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この出会いは必然で
瑠璃色の瞳が俺をまっすぐと見ていた。
吸い込まれそうなほど、綺麗なビー玉。
その美しさに思わず息を呑む。
だがそれを悟られまいと睨み返した。
「てめえに用はねえ。そこの"王子様"、面貸しな。」
「聞こえませんでしたか。お下がりくださいまし。」
冷静に淡々と話す口調の裏に、確かに殺意を感じた。
普段は俺が通れば大人しく道を譲る女共が、今日は王子を守る女騎士にでもなったつもりか、揃って俺を睨みつけていた。
「んだよ、てめえら。そんな顔したら可愛い顔が台無し…あぁ、ブスしかいねえかあ。
…まあ、いいや。クソ執事、てめえから殺してやるよ…っ!」
怒声を上げると同時に、拳を振りかぶって殴りかかった。
しかし、執事は眉一つ動かさない。
——その瞬間、俺の拳を片手で受け止めると、小さくため息をついた。
「……は。」
唖然と立ち尽くすしかなかった。
「威勢がいいだけの弱者は見ていて飽きませんね。」
一気に騒がしくなった周りの雑音が気にならないほど、
俺は呆気にとられていた。
「これは大変愉快でございます。では、お礼にわたくしが貴方様へ躾を施して差し上げましょう。」
先程まで一切表情を変えなかった執事が、初めて笑みを浮かべた。
その穏やかな笑みに、背筋が凍りつく。
掴んでいた俺の腕を払い落とすように手を離すと、一歩、また一歩と静かに距離を詰めてきた。
「…ッ…や、やめ…っ」
「伊織。そこまでだよ。」
鶴の一声。まるでその命令を待っていたかのように、執事の動きがピタッと止まった。
「仰せのままに。」
「もう、まったく。学園で躾はご法度だよ。」
"王子"は小さく肩をすくめると、困ったように笑った。
周りの女共は顔を見合せ、その笑顔に安心したかのようにクスクスと笑った。
「伊織は少し過保護なんだ。驚かせてしまったなら謝るよ。」
そう言いながら俺へ歩み寄る。
だが、その澄んだ瞳には先ほどと変わらない冷たさが宿っていた。
「君…神城くんだね。お噂はかねがね。僕に何か用があったのかな?」
穏やかな口調。
だがどこにも逃げ場はない。
「あはは、君がそんなに萎縮してるのは初めてみたよ。クラスメイトも驚きだ。
…用がないのならばまた…と、行きたいところだが、
生憎僕の方が君に用があってねえ。」
「…ッ…よ、用って…なんだよ。」
虚勢を張ろうとも、うまく言葉が出てこない。
ガキの頃から喧嘩しかしてなかった。
格闘家の輩ですら俺の拳を受け止められなかったのに。
こいつの執事はそれを平然と成し遂げた。
その事実だけが俺の頭をぐるぐると巡る。
「ここでは話せない話だから、場所を変えたいのだけど…どうやら、それも難しそうだね。」
その言葉に、執事が阿吽の呼吸で小さく頷いた。
その瞬間———
「…っはぁっ?!」
ふわりと体が宙に浮いた。
気が付けば俺は、執事に担ぎ上げられていた。
「ご安心ください。丁寧にお運びいたします。」
「俺様は荷物じゃねえよ!」
——今となれば、
毎日おなじことの繰り返し。
退屈で、真っ暗だった俺様の日常に、
月が登り、太陽の光が差し込んだ。
この時の俺はまだ知らなかった。
数日後、俺が燕尾服を着て紅茶を淹れることになるなんて。
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