかな」
「いいんですかね」
「うん。俺は嬉しいよ」
その言葉で、胸がまた甘くなる。
俺は顔を上げた。
「俺、ちゃんと昇さんの恋人なんですね」
昇さんの目が、柔らかくなる。
「うん」
頬に触れられる。
「俺の恋人だよ」
胸がいっぱいになった。
月影館に閉じ込められて、欲を暴かれて、逃げられなくなって。
でも、今は違う。
ここに館はない。
俺たちは閉じ込められていない。
それでも、俺は自分から昇さんを欲しがった。
昇さんも、俺を欲しがってくれた。
恋人として。
それが、嬉しかった。
「和也」
「はい」
「もう少し、このままいていい?」
「はい」
俺は、昇さんに抱きついた。
「俺も、このままがいいです」
昇さんの腕が、俺を包む。
優しい。
あたたかい。
その時、机の上でスマホが震えた。
「……え」
画面を見る。
保存していた、月影館の写真だった。
朝の月影館。
薔薇窓の書斎。
机の上の日記。
その写真に、赤い文字が増えている。
『近頃、館内が静かで寂しい。
恋人同士の再入館を歓迎する。
できれば、仲睦まじい姿を見せられたし』
俺は固まった。
「……見せられたし、じゃないです」
昇さんが画面を覗き込んで、吹き出した。
「寂しいらしいよ」
「館が寂しがるの、嫌なんですけど」
さらに、赤い文字がじわりと増えた。
なお、休日前夜が望ましい。
俺は顔を覆った。
「絶対、聞いてましたよね」
「和也が言ったからね。次は休日前夜って」
「記録しないでほしいです」
「でも、要望は具体的だね」
「具体的じゃなくていいです」
昇さんが楽しそうに笑う。
俺はスマホを見つめた。
月影館。
出られない館。
俺たちを閉じ込めて、無理やり本音を暴いてきた、迷惑な洋館。
でも、今は少しだけ違って見える。
寂しい。
恋人同士の再入館を歓迎する。
仲睦まじい姿を見せられたし。
迷惑だ。
かなり迷惑だ。
でも、ちょっとだけ、可愛い気もする。
本当にちょっとだけ。
「また呼ばれてるから、行こうか」
昇さんが言った。
「……行くんですか」
「和也は行きたくない?」
行きたくない。
そう言えばいい。
でも、言えなかった。
少し怖い。
でも、それ以上に、昇さんとなら行きたい。
今度は恋人として。
館に暴かれるためではなく、二人で見せつけに行くみたいに。
俺は顔を赤くしたまま、昇さんの手を握り返した。
「はい……っ♡」
昇さんが、嬉しそうに笑う。
「いい返事だね」
俺たちは部室を片付けた。
資料を棚に戻す。
机を拭く。
窓を閉める。
鍵をかける。
真面目なオカ研部員として、ちゃんと部室を出る。
でも、廊下に出た瞬間、昇さんが自然に俺の手を取った。
今度は裾でも、腕でもない。
自然に、指が絡む。
夕方のキャンパスを、二人で歩く。
月影館は、また俺たちを呼んでいる。
出られない館は、もう怖くない。
たぶん、また閉じ込められる。
でも、それならそれで。
俺はもう、昇さんの手を離す気がなかった。
** 恋人未満で入館禁止♡ 〜出られない館は先輩と俺を甘やかす〜 (終わり)
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