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その日、王は現れた

誰も俺を見ない。   怒鳴る奴もいない。 いや、怒鳴れない。 なぜなら、この学校の理事長は俺の祖父だからだ。 中高一貫 私立星々浦学園。 俗に言う優等生クンたちが通うここら辺では名の知れた学校。   俺はもちろんコネ入学。 だから昔から教師連中は俺に強く出られない。   その結果がこれ。 好き放題やってもせいぜい停学止まり。 クラスの王様だ。 神城 聖奈。18の高3。 趣味も特技も何もない。 ダチとかいうのもいない。 でもこの世界は俺の思い通り。 俺が白を黒といえばそれは黒になる。 それが当たり前。 ___そうおもっていた。 「失礼するよ。」 不意に、教室の前方から声がした。 教師のものじゃない。 生徒だ。 視線を向けると、1人の男子生徒が教室へ入ってくる。 それを追いかけるように、影のように付き従う男がいた。 白い手袋。 隙のない姿勢。 そして、燕尾服。 誰もがその異様な光景に目を奪われていた。 当の本人はそんな視線など慣れっこなのか、当然のような顔で教室の中央を歩いていく。 彼らを知らない生徒はいない。 華宮財閥の御曹司、高等部 1年生 華宮 薫。 成績は常に首席。この学園の顔とも称される。 容姿端麗、才色兼備。 それに仕えるのが高等部 3年生 御影 伊織。 凛とした顔つきに愛想はない。 だが、高校生とは思えない落ち着いた所作と隙のない立ち振る舞いは、人の目を引かずにはいられなかった。 主人が主人なら、執事も執事。 どこを切り取っても絵になる二人だった。   張り詰めた空気が一気に和らぐ。 女子たちがうるさいくらいの黄色い歓声をあげた。 その声に眉を顰めるが、その瞬間、誰も俺を見ていなかった。 …初めてだ。 俺が表情を変える度、一喜一憂する連中が俺以外に夢中になっている。 「華宮様…っ!?1年生なのになぜ…この教室に…!?お、お…おはようございます…っ!」 先程まで俺の表情を伺い、ビクついていた女が小さな肩を揺らしながら叫ぶように言った。 「おはよう。新学期だから伊織のクラスの様子を見ておこうと思ってね。伊織と仲良くしてやってほしいな、沢城さん。」 彼が言葉を終える前に、また黄色い悲鳴が上がる。 「な、名前…!?覚えられてる…!?」 「羨ましい…っ!」  卒倒しそうになる女子を見て華宮は不思議そうな表情を浮かべた。 「親愛なる執事のクラスメイトの名前を覚えているのがそんなに不思議かい?鳳さんのお名前ももちろん覚えているけれど。」 「えっ!!じゃ、じゃあ…わ…私は…!?」 「ん?君は…西園寺さんだね。」 「私は私はー!?」  くだらない。  たかが名前を覚えられていたくらいで何がそんなに嬉しいのか。 己の立場を忘れている無様な女共に喝を入れようと、机の脚を思い切り蹴った。 鈍い音が教室に響き渡る。  反応がない。 誰も気にもとめない。  …おかしい。  こんなんじゃまるで、このクラスの王様はアイツじゃないか。 「…わからせてやるよ。」 整った顔立ち、高い鼻。  遠くからでもわかる、フワフワしたまつ毛。    今俺が、全部ぐちゃぐちゃにしたら周りはどうする?  「…おい…神城くん…なんかキレてね…?」  俺はフラフラと立ち上がり、連日の喧嘩で血が滲む拳を強く握りしめた。 想像するだけで口角が上がる。 これから起こすのは革命だ。  一歩、また一歩と華宮へ歩み寄る俺の姿を見て、先程までギャーギャーと耳障りな声を上げていた女子共が途端に黙り出す。 その張り詰めた空気を切り裂くように、隣に控えていた執事が静かに口を開く。   「お下がりくださいまし。」  「…ッ……?!」

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